基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

遠藤 浅蜊『魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)』

これは大変面白かった。16人の固有能力持ちの魔法少女が生き残りをかけて一つの町で殺しあうバトルロワイヤル物というだけで僕が大好きな要素が2つも入っていて嬉しくてしかたがなく(能力バトル物とバトルロワイヤル物)、かわいらしいキャラクタで覆っているものの中身は凄惨極まりなく「ライトノベルっぽくない(このライトノベルがすごい!文庫から出ているのに!)」と思わせるものだ。

大人気ソーシャルゲーム魔法少女育成計画』は、数万人に一人の割合で本物の魔法少女を作り出す奇跡のゲームだった。幸運にも魔法の力を得て、充実した日々を送る少女たち。しかしある日、運営から「増えすぎた魔法少女を半分に減らす」という一方的な通告が届き、十六人の魔法少女による苛烈で無慈悲なサバイバルレースが幕を開けた……。第2回「このラノ」大賞・栗山千明賞受賞作家の遠藤浅蜊が贈る、マジカルサスペンスバトル!

殺し合いという状況が、ではない。状況描写、町並みの描写が密にあることや、正義だ悪だといった価値観の争いがない点、また出てくる16人はみんな「魔法少女」ではあるもののその中にいるのは具体的な人生を持った悲哀交々な人間──、本作では魔法少女は、選ばれた時点で「少女」の外見を与えられるものの、中身に関しては高校生や中学生だけではなく、おばさんやおじさんだってありえる設定なのだ。

かわいいかわいい魔法少女で少女なんだと思っていたら死んだ途端に90歳のじいさんが出現することだってありえる(想像したくない)。

描写のシビアさ、バトルロワイヤル物の面白さについて

描写がシビアだ。残酷に人が死ぬ。元祖・バトルロワイヤルでも無残に人が死んでいく描写が粋だったし、そうした特殊状況下での駆け引き、生き死にをかけた必死さといったものは普段遭遇することがない状況なだけに想像の物語として面白い。デス・ゲーム物やバトルロワイヤル物が、今尚各所で人を惹きつけてやまないのも「暴力」に人が否が応にも反応してしまうからだろう。

何より生死をかけた人間ドラマというのは心が踊るものだ。通常人間が殺しあうなんて状況に陥ることは、戦争や金と権力とセックスが起因になった時ぐらいだが、デスゲーム物はそうした七面倒臭い手順をすっ飛ばして人間を異常な状況に叩きこみ、正気とは思えない行動や通常では考えられないような勇気を持った人間を書くことが出来るようになる。

最近だとハンガー・ゲーム、デスゲームならインシテミル、アニメならソードアート・オンライン、ちょっとずれるかもしれないけれど悪の教典など、このジャンルの映像化人気も強い。本作もアニメになったりしないかなあ。

能力バトル物としての側面

さて、バトルロワイヤル物とは別に、「能力バトル物」としての面もあってこちらも大変おもしろかった。魔法少女はそれぞれ1つの固有魔法を使うことができ、その能力をつかって人助けをしたり、あるいは魔法少女同士の戦闘を行ったりする。自分の剣の大きさを自在に変えることができる戦闘向けの能力や、困っている人を探知できる人助け用の能力などシングルアクションのものばかりだが、これが魔法少女同士がチームになると、有効に組み合わされていておもしろい。

「有効に」とはどういうことか。能力バトルものにも単純な肉弾戦、戦いを主とするものから「頭脳能力バトル」と呼ばれるジャンルといったように微妙に細分化が進んでいるが、「うまく能力が組み合わされている」ぐらいの意味で捉えてもらいたい。たとえば本作だと絶対に死なない魔法を持っているやつがいたり、どこにでも穴を開ける能力を持っているやつがいたり、投げたものが相手に百発百中であてられる能力を持っている魔法少女などがいる。

こんな事はこの本の中では起こらないが、たとえばどこにでも穴を開ける能力を持った奴がデカい穴をあけて、投げたものが相手に百発百中であてられる能力を持った奴が絶対に死なない魔法を持っている奴を穴に落としこんで二度と出てこれないように埋めてしまう、などといった「能力のいろんな使い道、組み合わせ」が見せてもらえることぐらいの意味で「有効に組み合わされている」といっているわけである。

僕のたとえは下手くそだが本作はもっともっとうまいので是非読んでもらいたい。余談だけどここ3年ぐらい読んだ能力バトル物でいちばんよかったのは『戦闘破壊学園ダンゲロス』なのでこちらもオススメ(小説も漫画も絶品)。

また最初に描写がシビアだ、と書いたけれど、ただただシビアに生き残りをかけて倫理観を排除したかのような魔法少女が出てくるだけではない。汚く生き残ろうとするものあり、チームを組むものあり、裏切りあり、それからハリウッド映画ではあるある演出だけど日本ではあまり見られない「追い詰められる状況になると絶対に出る頭でっかちなシスター」あり、

かたや希望を持って生き延びようとするものあり、魔法少女としての本分を全うしようとするものあり。それらは等価に並べられていて何が正しい、正義なんだなんだといった価値観を戦わせるような無粋な展開はない。あるのは残酷な行動(裏切り、殺しなんでもありで生き残る)と暖かさを感じる行動(人を助けたい)のコントラストでありこのテンションは物語が進むに連れて比例的に加速していく。

そうした行動の凄惨さ、倫理観無視っぷりが増していく魔法少女とかたや魔法少女としての善性が開花していく協調が、記述の運動としてたいへんうまいし面白いと思った。これで新人とは正直信じられない。二巻はすでに入手しているけれど、12月10日に出る3巻が後編なのでまだ暖めている処。3巻まで読んでからかこうかと思ったが、面白いのでおすすめしてしまう。

魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)

魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)

魔法少女育成計画 restart (前) (このライトノベルがすごい! 文庫)

魔法少女育成計画 restart (前) (このライトノベルがすごい! 文庫)

魔法少女育成計画 restart (後) (このライトノベルがすごい! 文庫)

魔法少女育成計画 restart (後) (このライトノベルがすごい! 文庫)