この本、めっぽう面白いです。
僕は社会の豊かさとは「選択肢の多さである」と考えていますが(選択肢が多すぎると、逆に選ぶのが難しくなってしまうので単純な問題ではないのですが)、その為「大量生産、大量消費」というものづくりのスタイルは通用しなくなりつつあります。
大量生産、大量消費とは言ってみれば「全員が同じ物を使うことによって、大量に作って、結果コストを下げる」方法論なわけです。物が豊かになり技術が進歩した現代では、よりパーソナルな物を選択したくなるのが道理だと考えています。
しかし一つ一つオーダーメイドしていくと非常にコストがかかります。たとえば従来通りのものづくりで言えば、型を用意して樹脂を流し込み、製品を流れ作業で作っていきます。型を用意し、生産のラインを敷くためには非常に高いコストがかかり、試しの品を一個作るのにも何ヶ月といった時間がかかります。
そこで出てきた技術が本書のタイトルになっているインクジェットで、けっこう驚きの技術。単なるプリンターの印刷のなんちゃらでしょ? と私は思っていたのですが、これがなんと今では「材料の細かな粒をデジタル制御し、3次元の立体として瞬時に作り上げる」ことができるようになっています。
イメージしづらいと思いますが、たとえばコップを作るのにこんな工程をたどります。①まな板の上に原料の粉を盛って、②グラウンドを整備するとんぼのようなもので平らにならし、③上から固める液をインクジェットで噴射し、④固めた後は1にもどる
これを一層、二層、三層と繰り返すことによって立体を形づくっていきます。コンピュータ上のデータを元に、そのまま立体の模型を出力するような技術はラピッドプロトタイピングと呼ばれます。設計の途中段階でもすべて模型で確認できれば、間違いに気づいたりや修正もしやすくなる為、クォリティが上がります。
携帯電話のような電子機器は製品サイクルも速いため、ラピッドプロトタイピングなしでは開発が成り立たないほどだそうです(本書に書いてあったことをそのまま書いているだけなので、本当かどうかはよくわかりません。でもほんとだったらすごいなあ)。
またちょっとだけ未来の話として、インクジェットで人工の骨を創って、これを患部に埋め込むという研究が進んでいたりします。元々人工骨を作る技術はあったのですが、患部にぴったりあうように作るのは非常に困難だとされていました。
インクジェットならその課題を解決できると考えられています。すでにこの技術を使って作られた骨を患者に移植する手術の成功例もあります。他にも生きた細胞をインクジェットで打ち出して人工心臓を作ろうなどという研究もあるそうです。こちらは実現可能かどうかすらよくわかりませんが。
とまあこんな感じで、ものづくりでちょっと面白い技術があるなあという話でした。この技術が破壊的なイノベーションになってすべてを一変させるか? というとまったくよくわからないんですけど、でもわくわくさせる話だと思いません? 家が1時間で創れるかもしれないんですから(僕が最初に思いついたのは、ドラゴンボールのホイポイカプセルでした)。
インクジェット時代がきた! 液晶テレビも骨も作れる驚異の技術 (光文社新書)
- 作者: 山口修一,山路達也
- 出版社/メーカー: 光文社
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