いしたにまさきさんにより2012年9月22日時点での新刊。今度のテーマは書斎か。
いま「書斎」に眼をつけるのは慧眼という他ない。このタイトルをみたとき「わあ、そうか書斎か」と思って嬉しくなりましたよ。グローバル化により安いシンプルな労働は海外へうつされて我々先進国の人間がやる仕事は「高度」かつ「専門的技能」を要する物に段々とシフトしていっておりますが、この専門的技能といったやつは簡単に身につけられるものではないのです。
あまり根拠のない説ですが、プロになるほどの技能を修得するためにはたいてい1万時間の壁が存在しているという話があります。まあプロになる必要があるのかといえば微妙なんですけど、今のような「単純な知識」がネットですぐに手に入ってしかも世界中でそれが起こっているような状況で価値あるものが何かといえば「時間をかけなければ習得できない技能」であるわけで。だから今こそ「集中してまとまった時間、仕事をすることができる」書斎が重要なんだというわけです。
読んでいて思ったのだけれども、書斎っていうのは見ているだけで楽しい。「仕事の空間」っていうか「職人の空間」っていうか。構築しようとする人間の意図や意志といったものがみえてくるので、それが面白いのかもしれない。本書では書斎について1.こもることができる空間であること。2.集中するための仕掛けが揃っていること。3.本 という3つの要素があるといいます。
基本的にどこで仕事をしてもいい作家さんなども、Twitterを見ていると大抵別に「仕事場」を持っています。おそらく家と仕事を切り離すことで、集中するためのスイッチを入れているのでしょう。物理的に余計なものから切り離されていることも重要です。
僕はそれに加えて「あらゆる情報」から切り離されていることまで含めて本当の「こもる」なのではないかと思うのですが、いしたにまさきさんはその点については物理的には閉じられているが、情報的には開かれている書斎を提唱しているので意見が異なります。正直言ってテクノロジーの最大の害悪は「注意が細切れにされてしまうこと」で書斎に最もいてはいけないものだと思うのですけどね。
あとはすげー本棚を持っている書評ブロガーの小飼弾さんの本棚の写真と、本棚についての話が面白かったです。かなり共感できる内容でした。
本棚の大きさについて、ある意味で自己否定とも取れる「僕は、自分の本棚が大きいことは、自分のバカの証だと思う」という発言もありました。そもそも賢者であれば、本は十分に取捨選択できるので、それほど大きな本棚を必要としないというわけです。そして「僕はバカ力もあったから、大きな本棚を作った」と、本棚作りを振り返りました。
僕は正直言って物理的な本が部屋を圧迫していくのが嫌いで、ガシガシ捨てますし唯一ある本棚はスカスカです。残そうと決めた本も定期的に捨てていくんですけど、そうすることで本棚が洗練されていくんですよ。読み返しもしない無駄な本をたくさん貯めこむのは僕は嫌いです。邪魔だし。
といってもこの感覚は、本が好きだからこそ愛憎産まれてしまう、と自分では思ってます。邪魔で邪魔で仕方がないと思うだけ買うから、それだけ憎くもなる。だからこそ自分では決してつくらないでっかい本棚を、こうして楽しんで積極的に読めるのでしょう。
空間のつくり方、家具の選び方などもあって刺激的な一冊でした。僕もいつか書斎を創ろう(今は未だ無理……。)
- 作者: いしたにまさき
- 出版社/メーカー: インプレスジャパン
- 発売日: 2012/09/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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