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「ネットの自由」vs.著作権: TPPは、終わりの始まりなのか

おお、適当に手にとって読んでみたんだけどこれは面白い。著作権ってのはその性質上いろんな問題に絡んでいるので勉強するとあれとこれとかに話題がつながってきて遊びで読んでいる分には楽しいのです。本書はおもに、TPPにおける知財・情報項目のルール共通化についての是非についての内容となっております。

TPPといえば焦点となるのは関税の撤廃によって日本の農業が死ぬ〜みたいな話だという印象がありますが、実は米国政府は知財・情報項目をTPP交渉の重要分野と位置づけているらしいのです。なぜかといえばコンテンツとITが米国の主力事業となっているから。本書はTPPに盛り込まれそうである条文案を「なぜこの条文案になっているのか」「日本と米国の違い、事情」をメインにして語っていきます。

端的に言ってしまえばこの条文案はすべてコンテンツ輸出大国である米国に有利とはいえません。まあほとんど有利になるようになっていますけど、そうとは限らないルールもある。TPPの目的は簡単にまとめると関税の撤廃と共通のルールづくりによる市場拡大です。なので米国の陰謀というよりかは、自国ルールを共通化したいというところでしょう(変える手間がないから)。

そういう意味で言うと米国が提示している(とおもわれる)知財関係における条文案は、アメリカに従えみたいな感じにみえます。ただ正直言ってこれは条文案であって、米日の二国間だけで話し合うわけでもないのにそんなに過敏になってどうすんだとも思うんですが。大体交渉ごとで自分が有利になる為の案を出すのは当たり前です。わざわざ自分が不利になる案を出すわけがないので。

問題は関係者間でそこからどれだけ自分の出した案よりにするのか、すりあわせられるのかというのが本来の交渉ってものですからなあ。もっとも僕らにはそこでいったいどんな話し合いが行われているのかさっぱりわからないので怖いのですが。でもだからこそどういう可能性があり得るのかを含めて状況の把握として日米の違いをみていくのはいいことなんですよね。

仮に知財分野でマイナスがあっても、全体としてプラスになるんだったら推進してほしいんですけど僕が交渉に参加するわけでもないので別にどうでもいいなあとも思ったり。交渉すること自体には賛成派です。はてさて話がそれましたが、では米国有利の条文案(多分)をちょっとみてみますか。

一例をあげれば著作権保護期間の大幅延長。日本では小説・音楽などがだいたい死後50年間、映像作品が公表後70年となっています。

欧米では90年代に相次いで死後50年から70年に20年延長しているそうです。で、これがなんで問題になってくるかというとたとえば欧米で70年でも日本で50年だったら、日本で著作権が切れちゃえばアメリカがいくら著作権を延長しようが関係ないんですね。勝手にオズの魔法使いとかミッキーマウスのDVDを売ったりしまくっていいわけです。

で、ミッキーマウスとかを日本で使うときには「ライセンス料」も払っているんですが、これも払わなくてよくなる。そしたら米国が自分だけ著作権を延長しても、微妙ですよな。日本のコンテンツの海外からの収入はこのアニメ大国なのに意外や意外、米国の数十分の一の1300億円でしかありません。国際収支は年間5700億円の赤字!

仮に日本のコンテンツ収入がとてつもなく大きければむしろ日本にとって有利にもなるはずですが、そうではないのでこっちにとってはまったく旨みがありませぬ。他にも非報告罪化(被害者の告訴がなくても起訴が可能になる)、法定賠償金(実損害の有無にかかわらず、裁判所がペナルティも含めた金額を決めて賠償金の支払いを命ずることができるようになるルール。これにより余計な手間がかからずお金がとりやすい)

DRMの単純回避規制(現状日本ではDRMをはずしておこなう複製が違法だが、DRMを外しただけで違法に。複製したかどうかは関係がない)。他にも音や臭いにも著作権をとかいろいろあるんですが一言でいえばその方針は先程もいったように「米国のルールに合わせろ」でありつまるところ「著作権の強化」であります。

本書の主張は「TPPみたいな条約は、知財制作には危険なんじゃない」って感じです。第一にTPPのような各国が参加するルールをつくるとルール変更、追加などの柔軟性が失われ、特にネット上のような変化の激しいところではそれがうまく機能しなくなる可能性があること。第二に国際条約が基本的に秘密交渉がとられるため、関係者が議論に関与できないこと(これはぶっちゃけ参加させればいいだけの話)

第三にポリシーリンダリングの民主的正当性をあげています。国際交渉で決めてしまって、それを日本に輸入することで一気に法律を決めてしまおうというところ。内だとなかなか決められないから外で決めちゃって内に持ってこようってのはそれどうなんって話ですね。まあ、どうなんだろう。この点はよくわからないな。問題なのか??

「ネットの自由」vs.著作権: TPPは、終わりの始まりなのか (光文社新書)

「ネットの自由」vs.著作権: TPPは、終わりの始まりなのか (光文社新書)