基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ブノワ・ペータース『闇の国々 (ShoPro Books)』

ベルギーやフランスを中心にした漫画のことをバンド・デシネと呼ぶのですが、この闇の国々もまたそうしたBDのひとつです。正直僕も本格的なものを読むのはこれが初めてであり、何ら偉そうなことを語る知識が、まるっきりありませぬ。傾向さえもよくわからない。少なくともこの『闇の国々』に関して言えば、ストーリー、1コマの緻密さどれをとっても一級品。そう、日本の漫画との違いで特筆すべきなのはコマごとの緻密さといえるでしょう。

特にこの闇の国々は、建築物の書き込みがすごい。すごいという曖昧な一言ではまったく表現しきれないほど、すごい。一コマ一コマ眼を奪われるような流麗な建築、風景が描かれていて、思わずページをめくる手がとまる。長編ではなく、100ページぐらいの中編が3つ、この闇の国々には収録されている(現在2巻まで出ている)。そしてこのストーリーもまた、絵として想像力を引き立てるギミックに溢れていて、圧巻。

実を言うと税抜4000円もする超高価な本なので、元々BDファンだった人達がメインで買うのではないのかと思うのだが、ふらふらと思わぬ出会いを求めていて金が惜しくない人は注ぎこむといい。脳内が作中に描かれたイメージで完全にジャックされるだろう。今もまだこの漫画に描かれたイメージが頭の中に根を張っていて、離れようとしない。

あらすじ(Amazonから)

闇の国々〉――それは、我々の現実世界と紙一重の次元にある謎の都市群。 ある日突然増殖しはじめた謎の立方体に翻弄される人々を描く『狂騒のユルビカンド』、 巨大な塔の秘密をめぐる冒険から、数奇な運命へと導かれる男を描く『塔』、 未知の天文現象により、体が斜めに傾いてしまった少女の半生を描く『傾いた少女』、 傑作と名高い選りすぐりの3作品を収録した歴史的名作シリーズの初邦訳。 メビウスエンキ・ビラルと並び、BD界の三大巨匠と称されるスクイテンが、ついに日本上陸。 繊細な描線、計算されつくされた構図、あらゆる芸術のエッセンスを詰め込んだBD芸術の真骨頂!

まず競争の狂騒のユルビカンド、これが圧巻。超高層な建物が並び立ち、整然と四角形が並んでいる都市に、突如として現れた謎の立方体。どんな物でも傷つけられないほど固い素材でできており、最初は1辺の長さは15センチ程。これが段々とでかくなり、ジャングルジムのようになって成長していく。それは物を貫通するが、物自体には何の支障ももたらさない。

なので放置していると都市がいつのまにかジャングルジムにがんじがらめにされる。まずこの発想と、その絵としてのインパクトが凄かった。美麗な建築、秩序だった都市空間が一転格子状の棒で張り巡らされ、まったく別の秩序が成り立つ。社会は最初にそれを拒絶し、祭り上げ、恐れおののきながらも一変に変革されてしまうが、人々はその格子状のものを移動手段として利用し、最終的には積極的に受け入れようとする。

人間が変化を受け入れるにはパターンというか、一定の傾向があるのだがこうした不可思議な現象を受け入れていく人々を描きながら、都市に根付いた格子状の物体とのコントラストはすごいのだ。都市とは言ってみれば人の脳であると言える。なぜなら建物を設計し、形を考えるのは人の脳だからだ。つまり自然が介在しない都市は丸々一個の人間の脳の中なのだが、そこに人間の脳に制御されない、不自然そのものの四角い物体がからみあっている姿は、何度も言うがめちゃくちゃ印象的なのだ。

しかし……自然界に存在している、普遍的な形に四角形はあまり存在しないように思う。たとえば亀の甲羅だって六角形で構成されている。六角形は隙間なく敷き詰めることが出来る形で、四角形でも同じことが出来るはずだがなぜか自然界では採用されない。となると正方形もある意味人間が生み出した概念といえるかもしれない(適当言っているだけなので話半分に聞いて欲しいんだけどね)。

次に『傾いた少女』もご紹介しよう。これはある一定の方向に常に引っ張られるように、つまり傾いてしまった少女が描かれる。これもまた絵として表現するに相応しい設定、発想であり、常に傾いている少女の絵は何が普通なのかという僕達の認識に揺さぶりをかける。僕達の認識上正しい視点から彼女のまわりを描くと彼女だけが傾いて見える。しかし彼女を中心にして漫画を描くと、彼女のまわりの人間がみな傾いているように見えるのである。

そして少女が傾いている理由は実は……と解明していくと、これがまたSF的な発想を刺激される。前述した狂騒のユルビカンドも実は発想のスケールは宇宙規模であって、その自由さ、広さに心をうたれる。中編2作目と傾いた少女では通常の世界と異世界(芸術や物堅いrの世界)、そして中間の世界をを行き来することがテーマになっていて、それについても紹介しようかと思ったのだが今日はもう眠いからここでお仕舞い。

それにしても……こういう漫画を読むと、改めて絵の持つ力を実感させられる。本当にすごい。少々お高い本だが、読む人にとってはそれだけの価値が得られる一冊だろう。二巻も読んでから総括として記事をかこうと思っていたのだが、一巻を読んだ時点で思わず興奮して書いてしまった。二巻を読んだらまた何か書きます。

闇の国々 (ShoPro Books)

闇の国々 (ShoPro Books)

闇の国々II (ShoPro Books)

闇の国々II (ShoPro Books)