基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた』

タイトル通りの一冊だ。無鉄砲で先を読まず、無秩序に「原材料からトースターを作ってみせましょう」といってのける大学生だった当時のトーマス・トウェイツ君の無鉄砲さから本プロジェクトは始まる。本当に「ゼロ」からトースターを創ろうと思ったらまずは宇宙創世からはじめなければいけなくなってしまうので、もちろんルールはいくつかってその1つが「原材料をとってくるところから」だ。

つくるるのは4ドルで市販されているシンプルなトースターで、値段とその能力を考えればなんとなく、たいしたことないんじゃないかという気がする。そもそも「なぜトースターなのか」などといった疑問が沸くけれど、本書ではこう説明されている。『あると便利、でもなくても兵器、それでもやっぱり比較的安くて簡単に手に入って、とりあえず買っておくかって感じで、壊れたり汚くなったり古くなったら捨てちゃうもののシンボルがトースターなんだ。』

うーんなるほど。まあぶっちゃけその辺の境界線上にあるのはもっと他にもいくつかあるような気がするけれど、納得はできる。さて、問題はつくれるのかどうかだ。トースターをつくるのにもっとも基本的な材料として必要なのは5つある。鋼鉄、マイカ、プラスチック、銅、ニッケル。マイカってなに? ニッケルって? と疑問に思うがその他のやつは名前をよく聞くし割となんとかなりそうじゃないか。

でもそれはまったくもって勘違いであることがすぐにわかる。鋼鉄を創るには鉄鉱石を採掘してその中に含まれている40%の鉄分を抽出しなければならない。その為には千度以上の熱が必要だ。マイカは名前も聞いたこと無いが断熱材としての能力を持っていて当然その為にトースターの中に存在している。これはたまたま著者の家から電車で16時間のところに採掘場があり山に登って勝手にとっていった(いいのかそれで??)

プラスチックは石油で出来ている。石油なんてどうやって入手するんだ?? 金属は熱したり覚ましたりすることで物理的に精製されるが、プラスチックの場合はそれに加えて科学的に結合した分子を分離させ、結合させるといったプロセスをたどって、温度圧力化学薬品の調合を厳密に管理しなければならない。巷に溢れているにも関わらず、個人がちょっとプラスチックでトースターのカバーを創るぜ! といってできるものではない。

ニッケルは鉱山がなく、硬貨に使われているのを突き止めて(運がよかったね)それを溶かして使用した(それ、違法だけどね)。ニッケルはトースターの発熱体として使われるものだ。以上の過程を採取して、精製するのに当然一筋縄でいくはずがない。失敗しまくり、成功もあまりしていない(笑)その失敗の連続がおもしろい。何よりうまくいくはずがないのだ。

そうそう簡単に千度の熱を用意できるものでも、化学結合の複雑なプロセスを一人で出来るわけでもない。文明に溢れかえった中で過ごしていると人間ってすげえなと思うけれどすごいのは人間であって「自分がすごい」わけではないんだなと本書を読んでいると思ってしまう。もっともそうした理屈は本書を楽しむ上では邪魔であるように思う。

本書でも最後に「精製の中で発生した地球に与える影響はコストに反映されてないからうんちゃら〜」みたいな小難しい理屈を語っているが、そんなのはとっくに認知されそうした地球へのダメージを計算に入れた包括的なコスト計算の仕組みもすでに考えられ始めている。

本書の価値はだから何かを考えるところにあるのではなく、ものづくりの大変さ、うまくいかなさ、手順の多さみたいなのを追体験するところにあるのだと僕は思う。その詳細な手順と失敗の繰り返しを読んでいると、まるで自分も一緒にゼロからトースターを創っているかのような感覚にさせてもらったから。

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)