基本読書

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タイムトラベルものとして新機軸の発想と演出が面白い。『ガーメント』

ガーメントは『ダイナミックフィギュア』や『シオンシステム』を出版している三島浩司さんによるタイムトラベル戦国時代もの。僕はすべてスルーしていたんですけど、これはなんとなく読んでみたら大当たり! タイムトラベルで行われるアイディアはめちゃくちゃスケールが大きく、しかも僕はまだ読んだことがないタイプの発想でこれだけでもお腹いっぱいなんだけど、その演出として使われるモチーフがすべてに一貫して、真ん中を貫いているので長編としてのまとまりも最高だ。

うーんしかしこんな作家だったんだなあ。ハードSFっぽいガチガチな作風かとおもいきやポップでヒロインの女の子と大学生の主人公とのかけあいはポップでほとんど漫才のようなていをなしている。タイムスリップして戦国時代にとばされてヌキ匕という謎の超能力鎧を着込んで戦ったり時間が止まったりするというのに、登場人物たちがその事態をあっという間に受け入れてしまったりと「軽いなあ」と思ってしまう箇所が多くあるのだけどノリがおもしろいので問題がない。

簡単なあらすじ

そしてさっきも書いたようにノリは軽いし設定は漫画みたいだが世界観とその作りこみはハードだ。ストーリーはけっこう複雑だ。主人公はある日突然戦国時代にタイムスリップしてしまう。待ち受けるのは織田信長にまつわる史実において重要な合戦の数々で、そのタイミングごとにかれはタイムスリップを自発的意志によって選択できるようになる。

誰もが知っているような有名な合戦に飛び入り参加し、ヌキ匕と呼ばれる超能力的な鎧の力を借りて戦場で無茶苦茶をやらかし、明らかに歴史を変えたと思われるような行動を取ると現代へと強制的に送還される。自発的意志でいけるかどうかを選べるのは主人公だけで、他に出てくる3人のメインキャラクタたちは自分のドッペルゲンガーと遭遇することで強制的に飛ばされてしまうため、みな必死で生命をかけて戻ろうとし、歴史を変える。

新しい演出のタイムスリップ物(たぶん)

通常タイムスリップ物は「なんとかして歴史を変えないようにする」あるいは「歴史の自動修正機能が働く」一本のラインしかないか、もしくはパラレルワールド的に世界が枝分かれていくものの二つにわけられるだろう。本作の演出はそこから発想的に飛び越えている。スケールはデカく、そしてただただ突飛な物を出して滑ったわけでもなく、あくまでも正攻法で新しい。どのような新ネタなのかはここでは解説しないが、今までこのジャンルを追ってきたひとはこのネタだけでもかなり楽しめると思う。すごい。

あくまでも「新しい演出」といっているのは、本作のような思想事態はずいぶんまえからあったからで、作品名は思い出せないが同じような構造を持った作品もあったとおもう。ただそれをタイムトラベル物として再構成しようとする発想がおもしろく、素晴らしいのである。

過去と現代を行き来する

さっきちょろっと書いたが、歴史上有名な合戦などに飛ばされ歴史を変えると戻ってくることができるが、ドッペルゲンガーにあったりまた次の有名な合戦の時間軸とあわされば(戦国時代と現代の時間の流れは異なる。まあそうでないと有名な合戦に行くために何十年も物語が間延びしてしまうからだが、これはちょっとご都合主義だな)飛ばされてしまうので、何度も過去と現代を行き来することになる。

その間に戦国時代の知識をしいれてきたり、考察を重ねたり、主人公は家に重要なキイとなる謎の美少女・ツゥと同棲生活をして花輪大学(主人公の名前が花輪)と開設して家事能力や社会常識を一切持たないツゥにひとつひとつ現代社会の常識を教えこんでいく。家に帰れば美少女と同棲、教育し戦国時代に飛ばされればマジカル鎧を着込んで有名合戦へガシガシ介入していくわけで、その設定だけでエンターテイメント性の高さがわかるだろう。

余談だが……なにもできない少女をかくまって家事やら買い物やらをできるように一から教えてあげるというのはなんというか男の歪んだ欲望(女の子をペットのようにして飼いたいみたいな)を充実させているようでじゃっかん気持ち悪いが、あくまでもそういうことではないのだとくどいぐらいに念が押される……がやっていることは結局ペットのように飼ってしつけているわけなのであまり説得力はない。

この世界の謎

タイムスリップは基本的に信長にまつわる合戦の時に起こるわけだが、そうすると当然最後は「本能寺の変」が起こることになる。物語はそのクライマックスに向けて、この世界はどのような構造をしているのか、彼らが毎度飛ばされるのはなぜなのか、ドッペルゲンガーとは何なのか、そしてツゥとの関係とツゥの謎についてもすべてが収束していく流れに鳴っていて、最高に燃える。

ヌキ匕、リンズなど聞きなれない言葉が本作の設定を彩っていくがこれもまたタイムスリップネタ、そしてそのネタが作り出す宇宙構造へのメタファーとして機能していて、そのイメージがまた美しい。現代パートでは美少女と同棲し戦国時代へ飛ばされれば鎧を着て合戦に殴りこみをかけ歴史を変えるというアホとしか言い様がない設定だがその根底にあるのはハードに組み上げられた頑丈な建築物なのだ。

ガーメント

ガーメント