きみはビブリオバトルを知っているか。
ちなみに僕はよく知らない。何やらTwitterで読書家の方々がいそいそと外に出かけていき、人を引き込み、びっくりさせる為の作戦を立てて、きゃっきゃきゃっきゃいって楽しそうだったのは知っていた。どうも、参加者はオススメの一冊を持っていき、それを5分でプレゼンし、最終的に参加者で誰の紹介した本がもっとも読みたいか決めるゲームだというのは、そこからわかった。
参加してみたいと思う程ではなかったが、あの人達が楽しそうにしているのは、いったいどこに秘訣があるのだろう。しかも一冊の本になってしまうとは、なかなか並大抵のブームではない。そして実質本書を読んでわかったことは、ビブリオバトルのルールはほぼそれですべてだということだ。細かい注意書きはいくつかあるものの、大筋としてはつまり随分シンプルなルール設計ということになる。公式ルールは以下のとおり(本書より引用)
【公式ルール】
1 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2 順番に一人5分間で本を紹介する。
3 それぞれ発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。
4 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。
そして読んで思ったが、どうやらこれは「ちゃんとまわるように設計された読書会だなあ」ということ。読書会については、過去に一度僕も「うまくいくパターン」と「ダメなパターン」を実体験ベースでまとめたことがあった。⇒読書会について - 基本読書 で、このビブリオバトルっていうのは、そのうまくいかないパターンを全回避させ、なおかつそれを投票形式のゲームにしてしまったのだ。
たとえばビブリオバトルでは一人一人違った本を持ってくる。通常の読書会では一冊の本について語り合う形式が多いと思うが、実はこれは結構な落とし穴で、課題本をミスると話し合うことはないわ、感想はかぶりまくっていう気がなくなるわでたいへん退屈なものになってしまう。課題本はいくらでも解釈ができそうな村上春樹などにし、ユニークな指摘が行えるメンツであればいいのだが、なかなかそううまくいかないことも多い。
その点ビブリオバトル方式であれば、オススメ者は誰もが自分のオススメ本を持ってきて、ばらけるので、感想がかぶることはない。しかも一人5分と決まっているので、だらだらと無駄に長くなることもない。本書では他にも輪読会の4つの問題点として、「レジュメを作ってくるとそれを読み上げるだけになってしまうことが多い」⇒レジュメ廃止 「発表者以外読んでこない」⇒全員を発表者に とかなり合理的にこの問題点を解決していっている。
もちろんこれを読書会であると単純化するわけではない。本書にも何度も繰り返されるように、ビブリオバトルは大人数の前でやるものばかりでもなく、少人数、大学のゼミや、あるいは会社のような場所でもやることのできる形式をもったゲームであって、その目的には「本を知る」だけではなく「本を通して人を知る」コミュニケーションの場づくりの側面こそビブリオバトルの本質であるという。
たしかにみな好きな本をオススメしてくるわけで、「好き」にはその人の個性がよくでる。本棚はよく人の頭脳にたとえられるけれど、そのたとえでいくと「好きな本を紹介すること」はようするに脳内メーカーみたいな要素を果たすのだろう。「好き」でつながるコミュニケーションは、ポジティブで明るいものになりやすいと思う。
本書を読んでいたら僕もやりたくなったなあ。「書評ゲーム? いやー本なんてほとんど読まないし興味ないなー」という人でも、「コミュニケーション促進ツール」として捉え直して本書を読んでみると、意外とこれが有効なものであると楽しく読めるかもしれない。いや、ほんと、マイナーなブームにしておくにはもったいない形式ですね。いろんな読書会をやってきた人間としては、ビブリオバトル以外の形式の読書会も考えてみたい所ではあるものの。
- 作者: 谷口忠大
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/04/19
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