基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

WE3 ウィースリー

いやはや凄かった。通勤中の満員電車の中で読んでいたのだけど、こいつは家で読めばよかったと後悔した。かといって続きが気になって仕方がないので、途中で止めることも出来ずに、最後まで読みきってしまった。とにかく内容が濃密なのだ。シナリオは削りに削られた映画のように圧縮され、絵はしばらく目が離せないほど情報が込められていて、物語と絵による溜めと解放感は綿密に計算されている。

ストーリーはシンプルだ。米空軍最高機密研究施設の奥深くで、サイバネティクス技術における革命──3匹の動物……犬、猫、ウサギ、をまったく新しいサイボーグとして、生命と金属を重ね合わせ生みだした。さらには人間の言葉をかたことながら話せるばかりの知能を与えられている。WE3とコードネームをつけられた3体のプロトタイプが物語の主軸になる。

こいつらはサイボーグだから、アーマーをつけているんですけど、このアーマーがねえ、超かっこいいんですよね。3匹とも四足歩行動物で、アーマーは二足歩行形態などにするのではなく、現在の形態をそのまま拡張したような形で作られているのです。デザインは機械的で、丸みを帯びているんですがとってもシャープなのだ(矛盾している?)

3匹はスペシャリストのチームとして行動するように訓練をうけいたが、所詮プロトタイプとして生まれた存在で、暗殺計画に成功したところで廃棄が決定されてしまう。彼らは(彼女らは?)、人間の手助けを受けて研究所からの脱出をはかる。3匹は危険な存在であり、野放しにしていいわけがない。それ以上に当然研究所はそんな研究をしていたと世間に知られたら大目玉なので決死の覚悟で追いかけるが……というのが大まかな筋だ。

動物達は自由と、生き延びることを目指して逃げ、時には戦う。目的は、オウチだ。「『オウチ、カエル』『オウチ? 1ゴウ、ソレバカリ 1ゴウ、ナニモシラナイ』 『オウチッテナニ?』『オウチ?  ニゲナクテモイイトコロ』」

3匹とも別々の動物ということもあって、非常に種族ごとの個性が出ている。たとえば犬は人間に言われたことは愚直に信じてしまう(その信頼ゆえに、裏切られたときの悲しみは深い。ハイ・キ……イヤダ……と悲しげな表情で語る犬を見たら、もう涙が止まらん。犬に喋らせたらあかん。)。3匹をまとめ、共に逃げなくていい場所、オウチヘカエロウという犬に対して、「オウチッテドコダヨ」といいつつ個人行動をとろうとするのが猫だ(といっても、結局一緒に行動しているが)。

本作はただの「虐げられている可愛そうな動物が、邪悪な人間から逃げ延びる話」ではない。アクションが主体であり、人間の内面などは多く語られることはないが、さまざまな立場の人間、思惑の人間が出てくる。たとえば研究所から3匹を逃がしたのはほかならぬ研究員であるし、そもそも3匹は一方的かつ理不尽に兵器にさせられたのだが、得た力を使って、自分たちが生き延びる為に、人間を殺す。

決して可愛そうなだけの存在ではなく、三者三様の生き方がある3匹だが、共通していることが一つある。それは「生きるためには、決してあきらめない」姿勢である。血だらけになり、凶悪な敵が襲いかかり、どんなにぼろぼろになっても生きることを諦めたりはしない。現代のように生きていることが当たり前になってしまうと、「生きたい」と願うことはあまりなくなってしまう。が、動物の立場を主役に据えた本作を読むことで強烈に久しぶりに「生きたいという願望」を意識させられた。

ストーリーがシンプルだからこそ、演出上の冒険がいくつも行われている。しかもそれは単なる「目新しくはあるけど、奇抜なだけだな」というがっかり新技法とは違い、面白さに直結しているのだ。たとえばひとつ、とても凄かった表現について。3匹が脱出する場面で、延々と6ページほど、6×3にマスが区切られて、監視カメラの映像が描写される。

監視カメラなのでいろんな場所が映るのだが、それぞれで状況が進行していき、何かが起こっていることが段々と見えてくる。脱出が成功するのか、それとも……と言ったところで緊張感が高まっていき、これが最高潮に達したところで見開き2ページで夜の風景を飛んで逃げる美しい3匹の脱出シーンが描かれる。この溜めからくるカタルシスが表現と合わさっていて、物語に引き込まれてしまう。

満員電車で読み出したときの気分は、ちょっとリラックスして軽く読んでいこうぐらいの気持ちだったのだが、映画を見たときのように体力を消費して充実感を得た。2000円と漫画として考えるとちょっとお高いが、一本の綿密に構成された映画を手元にいつでも読める形で置いておけると考えれば、幸せな買い物だった。アメコミっていう文法もまた素晴らしいな、って本作を読んで初めて思った。ハマっちゃいそう。

WE3 ウィースリー (ShoPro Books)

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