基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

がん 生と死の謎に挑む by 立花 隆,NHKスペシャル取材斑

最近死ぬときのことばかり考えている。別に自殺する予定があるわけでもなく、難病におかされているわけでもなく、早いか遅いかの違いだけで人間いつかは死ぬのだから、いつなんどき「あと一年がせいぜいでしょう」と宣告されるかもわからないよなあ、と思うわけで。あと僕は絶対に葬式はやってもらいたくないので(自分が死んで大勢の人間が集まってきて神妙な顔をして着慣れない喪服を着て灰を拾うなんて厭すぎる)そうした準備も多少は必要である。

それが8ヶ月かも知れないし4ヶ月かも知れないし車に跳ね飛ばされて死ぬかもしれないしまあ何にせよそのどれかで死ぬんだから、その時に備えてうろたえて時間を無駄にしないように今のうちに考えておきたい。それ以上に、いつか必ずくるとわかっているものに対しての準備不足から、実際に起こった時に取り乱すような、みっともないことをしたくない、という気持ちのほうが強いか(この考えを人に適用しようとは=死ぬ前に取り乱すような人をみっともないとは思わないが)。

日本人の二人に一人が癌にかかり、三人に一人が癌で死ぬという現状、誰もが癌になって、しかも死ぬ可能性があるわけで、そういえば自分は癌について何も知らないなあと思いつつ本書を手に取る。これがまた、癌についての包括的な知識、そもそもなぜ癌になるのか、癌はなぜ今のところ治すことができないのかについて迫った良書で素晴らしかったです。知らなかったけれど、本書の書き手である立花隆さんも癌患者だったのですね(手術し、今のところ再発はしていないよう。)

NHKBSで放送された3本の癌関連の映像が元になって作られている本なので、本書の前半部はこの映像作品の補完的資料の意味合いが強いが、、幸い映像をみなくても楽しんで読める(観たほうがいいんだろうけど。)後半部は立花隆さんの癌治療体験記で、告知されたところから実際に手術を受けたその後の話まで。さいわい末期というわけでもなく、手術不可能というわけでもなく、今もお元気そうだ。

癌とは、細胞の狂い、DNAのミスによって起きる病気です。通常であれば細胞増殖は何の問題もなく行われ、次々と分裂していくわけですけど、ある限度以上に増えた場合は細胞はアポトーシス自死)していくようになる。癌はそのような細胞増殖のコントロール機能が来るって、ブレーキがかからなくなる病気です。人間には六十兆の細胞があってこれを常に繰り返し新しく作り変え続けているわけであって、このコピーを何十何百何千回も繰り返していたらミスが起こり、蓄積していくのも当然というわけで。

抗癌剤とはなんなのか、治してくれるのではないかといえば、抗癌剤はこうした細胞分裂が活発な癌細胞に向けてその細胞分裂を止めようとする効果があるわけですね。抗癌剤の摂取で髪の毛がなくなっていくのももっとも細胞分裂が激しいところがまず止まるからです。しかしそんな、細胞分裂を止めるって、それ癌を殺してないよね?? 止めてるだけだよね?? 意味なんかないんじゃないか?? と思うんだけど、これについても本書では扱っている。下記はその結論部分。

抗がん剤にははっきりそれが効くがんと、必ずしも効かないがんがある。少数の効くがんを除くと、効かないがんが大多数である。望めることは、若干の延命効果(しばしば二ヶ月程度)と症状の緩和にすぎない。
抗癌剤には例外なしに強い副作用がある。副作用が強すぎる場合、抗がん剤のメリット(延命効果)とデメリット(QOLの低下)をはかりにかけると、どちらが上回るか、かなり疑問のあるケースが多い。
③僕自身の場合、まだその選択を迫られるところまではきていない。手術後のルーチンとして一定期間の抗がん剤の服用はしたが、このあと再発した場合、基本的治療法としての化学療法(抗がん剤治療)を選択するかどうかが問われるだろう(インフォームド・コンセントとして、治療法の説明のあと、それに同意するかどうか署名を迫られる)。その場合、はっきり決めているわけではないが、おそらく多少の延命よりはQOLの維持のほうを望むだろう。

と、かなり抗がん剤への疑問を提示した内容になっている。もちろん抗がん剤がまったくきかないなんてことはない。延命効果は厳然としてあるし、場合によってはそれで治癒することもある。本書は初出が2009年頃の最新情報を元にしているので、今は変わった状況もあるだろうと思う。それに癌は何パターンもあり、「使ったほうがいい」「使わない方がいい」なんて極端な2つの答えにはわけられないだろう。

一番読んでいて面白かったのが「多細胞生物である以上癌との戦いは必定である」というようなことを言った部分で、ようは多細胞生物である=その中のひとつが異常な行動をし始める可能性がある=がんのリスクになる 多細胞生物である時点ですでに癌との戦いを宿命づけられているんですね。

他にも代替医療が「効果がほぼないということができる理由」とか、医者が患者にどうやってその病気について告知するのかといった話が面白くたいへん有意義な一冊でした。あとは、やっぱり、癌でないにしろ誰でも死ぬわけですけど、こうやって「死に至るルート」をひとつひとつ把握していくってのは個人的に結構好きなんですよね。

あんな死に方をするかもしれない、こんな死に方をするかもしれない、といろいろ想像して、こうなったらこうしよう、ああなったら諦めよう、と一個一個覚悟を決めていくと、人生が、少なくとも自分自身に関してはうまく着地させてやることができるんじゃないかな、という気がしてくる。さあ、あとは楽しいことをして、死ぬのを待つだけだ! いい人生だった! と思えたらいいなあ。