基本読書

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蔵書の苦しみ (光文社新書) by 岡崎武志

月に80冊ぐらい買うので蔵書の苦しみはある程度理解しているつもりである。月に80冊買うと1年で900冊を超え、部屋はかなり圧迫される。本棚は大抵の場合本の重みに耐え切れずたわんでくるし、地面にうまく積んでいてもちょっと探しものをしたりするとすぐ崩れてぐちゃぐちゃになる。最初の年なんかはまだいいかもしれないが2年3年と経った時にそれが当初の想定を超えて場所をとり、整理ができず、重荷になってくるのだ。

本屋で働いていたこともあるが、本というのは重いのだ。とにかく重い。そして普通の引っ越し用に使うようなダンボールだと、文庫だと180冊、ハードカバーだと40冊程度しか入らない。故にハードカバーばっかりを月に80冊買っていたら、最終的に年に引っ越し用ダンボールが24個家にででーん! と鎮座する。もちろんハードカバーばかり買うわけではないが‥‥そのさまを想像していただきたい。

とはいっても僕自身は数ヶ月に一回、買ったものを全部売り払うか捨ててしまうので家に本はお気に入りの100冊ぐらいしかないし、極力電子書籍で買うようにしている。本棚もひとつしかないし、スカスカだし、読み返さないし、もし仮に読み返したくなったらまた買いなおせばいいだけの話だ(値が張る古書などは想定していない)。

「せっかく買った本を売ってしまうなんてもったいない」とおもわれるかもしれないが、よみもしない本を所持し場所がうめつくされる方がよほどもったいないのである。それに僕は「本自体」が好きというよりかは「本の中身」つまり書いてあるものが好きなだけで、物質としての本にはあまり興味が無い(もちろん装丁が素晴らしい一部の本はとっておきたいと思うけど)。

本書は様々な蔵書家が出てくるが、やはり「本というメディア」に対しての愛を持っている人たちばかりである。俗にいう、読まなくても買う。「コレクター」のたぐいだ。僕はすぐに読めない本は買わないのでいわゆる積読という物もない。「本というメディア」でなく「コンテンツ」があればそれで充分なのである。メディア自体を愛している人たちは、たとえば電子書籍になっても紙の本に執着するだろう。コンテンツに興味がある人は電子書籍でも何一つ問題はない。同じように読めるからだ。

だいたい本好きほど、物理的な本の存在に憎しみを覚えそうなものだと思う。本屋を数件まわって、ブックオフにいったりするとだいたい20冊ぐらい本が増えているのだが、もうカバンが重くて仕方がない。クソックソッ重すぎだぞ!! と思いながら重たいカバンを抱えて家に帰ると今度はその本が部屋を圧迫する。僕はもうこれで「紙の本憎し」になって今は出来る限り電子書籍で買うようにしているが、本書はそうした「蔵書の苦しみ」についての本である(そのままだな)。

重いから床が抜けるわ、火事になったらどうしよう、全部消えてしまうと心配するわ、何万冊まで膨れ上がった本はもはや検索性も皆無といってよくお目当ての本をその中からピックアップするなんて不可能に近い。「そんなもん全部捨てればいいのに」と僕等は思ってしまうが、愛のある彼ら(ほとんど男である)はそうした苦しみに耐えつつも実に楽しそうにその苦しさを語るのだ。この矛盾したような苦しさと楽しさの感情が読んでいると「うわー変な人達だなー」と妙に感心させる。

だいたい蔵書が数万冊って、一部の速読家以外に読みきれるわけ無いではないか(笑) まあそもそも切手のコレクターなんかもそれを使うわけじゃないんだから、本はいざとなったら読めるし仕事にもなりえるコレクション商品としてはなかなか有用な品なのかもしれない(コンプリートという果てが存在しない無間地獄だが)。

数々の蔵書エピソードを語りながら、それぞれ最後に【教訓】がはさまるのだが、これがほんとに教訓になる人は日本人口の0.01パーセント以下だろうというニッチさでちょっと面白い。たとえば教訓その七は『蔵書はよく燃える。火災にはよくよく注意すべし。』とあるが、そんなこと言われなくてもわかっている(笑)また教訓その九は『トランクルームを借りたからといって安心するべからず。やがていっぱいになることを心得ておくべし』

凄まじきニッチな教訓といえよう。いったいどれだけの人がトランクルームを蔵書室のために借りるというのか。

本は装丁や紙まで含めて本なんだという蔵書家の人たちの意見もよくわかるが、かといって死蔵し、本棚にさしたまま取り出されない上に、どこにあるのかもわからないというのでは持っている意味がまったくない。それだったらまだ電子化されていたほうが検索できる分マシだともいえるだろう。だからこそ本書のメインテーマは「溜まりすぎた本は減らすべきなのである」だと思うのだが、やっぱり愛憎半ばで憎みきれてないし、しかも著者自身まったく減らし切れてないので、まったくテーマ自体は完遂されていない。

まあ、テーマが完遂されていないとしても、特化された内容は対象じゃなくてもおもしろいものだ。僕もほとんど本自体への愛着はないにもかかわらず、たいへん楽しく読んだ。

蔵書の苦しみ (光文社新書)

蔵書の苦しみ (光文社新書)