基本読書

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ジェインジェイコブズ『発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)』

国家に注目をして経済を語るのではなく、都市を中心にみることで経済の流れがわかると、端的に言ってしまえばそういう話だ。そしてタイトルになっている発展する地域と衰退する地域の境目はどこにあるのかといえば、それは「輸入置換」を通して輸入したものに新たな価値を付け足して新たに輸出していく家庭=インプロヴィゼーションが出来るか否かにあるという。

この考え方、僕が知ってきた知識にはまったく、どこからも触れられていなかったもので面白いのだが、本職の経済畑の人たちはどう捉えているんだろう。1986年の本でもあり、今本書で述べられている理論がどれだけ適用に値するのかもまだわからない。たとえば今では常識とされている(と習った)比較優位が批判されている。

たとえばブラジルが延々とコーヒー豆を作りつづけて、コーヒー豆だけを作り続けているとすればそれは都市からそのように要請されているから、その方が儲かるからであって、一時的にはそれでうまくいくかもしれないがモット安い、モット手軽にコーヒー豆を作る地域が出てきたらあっという間に衰退してしまうというのである。

なるほど言っている事はよくわかる。これは確かに供給を受ける都市側からすれば効率がよいのかもしれない(コーヒー豆の輸入先がブラジルからになろうがインドからになろうがコーヒーが値段が安くなって飲めれば気にしないだろう)、しかし供給元からすれば住民には技術力も創造力も応用力も育たない。ただただコーヒー豆を最速で出荷する手順が最適化されていくだけである。

輸入置換とは何かといえば、簡単なのだが。まあ単純にどんな町でも、余所からものを輸入する。貧困地域ならば最初は援助金が送られてくるかもしれない。援助物資も送られてくるかもしれない。その時に、そうした援助物資や輸入品を延々と輸入し金で買い続けるのではなく、「自分たちで生産を行えるようにする」ことをここでは輸入置換と言っている。

たとえば自動車を輸入したとしよう。最初日本ではこれを一から自分たちで作ることはできない。しかし部品の製造、組み立てのライン、技術をひとつひとつ置換し諸都市で創れるようになっていくと、今度は日本の諸都市は自分たちが作ったものを自分たちで買うようになり、そしてその工程は最初は輸入していた国外へ輸出という形になって現れていく。

当然元々輸入しており、次に日本の輸入置換により輸出されてくるようになった自動車を国外ではまた輸入置換しそれを日本に輸出する。単純な置換ではしょうがないので、ここには当然新たな価値が付け加えられていることが前提になっているが本書の主張はそうしたシンプルな骨格にある。都市は都市との交流によってサイクルを作り、成長するのだと。

逆に衰退するのはそうした輸入置換が行えない地域である。衰退は先程触れたようにただただ都市の要請によって供給させられ続ける(石油だってそれにあたる)地域であったり、衰退地域への真っ当な援助として行われる資金・物資の融資によって発生する。地域に物を生産する技術や基盤がない場合人は都市に出ていき、金だけは故郷に送るかもしれないが結局金だけでは何も始まらず、その地域は延々と人が出ていくだけになる。

日本の状況がフラッシュバックするようだ。都市に人が集まって田舎からどんどん人が出ていく。なぜかといえば仕事がなく、なぜ仕事が無いのかといえば一つには都市の発展した技術が入ってくることによって、特に農業において人手が必要なくなることが1点。そして農業の代わりになる仕事を作る基盤がないことが二点目になるだろう。

技術によって人手を減らし産出高が増大しみんなハッピーかと思えば、減った人手の行き場所がなく産出高の増大を食いつぶし対してうまくないというなんとも昔の童話になってしまいそうな悲惨な話がある。衰退地域に技術や機械を与え、金だけ渡してもまったくの無駄とは言わないものの、底の抜けたコップに水を注ぎ込むようなものなのだろう。

鳥取県の県知事が本書に解説を寄せていて、鳥取県景気対策としての公共事業について述べているのだがこれがまた面白い例になっている。たとえば道路整備。資源となるセメント、鉄などの資材、土木作業員。道路整備を行うことによってこれがすべてか、だいたいは鳥取県内で行えるのならば、仕事は増え金が内部で動き刺激になるだろう。

しかし実際、土地が売れてもそのお金を起業に使ったりするわけではなく、セメントや鉄は都市から購入したもので技法も県内ではないために大手ゼネコンに発注し県内企業は下請けに入ることで取り分は著しく減少してしまう。その下にはさらに土木作業員が入ることになるが、県内企業が下請けになっている時点でどれだけの効果があるかは、推して知るべし。

具体的な例をあげられるとたしかにそうかな、と思う。本書が書かれた1986年はまだ日本経済が好調だった時で日本の話も素晴らしい例として何度も出てくる。いまこれだけ経済が停滞してしまっている原因は、本書の主張を適用すれば「輸入置換が行えていないから」となるのだろう。もっとくわしく知りたいなあ。

発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)

発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)