基本読書

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生物化するコンピュータ by デニス・シャシャ,キャシー・ラゼール

ここにあるのは未来だ。進化、学習を取り入れたコンピュータ、DNA、細菌をベースに作られる計算システム、自分で自分を修理するコンピュータなど「今後、実用可能になりそうなコンピュータ」の例が解説されていて興奮させられる。現在あるようなコンピュータの正統的な進化だけが未来の形ではないのだ、と考えるための発想のタネになるだろう。たとえば何百億もかけて宇宙船を打ち上げても、ほとんどの場合直接的には修理することができない。無人探査機ならなおのことだ。もし仮に自力で修理する機械が設計できれば、無人探査機のタフネスは急上昇する。

本書はコンピュータ科学における最先端での問題を解いている科学者十六人に焦点をあてた一冊で、その個人の経歴から実際にどんなことをやっているのかまでを凝縮して解説してくれる。本書を通じて共通して現れてきたビジョンとして意外だったのが、『未来のコンピューティングは「自然」と結合するというものだ。』と本書の冒頭で著者は書いている。それは先ほど述べたような、自分で自分を修復する機械のような「進化あるいは学習」を取り込んだ機械という発想であって、それは今までのコンピュータの経歴とはまったく別の方向へと向いている。

あらゆる可能性へ対応することが出来る万能マシンをつくりあげる設計思想ではなく、設計者自身さえも思いもつかない解決法を自力で見つけ出し適応していくマシン。なんとも胸躍る方向性ではなかろうか。火星のような「何か知らないことがあるということさえ知らない」場所へ送り出される無人機は、みな自律的に対応手段を模索することができるようになるかもしれない。そうした方向性が現実化していくのならば、ほんの20年30年先といった近未来の風景は現状想像されているものとはまるっきり違った姿をみせるだろう。

自律的な適応をするコンピュータだけが本書の対象ではない。また別の方向性としてあげられているのは、生物体がシリコンに取って代わるかもしれないというもの。DNAや細菌細胞をベースにつくられる計算システムには金がかからず、しかも超並列的に動作するので爆速なのだ。DNAで計算?? 何をとち狂ったことを言っているんだ?? と最初読んでも全然わからなかったのだけど、コンピュータが0と1を利用して計算を行うようにDNAにはアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)の4要素がある。この要素と、操作することのできる酵素を用いることで計算ができる。

爆速な理由は0と1のやりとりを高速で行って計算結果を出す従来のものとは違って、DNAの化学反応は全体で一気に進むからだ。ようするにたくさん計算したかったらそれだけDNAをぶっこめ! という話で、すべてを並列的に機能させることが出来る、はず。しかもシリコンを配列して〜という話にもならないので、コスト的にもお得である。もう少し詳しく知りたければネットでもいくつか解説が読める。→DNAコンピューター 遺伝子を利用した超高速コンピュータ誕生 -- 季刊 環境情報誌 ネイチャーインタフェイス とかDNAコンピュータ - Wikipediaとか。

他にもアナログ式のコンピュータなどの方向性も提示されており、今までのコンピュータとはまるっきり違った装置が主流から外れたところで日夜研究が進んでいることを実感する。未来は予測できないとはいうが、突然信じられないような発展をするわけではなく、アイディアや研究の萌芽自体はいつだって進歩の前に存在しているのだ。一般に浸透するのに時間がかかるという話であって。本書に書かれているようなコンピュータが我々の目の前に現れるにはまだ何十年かかかりそうだが、未来の萌芽はここにあるのである。

生物化するコンピュータ

生物化するコンピュータ