『毒になるテクノロジー iDisorder』を読んだ。現代のようなテクノロジーが溢れかえっている状況にあって、危険性を「精度が高く」認識するのは特に重要だろうと思う。ネットの危険性を挙げたものでは『ネット・バカ』とか反対にネットやゲームがもたらした良い効果については『ダメなものはためになる』などがあるけれど、どちらも両極端すぎて誠実なものではない。本書はテクノロジーがもたらす良い効果を認めた上で、危険性とその対処法をあげていく。
もはや当たり前のような状況になってしまったけれど、よくよく考えてみるとおかしい、という状況が結構ある。ご飯を食べる時、食器の横には常に携帯電話やスマートフォンがおかれ、人と会話をしている時でもたえず操作している。勉強をしている時や、何か他のことをしている時でもついついFacebookを開き、Twitterをみて行動が細切れになる。着ても居ない着信を着たと思い込んで何度も携帯を見たりする。
これは全部僕のことでもある。僕はいつも本を読む時、自分のベットの上で読むのだが、その横にはノートパソコンがおいてあり常にTwitterのタイムラインが表示されている。ディスプレイが見える状況だと、3分に1回(!)程度の高頻度でついつい更新された発言を読みたくなってしまう。集中は途切れ、とても本など読めないので集中したい時はパソコンは閉じるしかなくなっている。
他の例もあげよう。ネット上の匿名掲示板だからという理由で普段使わない荒々しい言葉で相手を罵ったりスル。さらには少しでもテクノロジー、ネットや携帯から引き離されると強い不安を感じる。本来メールに即座に返信を返さない理由はないし、ネットが見れなくなって困る理由なんてないはずなのに。もちろんテクノロジーは、どれも「中毒」とでもいうべき状況にならなければ有意義なはずだ。
たとえばネット上、文字上のコミュニケーションでは普段人付き合いが苦手な人間でも抵抗感なくやり取りが行え、コミュニケーション能力の向上が認められることがわかっている。しかし文字上だけのやり取りが本物でありそこ以外に価値を認めないようになると立派なテクノロジー障害のひとつのようにみえる(正式に病名として登録されてはいないが)。テクノロジーを使用する上での最善策は使わないことでも、頼りすぎることでもない。バランスなのだ。
僕がこの状況に関して怖いな、と思っているのはTwiterやFacebookのような利用者が増えれば増えるほどいいサービスの提供者にとって、使う時間が増え、滞在時間が増える戦略をとるのが当然ということだ。人間の理性は完璧ではなく、脳はトリガーを引かれると簡単に注意を引きつけられる。たとえばTwitterのようなシステムは人間の「情報を探索し続けようとする」本能を刺激し、必要以上にのめり込みやすくさせる仕組みを持っている。
いずれ煙草のように、Twitterの表示画面に「Twitterはあなたの注意力を散漫にさせる効果、あるいは熱中させすぎる可能性があります」というような文言が盛り込まれなければいけなくなるかもしれないが、今のところそんな規制はない。送り手側が意図的にしろ無意図的に長く作ってもらおうという設計にしたにしろ、危険性の認識と対処は受け手側で行うしか無い。
第1章 iDisorder:誰もがおかしな行動をとり始めている
第2章 SNSという名のナルシシズムなメディア=私、私、私
第3章 24時間365日のテクノロジー・チェック
第4章 テクノロジー・ハイ:スマートフォン、SNS、メール中毒
第5章 浮き沈みのサイバーライフ:仮想世界の共感と躁うつ
第6章 マルチタスクの甘い罠:テクノロジーが注意力を奪っていく
第7章 対面と画面越しのあいだ:アイデンティティの実験とコミュニケーション障害
第8章 死の恐怖に取りつかれる:痛みへの過剰反応とサイバー心気症
第9章 1グラムでも痩せたい:変わる身体イメージと摂食障害
第10章 妄想、幻覚、対人回避:テクノロジーが統合失調症のようにふるまわせるのか?
第11章 見たがる私たち:覗き見趣味とセクスティング
第12章 すべてはあなたの心のなかに
本書ではテクノロジーによる起こりえる精神疾患の可能性(ナルティシズム、強迫神経症、依存症、抑うつ症、注意欠陥、対人恐怖反社会的人格障害心気症統合失調症窃視症)などが取り上げられている。病名がつけられるほど深刻でなくても、「あれ? 私テクノロジー中毒かも??」と思うだけでも、結構な効果があると思う。
かくいう僕もこの本を読んでいる最中に、広い公園にBBQをしにいって、タイミング的に独りになったときにスマートフォンをいじろうとする自分がいた。なので自制してみた。せっかくの自然な公園とBBQなのに、スマートフォンをいじっていていいこともない。テクノロジーに触れるのはいつでも出来るが、その間脳は興奮状態にあり、休む時間も必要なのだ。
- 作者: ラリー D.ローゼン,ナンシーチーバー,マークキャリアー,児島修
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2012/08/24
- メディア: 単行本
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