知ろうとすることの物語。
ライトノベル系で作品を重ねてきた野崎まどさんのハヤカワ文庫一作目。当然のごとくSF。ここ数年の早川JAがライトノベル系の執筆者を送り込んできているのは自明だけど、その中でも意外な人選といえるのではなかろうか。しかし一作も読んだことないから作品傾向とかなんにもしらないでいってる! まあ、そういう事情もあってほとんど期待しないで読み始めたのだけど……。
これが、いい。けっこういい。いや、だいぶいい。登場する中でストーリーに密接に絡むメインどころのキャラクタは片手でおさまるぐらいしかおらず、プロット自体もそう複雑なものではない。世界設定はかなりゴテゴテと説明が続くし、しかも革命的すぎ、社会にとってアタリマエのものとなっていく過程がまるで想像がつかないのであまり好きではない。情報化社会と呼ばれて久しいが、それがもっともっと進展した後の世界だ。
2081年の未来世界、ほぼ完全に情報化された日本が舞台で人々は<電子葉>と呼ばれる脳葉を脳に移植し様々な情報を瞬時に引っ張ってくることが出来るようになった。個人情報から通常のGoogle検索のような情報の引き出しまでなんでもござれ。ただし途中設定の飛躍があったりそれだけの大規模なシステムを大多数の人間が受入れる過程に納得がいかない。あまりリアルさを感じないというかなんとも胡散臭い世界だ。
これはここ数ヶ月連続で出ている『パンツァークラウンフェイゼズ』も同様に胡散臭い。「そんなもの、成り立たないだろ」とついつい考えてしまう。ただ、世界観が胡散臭くなるのと、胡散臭くならない場合ってすごく微妙なさじ加減が関係しているので説明も難しい。ベテランになるほどそうした世界観処理がうまくなっていく印象。まあそれはまた今度考えよう。
設定についてはちょっとくさしてしまったけれど、そんな設定でもうまいこと生かした表現などもあって、そうしたところはとてもよかった。これは知ることの物語なのだ。知らないことを知りたい。体験したことのないことを体験してみたい。情報がこれだけ蓄積し、溢れかえるようになった社会でもまだみんな知ることをやめようとしないどころか、情報はさらに増え続けている。
そうした状況を踏まえた、プロットの簡潔さ。電子葉という設定、それからのちにでてくる非常に愉快な設定が(知らないで読んだほうがいいだろう)、オチを引き立てている。少なくとも僕はこんなオチは読んだことがない。最後まで読み終えた時、びっくりしてしまった。knowというタイトルがここにきて実にしっかりとくる。
知りたければ読むべし。
- 作者: 野崎まど,シライシユウコ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/07/24
- メディア: 文庫
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