基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

脱貧困の経済学

まあ軽く。雨宮処凛さんと飯田泰之さんの対談本。評判がよいのでちくま文庫で最近出たのを読んだのだけど、これがまたおもしろい。雨宮処凛さんが元フリーターで現場を主として活動する人だというのは知っていたのですが、そうした「現場の貧困の声」と「経済学者としての合理的な解答」との対談がまたバランスがよくておもしろかったです。また取り上げられている問題が、本書が出た2009年とまるで変わっていないので今のままでも全く問題なく通用するのが面白い。

取り上げられているの書名の通り「貧困」がなぜこんなにも増えてしまったのかという問題です。貧困といっても普通に仕事して普通に生活している分にはあまり気にならないもんですが、実質僕の世代の人間は(特に僕の友人・後輩たちはみな)フリーター・無職率が急増しており、親がいるからなんとかなているものの、皮をひとつ剥けば危機感が膚で感じられるぐらいに迫ってきている。

で、原因として国際競争力の激化とか、そもそも機会化・IT化が進んで職がなくなっているなどと色々言われますが、本書で(というか飯田泰之さんが)提唱しているのは「景気が悪いから」貧困層が拡大しているのだということです。言われなくても当たり前とも思うわけですけどその説明がまたわかりやすく面白いのでちょっと解説します。

仕事は機械化される・されないに限らず、人間がやるものですから時間がたてば「勝手に効率化」されちゃうもんなんですよね。まあもちろん漫然とやっていたら劇的な改善はないわけですけど、それでも年数%は効率化されちゃう。そうすると、事業として売上も規模も大きくなっていなかったら必然的にうまくなった分の数%はどこかでカットしなくちゃ帳尻があわないですよね。

そうすると必然的にいらない人が出てきてしまう。だから経済成長をゆるく2%ぐらいで目指しましょう。そうはいってもどうすればいいんだってなるんですけど、経済学ではその答えはもう出ていて、金を刷ってばらまけばいい。20兆円ぐらい日本銀行の協力でもって金を捻出して、それを個人に12万円給付してばらまけば必然的にインフレになります。

これについては様々な本で詳しく説明されていて、たとえば最近出て話題になっていたクルーグマンの『さっさと不況を終わらせろ』とか片岡剛士さんの『円のゆくえを問いなおす: 実証的・歴史的にみた日本経済』でも本書と同様のシンプルな主張が語られています。後者の方がより厳密にデフレがなぜ悪いのか、具体的にどのような策をとればいいのかを分析していますが難しいです。

重要なのは「これから先も物価は上昇していくのだ」という期待を煽ることだ。だってそうしないとみんないくら金が出回ってきても「貯蓄しよう」といってまったくインフレにはならず結局本当に物価は上昇せずデフレが続く。なので実質的にやろうとしたら「インフレ目標」として数値をあげ、実際の手段を提示して「ホントにやるんだぞ」ということを明示しなければならない。

インフレのいいところは金利がゼロの状態でコレ以上借りる人もいなければ借りるメリットもないという人達が、これから上昇していくのなら借りたほうが得だという思考に変わっていく事だというのも共通した理解です。インフレになれば金が借りやすくなり、借りやすくなれば事業が大きくなり、事業が大きくなれば雇用も改善すると、単純化してしまえばそういう理屈ですね。

飯田泰之さんの主張は上記のようなインフレによる経済成長2%を目指すことが一つの軸で、もう一つが再分配政策についてです。こっちもまた単純で、何が悪いのかといえば「金持ちを減税して貧乏人に増税したから」となる。税には累進性と逆進性、そしてフラットがある。累進性は所得や財産が多いほど多く課せられる税で、逆進性はその逆。フラットはたとえば消費税だ。

累進性はたとえば所得税。その逆ってなんだよと思うんですけど、金持ちと貧乏人に同じ額の負担を求めればそれは逆進性になる。同じ10万円でも金持ちにとっての10万円と貧乏人にとっての10万円は価値が違いますからね。で、それが日本の場合は年金制度である。一人あたり1万5千円ぐらいの負担が貧富に関係なくかされていて、これは逆進性の税だ。

日本は累進性が高いと問題になりやすいが実質先進国諸国と比較してみるとかなり低い。それどころか年収が2000万円を超えるとさらに低くなり、先進国中で一番下になる。GDPと税金の負担率の比でみても日本はアメリカの一個上で下から二番目とかなり低めに設定されているが、その為再分配がうまくいっていない状況がある。

と本書はこのような問題をざっくばらんに、雨宮処凛さんの現場意識と飯田泰之さんのグラフ、数値をつかった経済的対策案との両輪で進んでいくのでおもしろかったです。それにしてもどの本を読んでも同じ事を書いてあるんだけど、なんで実行されないんでしょうね。よくわかりませんな。

脱貧困の経済学 (ちくま文庫)

脱貧困の経済学 (ちくま文庫)

さっさと不況を終わらせろ

さっさと不況を終わらせろ

  • 作者: ポール・クルーグマン,山形浩生,Paul Krugman
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/07/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 12人 クリック: 404回
  • この商品を含むブログ (54件) を見る
円のゆくえを問いなおす―実証的・歴史的にみた日本経済 (ちくま新書)

円のゆくえを問いなおす―実証的・歴史的にみた日本経済 (ちくま新書)