基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

悲鳴伝

西尾維新最新長編にして最長長編。最長長編は正直まったくなんにも惹かれることがなく、なんの販促にも寄与していないと個人的には思うのだが、帯ではやたらと強調されている。それに最長長編といえば間違い無く戯言シリーズがそうだろう。まあ、一冊で言えば最長なのだろうが。

ちなみにこの悲鳴伝、表紙に切断王とか大いなる悲鳴とか人類とか正義とかいう文字が踊っていて、「中二すぎる!」と一時期話題になっていたけれど、中身もやはり相当な中二であった。まずあらすじがすごいもの。

あらすじ(Amazonより)

西尾維新史上、最長巨編――西尾維新がはなつ、新たなる英雄譚。地球の悲鳴が聞こえるか。
彼の名は空々空。
どこにでもいない十三歳の少年。
風変わりな少女、剣藤犬个が現れたとき、
日常かもしれなかった彼の何かは終わりを告げた。
ひどく壮大で、途轍もなく荒唐無稽で、
しかし意外とよく聞く物語は、
そんな終わりを合図に幕を開ける。
人類を救うため巨悪に立ち向かう英雄は、
果たして死ぬまで戦うことができるのか!?

もう少しだけ詳しく説明すると、空々空という十三歳の少年は、突如として家族を皆殺しにされ、それどころか関係者をすべて殺し尽くされ、人類を殺し尽くそうとする地球と戦う「ヒーロー」になることを強要される。その半年前には二十三秒間の謎の悲鳴により地球の人口が3分の1になっており、それが要するに地球の仕業なのだという。

なるほど、意味がわからない、といったところで、とても不可思議な話だ。西尾維新流のヒーローものである。そして地球人口を3分の1にする地球の悲鳴とか、限界を超えた中二病でまっすぐにかっこいいと思う。三十歳を超えてなお誰よりも中二(めだかボックスのスキル名とか、気が狂ってたもんね)な西尾維新は、プロの中二病にふさわしい。

ちなみに全8話構成で、それぞれの章タイトルが面白い。
第1話「ヒーロー誕生! 地球の悲鳴が聞こえるか」
第2話「戦え! ぼくらの英雄グロテスク」
第3話「届け必殺! グロテスキック」
第4話「頼れる仲間だ! 狼の血を引く少女」
第5話「炎の戦士! 熱き血潮の燃える魂!」
第6話「幼稚園が危ない! 二人の女剣士」
第7話「さらば友よ! 空を翔けるヒーロー(前編)」
第8話「さらば友よ! 空を翔けるヒーロー(後編)」

どれもスーパーヒーロー物にありそうな、むしろありそうすぎて逆にうそ臭いタイトルたち。そして予想に反してというか、西尾維新の場合はむしろ予想通りに章題の通りなのだが、中身はあまりにもそこから想像されるものとはかけ離れた展開になっていく。届け必殺! グロテスキックの章とか、もうひどいもんな。

実際に面白かったのかどうかというとしごく微妙な話ではある。作中の主人公である空々くんは名前のとおりに空々しいやつで、人が死のうが身内が死のうが「死んだ」ということを認識するだけで、悲しいとかつらいとかいったことをまったく思わない異常なやつなのだが、その異常さを地の文で何度も何度も語るのでテンポが悪い。

さらにいえばそんな主人公なので葛藤も特に無ければ状況の進展だけがある。ドラマは周りの人間が勝手に生み出していくわけだが主人公はそれに対して何も感慨を憶えないわけで、面白くはあるけれどあまり物語的には面白くはないかなあ。ヒーロー物をパロってまるで真逆のことをやるのは痛快ではある。

もっと書いていたい、空々くんの活躍をもっと見ていたいと思ったとあとがきに西尾維新は書いているが、書きやすい主人公ではあっただろうなと思った。何しろ感情に動かされないので、動かされるのは状況だけなのだ。状況を都合よく配置しておけば、空々くんは自動的に合理的な道を選択して動いてくれる。

一方で、何も感じない少年が、人としての心を取り戻す、といった内容にならなかったのは楽しかったです。そうだよね、それって偉大な成長だよね、と終わりを迎える。なにぶん結構変な小説であるので、いくつか感想が気になって読んでみたけど、後味が悪いという人が数人いるようです。でも僕は空々空の物語として、これはすっきりした終わり方だと思うな。

悲鳴伝 (講談社ノベルス)

悲鳴伝 (講談社ノベルス)