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幸福の計算式 結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円!?

「幸福」に値段がつけられるのだろうか。普通に考えたら無理だ。僕はあまりお菓子を食べない。そんな僕がお腹がどうしようもなく減ってしょうがなく食べたポテトチップスとポテトチップスが好きで好きで仕方がない人が食べた時の幸福は当然違ってくる。

普通はだから幸福に誰もが比較できる客観的な指標──「お金」に換算しようとは思わない。しかし本書はそれをやろうとしたのであった。その研究結果は衝撃的だ。たとえばイギリスの平均的な人の場合、子どもが生まれた最初の年の満足度の上昇はその年に約31万円の収入が+でもらえたのと同じくらいに相当する。

最初に子どもが生まれた時、つまり幸せが上昇する時のことを金銭に換算してみたけれど、その反対もやってみることができる。つまり離婚や失業、死別などの悲しい出来事とそこからどのような幸福度の増減が起こるのかである。これもまた興味深い。なぜなら離婚よりも、それどころか死別よりも、失業した際の方が苦しみが長く続くことが結果として出されている体。

本書に載っているグラフをみると失業初年度に幸福度はガクッと下がり、その後女性の場合は段々と持ち上がっていくのに対して男性は下がったままちょっと上がったり下がったりを繰り返してなかなか元の幸福ラインに戻らない。一方配偶者との死別はこれが起こった際の落ち込みは失業の時以上だが、その次の年にはもうほぼ平常時の幸福度にまで戻っている。

この結果から得られるのは夫や妻、子どもの死がもたらす悲しみに順応するのにかかる期間はだいたい一年だ、ということである。人生の大きな悲しむべき出来事がだった一年で癒されてしまうとは、なかなか信じがたいものがある。この癒しのメカニズムにかんして、本書ではひとつの仮説が書かれている。

ようするに、ときは常に注目を必要としない傷だけを完全に癒す。配偶者や子どもを失った時に、最初の一ヶ月、二ヶ月ぐらいは常にそのことを意識して思い出しながら日々を過ごすかもしれない。でも三ヶ月、四ヶ月経つうちに意識に上ることも少なくなってくる。当然悲しいことは悲しいのだろうが、意識に上らない日が増えるにつれ傷も癒えてくる。

一方失業状態はそのことを意識しない事のほうが稀であろう。何かを買いたくてもにお金がない。朝起きてもどこにもいなかくていい。周りの人からは同情、もしくは避けるような態度をとられる。あるいは表に出されなくても勝手に「無職だから何か思われているかも」と意識してしまうかもしれない。

ふむう。たしかにそういう面もあるかもしれないと納得できなくもない。ただ次に知ったことは直感、感情的にはなかなか受け入れることが出来なかった。それは「子どもは私達に大きな幸福はもたらしてくれない」という結論を導く統計だ。調査は子どもがいる人と居ない人を比べるのではなく、同じ人の子どもが生まれる前と後の幸福度を比べることによって行われる。

その結果、調査対象者の90%が子どもを持つことで幸せにはならず、5%はとても憂うつになってしまった。最後の5%はとても幸福な結果になったようだが……。しかしこの結果は僕の周りにも子どもがいて幸せそうな人達がいるので結構衝撃的だ。

わざわざこの例を取り上げたのは「衝撃的だった」ということが伝えたいのではなく、「幸福度」という誰にでも通用する客観的な指標を仮に創りだすことができたら、我々が囚われている認知の鎖をある程度ほぐすことができるかもしれないと思ったからだ。というのも正直言って本書の調査方法、幸福の算出方法にどの程度妥当性があるのか僕にはよくわからなかった。

自己申告制の幸福度調査だから、何か別の環境要因があったとしてもそれを式に反映させることができない。たとえば高度成長期下の若者の幸福度と今の若者の幸福度を比較すると、今の若者の方がかなり高い割合を示す。しかしそれは「未来への希望がある状態」と「未来への希望がない状態」の違いでそうなっているからかもしれない。

未来はもっとよくなる、と信じている人達からすれば今の状態はまだ発展途上で、幸福度でいえば5としても、未来はもうよくならないと思っていれば妥協し今を満喫する他ないので7をつける。ようは幸福にはかなり色々な要素が入ってくるが故に、もっと吟味していかなければいけない点がまだまだあるだろうということだ。それは本書でも最後に書いているけれど。

しかし、それでも幸福度を計算でだそうとする試みはなかなか面白いのである。それは仮に完全とは程遠くても、今までとは違った見方を与えてくれる。無条件に「子どもを生むのは良いことだ」と考えがちだが、幸福度の計算という概念によってこれが覆るかもしれない。

今後注目していきたい問題のひとつ。というかこの問題は僕が仮に研究者をやっていたらこういうことをやりたかったな、と思っていたことだった。けっこうオススメですよ。

幸福の計算式 結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円! ?

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