基本読書

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僕は君たちに武器を配りたい

これは結構いい本だなあ。言っていることはとても筋が通っていて、論理を追っていきやすい。半分ぐらいは退屈な事例の列挙でそこは大変つまらないしありきたりな話にうつってしまうが。それでも面白いのはいくつか斬新な視点があるからだし、何よりここに書かれていることは実際に役に立つ考え方でまとめられている。

本書はこれから社会に旅立つ若者に向けて書かれた本だ。4月1日に紹介するにはなかなか時期が良い本と言えるだろう。僕はこれから社会人になる人達に向けて言いたいことなど何一つないが、本書をオススメしてみるぐらいのことはしても良いと思った。ちなみに僕はここの書評を読んで興味を持ったのでこっちを読んだほうがよい⇒社畜はゲリラ戦の夢を見るか?――瀧本哲史「僕は君たちに武器を配りたい」 - 誰が得するんだよこの書評

本書のテーマはシンプルでコモディティ化した市場で我々はどのように自分の価値を保っていくのかということである。コモディティとは経済用語でいうと個性を失って顧客がどのメーカーのどの製品を買ってもおなじになってしまう状況だ。たとえば松屋吉野家のような牛丼チェーン店とかね。僕もだいたいあんなのどこでも良いから選ばずに入ってしまう。個性のないものがコモディティなのだ。

そもそもなぜ産業がコモディティ化していくのか。それは技術の進歩によって説明される。どんどん技術の進歩が進み、成熟した産業は高度にシステム化され「誰がやっても同じような成果が出せる」ようになっていく。10年前の状況と今の状況は、信じられないぐらいガラリと変わってしまっている。

コモディティ化していく状況は恐怖だ。物事はすべて取り替え可能な物になっていき、個性を失ったAとBが選ばれる理由はもう「どっちが安いのか?」しかなくなってしまう。はてのない残業を重ね、死ぬようなサービス残業の末価格を下げる他なくなる。そんな人材にはなりたくない、と思ったら個性を得なければならない。

ここまでが結構面白くて、ここからはどのようにして個性を出すのか〜という実例ベースの話になる。これは退屈。他人の成功譚って説明には適してるかもしれない。ただまったく結局他人のやり方は踏襲できないし、だいたいコモディティ化する世界で誰もやってない個性が〜とか言ってるのに他人の実例を参照しまくるのはあんまりうまいやり方じゃない。

しかし当然まったく同じやり方をせず、方法論だけを抽出して自分流にアレンジするのが目的だ。そしてそのやり方もかなりシンプルにまとめられるだろう。「まったく新しいものを創りだす必要はない。既存のものをうまく組み直して、誰もやったことがないことをやればいい」もちろんシンプルな法則は「努力しろ」みたいに万能の方策だが実行するのは困難だ。

まあ、だからというかなんというか。本書ではここまで整然と並べ立ててきた理屈を傍目に、最後は興味と関心をもったものにうちこむんだよ!! 自分の信じる道をいくんだよ!! と謎に熱くなっている。それはある意味ここまでの話の否定だがこうした矛盾した態度が結構好きだった。

社会に出てから本当に意味を持つのは、インターネットにも紙の本にも書いていない、自らが動いて夢中になりながら手に入れた知識だけだ。自分の力でやったことだけが、本物の自分の武器になるのである。資本主義社会を生きていくための武器とは、勉強して手に入れられるものではなく、現実世界での難しい課題を解決したり、ライバルといった「敵」を倒していくことで、初めて手に入るものなのだ

結局本書は本物の武器を配ってはくれない。借り物の武器をくれるだけだ。でも、それ以上なんてあるだろうか? 借り物を本物にしていくのは自分なのだ。

僕は君たちに武器を配りたい

僕は君たちに武器を配りたい