書評家であり翻訳家である大森望さんによる翻訳講座(若干偽りあり)。今では本の雑誌で特集が組まれるまでになったすごい人である。僕もどこで名前を覚えたのかさっぱりわからないが、とにかくSF作家関係の講演会や対談(神林長平さんや円城塔さんとか他多数)に行くたびに、大森氏が壇上にあがっていて、なぜかファンである作家よりも大森氏を見た回数の方が多くなってしまった。
ことSFにおいてはどこにでもくっつけられるというか、どんな場に出しても誰も困らないしそれどころか滑りがよくなるというような、潤滑油のような存在なのだと僕は認識している(そうでなければ行く場所行く場所に大森氏がいる理由がつかない)。
で、この『新編 SF翻訳講座』だが、その大森氏による翻訳についてのエッセイ集になっている。文庫であり、出たのは2012年の9月と比較的最近だがその元になっている一冊は2006年に出たものであり、その元になった一冊の元になった連載原稿は1989年から1995年までのものということで、随分内容的には古いものになっている。
ストリートファイター2にハマっている大森氏がいちありドラゴンクエスト5をクリアしていたり時代を感じさせる。ネット環境もまだまだ整備されていない時期でノマドなんて存在しようがない時代だ。とはいっても翻訳自体は出版業界がどんどん不況化していくことをのぞけば技術も訳者もほとんど変わっていないし、SFは出版される点数が少ないしでほとんど古びていない(それもどうなんだ)
さて。実を言えば今ほど洋書を読みやすい時代もない。なぜかといえば、KindlesStoreがオープンし、電子書籍が手軽に買えるように成ったことがまず一点。そしてもう一点重要なのが、Kindle端末やiPad,iPhoneなどを活用することで「単語の意味を調べる時間的コスト」が飛躍的に下がったのだ。
今まではいちいち辞書を調べなければいけなかったが、電子書籍なら指をぽんと単語に合わせるだけで、意味がポップアップされる。言われただけではよくわからないかもしれないが、実際これならほぼノータイムで単語が調べられるので、あとは文法さえ知っていれば誰でも洋書が読めるのである。
かくいう僕も今年の1月ぐらいから洋書を読み始めて、「あれ、意外と読めるぞ!」と気がついてから気が狂ったかのように自分の時間を英語に注ぎ込み初めて、今では割とすらすら洋書が読めるようになった。知っていなければいけない文法も実はそう対して多くはなく、高校まで教育を終えていればその範囲内でだいたいことは足りる。
もちろん細かい言い回しや、熟語や〜といった部分はちまちまと覚えていかなければいけない箇所であるのは言うまでもないが、それでも過去にコレほどまでに洋書が読みやすく成った時代はないのは確かだ。と、そんなこと書くと「翻訳者になりたくてこれを読んだのか」という感じだけど、単に洋書を読んでいるとこうした方面への興味が出てくるのである。
そして読んでみたらおもしろかった。具体的な翻訳の技術の話などもあれば、翻訳家になるにはどうしたらいいのか、SFの名翻訳とはどんなものなのか、翻訳書はどうやってできるのか、訳者あとがきの裏話など、どれも聞いたことがなく新鮮でたのしい。大森さんのエッセイは芸が多彩というか、引き出しが多い。
この引き出しの多さもまた、あらゆるイベントに呼ばれて常に潤滑油として存在することになる素因なのだろう。本の雑誌の大森望特集号と合わせてよめば、一人の特殊な人間の在り方がわかるかもしれない。あ、あと洋書読むのは楽しいよ。何しろ英語ができるようになるだけで一気に14億人分(英語話者の数)の情報が開放されるわけだから。
RPGでたとえれば今までは解放されていなかったエリアが解放されるような感じ。
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