森博嗣さんの新刊。既に出ているエッセイ『つぶやきのクリーム』の続編という位置づけ。似たタイプの著作である100の講義〜も数えるとこの100のトピックで語る本はこれで4冊目かな?つぶやきのクリーム the cream of the notes - 基本読書 「思考」を育てる100の講義 by 森博嗣 - 基本読書 常識にとらわれない100の講義 - 基本読書 違いとしてはつぶやき、つぼやきの二冊ははネット関連の話題が多い。
100の講義も含めると、割合ぽんぽんと出るので、この一連のシリーズは長年日記を書き続けてきた森博嗣さんの日記的エッセイの最新形態なのかもしれない。できるかぎり続いてくれると嬉しい。それだけの価値と、楽しさがある。日常的な事柄、自然から価値を抽出する視点の新しさ、またそれを抽象化し他のさまざまなものに当てはまる形へと変換していく抽象化のプロセスが毎度わくわくさせられるのだ。
裏文には初の文庫書き下ろし! と書いてある通りに、文庫が初出。ただ読者的にはこうして最初から文庫で出してもらうのが当然の話であってなんで今まで単行本で出されていたのかさっぱりわからないところではある。ぜんぜんビックリマークな気分じゃない。もちろんとてもうれしいけれど。特にこのシリーズは発想が100個も収められていることもあって、どこでも開けば発想が飛び込んでくる小さなおもちゃ箱的なイメージで読んでいる。文庫にぴったりだ。
ちなみに四作の中で本作が(特に前半)、個人的に一番得るものが多かった。なぜか読むのにも正確に測っていないので感覚で書くが、今までの三倍時間がかかったと思う。これは内容がより詰まっているのか僕の側が多くを引き出せただけなのかよくわからないところではある。今まで森博嗣さんが何度も書かれていたことで、ようやく「そういう意味だったのか」と腑に落ちた所もあれば、考えてもみなかったことがまだあって、もうエッセイだけで何百万文字も読んでいるはずなのだが発見が多い。
何百万文字も読んで、未だに飽きないのは僕が忘れていたり、一度で理解できないところも多いからだろう。しかし、それと同時に森博嗣さんの変化の早さ、なんでもないところから価値を取り上げてみせる視線が今尚健在だということもある。そうした森博嗣さんのエッセイにずっと勝手に並走してきたことで、僕自身も常に変化を続けてきた。なんでもないところから意味を読み取る、起こっていることの中に理屈を見いだそうとする。
知識を蓄えるのではなく、現象にたいしての道理を探る。なんてことのない日常的な話からも価値を見いだそうとする、そういう人間になったという僕の側の変化も大きいのだろう。注意深く読むと実に発見と、自分の中で醸成されていくものの多い、相変わらず素晴らしい一冊だ。本書からはたとえ森博嗣という作家に触れたことがない人でも、その発想の斬新さ、理屈の通し方、それらをいかに抽象的にしてみせるのか。その技を学ぶことができるだろう。
つぼやきのテリーヌ The cream of the notes 2 (講談社文庫)
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/12/13
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つぶやきのクリーム The cream of the notes (講談社文庫)
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
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