- 作者: おざわゆき
- 出版社/メーカー: 小池書院
- 発売日: 2012/06/23
- メディア: コミック
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商業出版作ではなく、もともとは自費出版漫画だったようだ。表紙にあるような、ほのぼのとも形容できそうなシンプルな造作の人間が過酷な作業に従事してがしがし死んでいくのを読んでいくのは腹にくるものがあった。おぞましいし、その状況を受け入れていってしまう過程がぞっとする。
なにしろ気温はマイナス30度、40度を超えることもありそんな人間が活動している事自体信じられないような環境で過酷な労働、たとえば石炭の露天堀りをしいられていたわけで、しかも飯はとても足りるような量ではない。比喩ではなく人はばたばたと死んでいき、本書で描かれているキヴダの収容所はその約半数が犠牲になったのだと書かれている*1
世の果て 地の果て そんな生易しいものじゃない
だんだんと死が怖いと思わなくなってきた 「いつか順番が来る」と思ってみているだけになってきた
こんなナレーションが入りながら、朝起床したら隣で寝ていた人間がもはや息をしていないというような状況が描かれているんだから、たまったものではない。「今日はひとりけェ」「まだ昨日よりはマシだな 三人だったからなあ」戦争状態では「一メートル隣にいた人間が死んでいる」ことが普通に起こりえるわけだけど、そうした突発的な事象も怖いが段々と衰弱して周りから人が消えていく状況もまた恐ろしい。
その後季節が代り春がきて、収容所も移り変わると今度は別種の過酷さがあらわれてくる。一部のめぼしい日本人がハバロフスクにおくられ、共産主義への教化教育を受けて帰ってきたやつらが、仲間の囚人にその思想を素晴らしいものかのように伝える。ご主人様にすりよる犬のようにしてソ連の教義を信仰して、日本人の中で従わないものがいればつるしあげるわけで、余裕があればあったで日本人同士の醜い争いに発展していく。
戦争の残酷さが描写されているわけではないが(ほとんど戦わずに収容所行きのため)、過酷な状況下で人間が追い詰められ、どのような振る舞いをするようになるのかといった過程が存分に描写されている。なんとしてもそんな状況に陥るのは避けたいと願う一方で、こんな過酷な状況にあっても人間は生きてかえってくるもんなのだなあと自身の中にひとつエピソードをたくわえることができた。
*1:何をもって犠牲なのかはよくわからないが