コリン・パウエル著。だれかといえば元アメリカ国務長官である。軍人でもあり、陸軍大将まで上り詰めた。日本で出版するにあたって『リーダーを目指す人の心得』とありきたりなビジネス書のタイトルのようにされてしまっているが、原題をそのまま訳すと『私はこれでうまくいった』である。こちらの方が誠実で僕は好きだ。著者の来歴について下記に簡単にWikipediaからコピペしたものを載せておこう。
大学卒業後にアメリカ陸軍に入隊。1958年、陸軍少尉に任官。ドイツ勤務を経てベトナム戦争に従軍し、二度負傷した。ニクソン政権時代には「ホワイトハウス・フェロー」に選ばれた。レーガン政権では国家安全保障担当大統領補佐官(1987年 - 1989年)を務め、ジョージ・H・W・ブッシュ政権では、アメリカ軍のトップである統合参謀本部議長(1989年 - 1993年)として、パナマ侵攻や湾岸戦争を指揮。特に湾岸戦争は、ベトナム戦争と不況で傷ついたアメリカ軍の威信を回復させ、ニューヨークで凱旋パレードを受ける名誉を受けた。
まあいわゆる自己啓発書といってもいいだろう。一番最初にコリン・パウエルのルール(自戒13ヶ条)が書かれており、「やればできる」とか「冷静であれ、親切であれ」のような文字列が並んでいる。それを読んでいくと大抵の場合は気分がどんよりとしていく(言われるまでもなく圧倒的正論であり、読む前に何が書いてあるのか9割方予測できてしまうから……大抵の場合は。)のだが本書は違った。それはなぜかといえば、逸話を読む楽しみがあるからである。
コリン・パウエル氏は何しろ現状世界で最大の組織を背負って決断を下してきた男であり、何を語るにしても国家規模の問題が事例として引き合いにだされる(たとえばイラクへの派兵を決めた時の失敗なども赤裸々に語られる。*1 )そうした物語を楽しむことで教訓も身にしみてくるのだ。
そして僕は自己啓発書にとって足りないのはまさにその「物語」なのだと僕は思う。なぜなら結局人は「自分自身で確信を持ったこと」しか(特に継続的な努力など大きな代償を必要とするものほど)実行できないものだからだ。そしてよくできた物語、逸話はもう一つの人生、側面を感じさせ、それを自分のことのように錯覚させてくれる。
この件についてはまあまた別の機会にでも書くとして。本書に出てくる問題は僕のような一サラリーマンからすれば大きすぎる問題ばかりで、そのままでは当然使えない。だから当然それを自分の現場で活かすためにはどう抽象化し、抜き出すのかは読み手に任される。
たとえば領土問題をどのようにして解決したのかという話が出てきてちょっとご紹介しよう。日本からすればタイムリーな話だがこの手の問題は世界中で起こっている。モロッコの沿岸、ペレヒル島という岩が海から突き出ているだけの小さな島。これは400年ほどスペイン領になっていたのだが、モロッコがこれに対して領有権を主張している。
まあ主張しているだけならどうでもいいのだが2002年にこの島をモロッコが占拠。当然スペイン人は怒り狂いEUを通して「遺憾である。スペイン領に対する侵犯である」と生命を発表。対するモロッコもイスラム諸国会議機構に訴え、支持をとりつけ事態は泥沼化に。どちらもより大きな組織の後ろ盾を持っており、それぞれ脅し合っているような状況だ。
パウエル氏は第三者的な米国という立場から調停をとりなし四方に電話をかけ、調整し、なんとか400年間そうであった状態に島を戻すことができた。まあそれしかないよな。とまあそんなことを聞かされても僕らは別に日常生活の上で領土問題を抱えているわけではない。*2
まあリーダーたるもの余所の問題であっても頼られれば解決しなくてはならない、といったところだろうか。自分に関係がなければとりなしたからといって直接的な利益があるわけでもないが、自分にしか出来ない問題の解決というものがリーダーには存在する。結局なぜ組織に階級や役割があるのかといえば、それぞれの立場でしか出来ない「問題の解決」があるからだ。
人間の仕事というのは基本的にトラブルへの対処なのだ。トラブルが100%起こらないんだったらそこに人間なんて必要なく、システムを構築すればあとはずっと回せるんだから。そこに人間の仕事があるというのはイレギュラーなトラブルがあることと同義。リーダーはリーダーという立場でしか出来ない「解決」を行う必要がある(先のたとえでいけば、米国は世界のリーダーといったところか)。
本書で語られている逸話はどれもいい話なのだけど、特に気に入ったレーガン大統領の話をして締めにしよう。パウエル氏は1988年レーガン大統領の国家安全保障担当補佐官だった。ある朝、ある問題について話しあう為にパウエル氏はレーガン大統領のオフィスを訪問した。いるのは二人だけで、パウエル氏は大統領の左側にあるソファの端に座った。
そこでなんだかややこしい問題をかなり詳しく大統領に説明し、今日中に解決しなければならないと訴えた。ところが大統領は話に身が入らないようで、よそ見ばかりしている。パウエル氏は声を大きくしてより詳細に話をして、とにかく注意をひこうとしたらしい。話すことがなくなってきた頃に大統領が立ち上がって言ったことがまたほんわかしていて良いのだ。
「コリン、コリン、リスが来たよ。さっき、ナッツを出してあげたんだけど、それを食べてる」
まったく意味不明の言動で最初読んだ時はえなにこれどういう話の流れなのとよくわからなかった。ただこれはようするに「それは君が解決すべき問題だよ」ということが伝えたかったのだ。レーガン大統領は権限は委譲すべきだし部下は正しいことをしてくれると信じていたのだ。パウエル氏とレーガン大統領がうつっている写真へのサインに、レーガン大統領は「親愛なるコリン。君が言うなら、それが正しいに違いないと私は思う」と書いたそうだ。
人間は不確定なもので相手が何を考えているかなんて全然わからんので、仕事をすべて任せるのは結構難しいことだと思うのだが(特に国家規模ではそうだろう)、だからこそ「信じる」ことが大事なんだなあ。もちろん信じる為に、それだけの土壌を作っていかないといけないのだが。普段から部下を馬鹿にし、ベストを尽くせる環境を作っていないのに仕事だけ任せてもうまくいかないにきまっているのだから。
とりま2つ例をあげて説明してみたがどうだろう。じゃっかん雰囲気が伝わっていればいいのだけど。自己啓発書系の本としてはかなり例外的に面白かった。
- 作者: コリン・パウエル,トニー・コルツ,井口耕二
- 出版社/メーカー: 飛鳥新社
- 発売日: 2012/09/29
- メディア: 単行本
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