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ウェブはグループで進化する ソーシャルウェブ時代の情報伝達の鍵を握るのは「親しい仲間」

『ウェブはグループで進化する ソーシャルウェブ時代の情報伝達の鍵を握るのは「親しい仲間」』。著者はGoogleソーシャルメディアの研究を主導し、現在Facebookに勤めているという、ソーシャルメディア畑の中の人です。GoogleからFacebookには人材がどんどん流れていると聞きますが、これもまたその一例ですね。

本書は人の社会行動に関する法則を集めた入門書であり、人の社会行動に関する部分をどうウェブサービスに活かしていくのかといった観点で語られていきます。入門編ですけど、論点はシンプルでかつ面白いです。論の流れを下記に簡単にまとめてみました。

1.ソーシャルネットワークは新しいものではない。
現代のコミュニケーション技術を使えば、何百、何千といった他人とつながることができるにも関わらず、実際僕達がSNSを使ったとしてもつながれる人数には限りがあることがわかっています。携帯電話のアドレスに何百人も登録されていたとしても、その中のたった4人を相手にした通話が、通話全体の80%を占めます。またつながりのパターンとして、150人以上のグループは集団を維持することが難しいという研究結果があります。Facebookを代表とするSNSでもこの壁をやぶれてはいません。

人々が何千年もの間、オフラインで行なってきた社会行動が、いまオンラインに移ってきていると言える。ソーシャルウェブの登場といっても、単にオンラインの世界がオフラインの世界に追いつこうとしているだけに過ぎない。

2.SNは独立した小グループがかすかに重なりながらつながっていて、最小の4人程に焦点を当ててマーケティングをするのがいい(インフルエンサーはいない)
まずはインフルエンサーの説明から。これはマルコム・グラッドウェルというベストセラー作家の書いた本の中に出てくる概念で、「強い影響力を持つ人々が社会の中に存在する」という前提を立て、その人達にアプローチすればインフルエンザのようにときには何百万人の人々に波及していくという考え方です。一時期これについて盛り上がっていた時期もあるのですが、今では大方ただの思い込みであるという実験結果が出ています。

たとえば「この情報を伝言ゲームのようにして知人に話して、最終的に小泉総理大臣に届けて欲しい」と云われた時に、人々が情報を伝えるのに選んだ相手は「最もつながりを持っているだろう」と考えた人ではなく、「この人ならメッセージをさらに誰かに伝えてくれるだろう」「ゴールの人物と共通点を持つだろう」と考えた人だったのです。影響力の大きい人は確かにいますが、それは活用されない場合が多いでしょう。

その為本書では「最小のグループ構成人数である4人に的を絞ってマーケティングしろ」と言います。なぜなら4人はそのグループを構成している人数ですが、彼ら彼女らもまた別の4人のグループに属している人達なのです。だから4人をターゲットにし、4人を巻き込めるのだったら、周囲の人間も巻き込めるはずという考え方です。

3.SNの情報伝達の構造は主にイノベータ・ハブとフォロワー・ハブの二つ
ジェフリー・ムーアは著書『キャズム』においてなだらかに立ち上がっていき(イノベーター)、ついでちょっと上がり(アーリーアダプター)ぼこっとお餅みたいに膨れ上がる(アーリー・マジョリティ&レイトマジョリティ)グラフをつくり、マーケティングで成功する為にはアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間(キャズム)を超えなければならないと指摘しました。

このグラフでいうところのイノベータがイノベータ・ハブであり、アーリーマジョリティとレイトマジョリティのところにあたるのがフォロワーハブです。前者は新製品を受け取るのにハードルが凄く低く、多数の人に紹介しますが後者は新製品を試そうというハードルが高いので、マーケティングはこれら両者それぞれに対して戦略を変えていかなければいけません。

4.ビジネスは人中心型へと移行していく(情報が過剰になり、近しい人間の情報を当てにするようになるから)。
ほとんどそのままですが、僕達が入手可能な情報量は爆発的な増加をしている最中であって、でも人間の処理能力はそんなに一気に増えたりするわけではないので、そのまま情報の海に放り出されても溺れてしまいます。なので僕達は親しい友人からのアドバイスを期待するようになります。

5.人間の脳・認知分野における社会行動に関する知識がマーケティング担当者には必要不可欠になっている。
その為、優れたマーケティングやデザインを行うためには今後人の社会行動に対する知識が不可欠になってくるというのが本書の結論部分にあたります。まあそうですよね、って感じですが認知機能を分析してそれにぴったり快感原則に従うように誘導されるのは、やりすぎるとかなり不愉快かつあまり楽しくない事態になると思います。

たとえばTwitterはいま最も成功をおさめている部類のソーシャルウェブサービスですが、あれも人間の認知機能を利用しているでしょう。あれは自分でfollow(人の呟きが見れるようにする)数が決められるため、人間関係のパターンをある程度自分で制御することができます。またTwitterはシステム上人間の情報探索を続けたいという本能を刺激する形になっています。

脳の画像解析による研究では、報酬を得た時よりも報酬を期待している時の方が受ける刺激が大きいそうです。Twitterは人の発言が黙っていても流れてくる為、「3件の新しいツイート」というように常に報酬が与えられるシステムになっているのです。報酬を得られたり、報酬を期待しているとドーパミンが脳内で生み出されますが、これは情報が少量ずつもたらされるときに、もっとも強く活性化されます。

140文字のツイートのような継続的に少量ずつ、しかも予測不能な形でもたされた時に、人は自分の意志とは無関係にドーパミンループにハマりこむ危険性があります。もちろんその危険性を自覚し、自制できればいいのですが。認知機能、本能に関わる部分をつこうとするとどうしても「どこまでやったらやり過ぎなのか」という線引が問題になってきます。

なので今後マーケティングやデザインが人の認知機能をよく把握した上で仕掛けられるのだとしても、ソーシャルゲームの射幸心を煽るといって規制されたコンプガチャのように、どこかでルールを作らなければいけないのではないかと僕は思います。

ウェブはグループで進化する

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