VITA版が出たので早速プレイ。巨大人型ロボット……そのほとんどはアニメや漫画での活躍ではあるけれども、魅力にとり憑かれた人も多いはず。正義の味方としての側面、人型であることからくる自己の拡張としての充足感、何よりその格好良さに。本作『ROBOTICS;NOTES ELITE』は5pb.よりリリースされている科学アドベンチャーシリーズの第三弾として制作された。巨大人型ロボへの愛を、詰め込める限り詰め込んだヴィジュアルノベルゲームだ。人型ロボットの主戦場はなんだかんだいっていまだにアニメーションやゲーム、漫画といった分野だが、本作は2019年ー2020年の近未来を舞台にして「リアルな巨大人型ロボット」を指向した作品になっている。
近未来といっても現在が2014年だから、たかだか5年先。ファンタジックな要素は出来る限り抑え、種子島の高校生ロボ部員が比較検討を重ね、「ありうる巨大ロボットの形」を模索していく様はエンジニア的なおもしろさに満ち溢れている。たとえば巨大ロボットを造る際にはいくつもの障害が立ち上がる。動力はどうするのか、パーツ代は、重さはどの程度まで許容できるのか、軽量化のためになにができるのか、そもそも巨大人型ロボットをつくって何をしたいのか──、そうしたコンセプト、企画レベルからの議論を最初から最後まですべてシナリオに落としこんでいるので、まるで一緒に巨大人型ロボットを造っていくような臨場感、楽しさがある。
実際、最後に出来上がるロボットはぜんぜんかっこよくない。無骨で、足がデカくて、足には車輪がついてたりする。それでも創りあげる過程や、そのデザインに至る合理性みたいなものを一緒に体験してきたので、そのダサい姿にも深い納得感がある。この納得感はリアリティという言葉に置き換えてもいいけれど、ここでは納得感という言葉を使う(リアリティというと現実と同じならいいのかみたいな議論になるが、結局のところ物語に求めているのは現実に存在しないものでもなんでもいいから「納得させてくれ」ってことであり、「現実と同じ」ことが求められているわけではない。求めているのは現実にありえるのかどうかではなく「納得できるか否か」なのだ。なので僕はリアリティは語句として極力使わずに納得感を使っている。)
理想を現実に落としこんでいく物語
巨大人型ロボットなんて、そうはいっても実用的な意味では必要とされない存在だ。今だって日常にロボットは多数存在している。ルンバだってロボットなのだから。実用性、機能を第一に考えるとそこに人型を持ってくる理由なんて存在しない。数少ない理由のひとつは、人は人型ロボに親近感を覚え、自己をそこに託し、何より巨大人型ロボはかっこよく──多くの人々のあこがれの的になることだろう。本作はそこに注目している。メインキャラクターにはロボットに対する多角的なアプローチの為か、ロボットに興味がある人間もいればまったくない人間、ロボットへ恐怖感を覚えている人間と様々だが、ロボット好きはみななんらかの形で過去のロボットアニメの影響を強く受け、かつて自分が「かっこいい」「素敵だ」と思った要素を成立させようとしている。
そういう意味で言えば、ロボット物に思い入れのある人間ほど深く共感する作品だ。なにしろ本作は「巨大ロボットをできるかぎり科学的に可能な範囲でつくる」ロボット制作パート以外にも、ロボ好きの理想をできるかぎり現実に落としこんでいく物語なのだから。ただ理想を現実化させるためにかなりの無茶をやらかしているのは残念なところ。無茶をやった分、最後の盛り上がりはものすごいことになっているし、合理的にもっていけるような展開でもないので痛し痒しといったところか。スーパーロボット系の展開を無理矢理リアルロボット系でできるようにしたいいとこどりの作品というのが近い。
多少解説を入れると、本作のスタートはなんだかよくわからないが格闘ゲーマーの主人公が巨大ロボにのって、部活動の面々がいけーと応援する中、世界を救うため敵の巨大ロボと戦いにいく──ところから一気に過去に戻る構成になっている。なので、物語のスタート時点で着地点はみえているわけだ。「ああ、これは巨大ロボvs巨大ロボにたどり着くまでの物語なんだな」と。ただしはじまってみれば巨大ロボは動かすことさえ大変で、いざ動いてみてもぎーこぎーことぜんぜん滑らかに動かない。
それどころか世界の危機なんて微塵も見当たらない、平和な種子島ののんびりとした高校生活が描かれていく。それは高校生がやってることだから当たり前なんだけど、「こんなんで本当に最初の巨大ロボvs巨大ロボにたどりつくのかあ??」といろいろ先の展開を推測しながら物語にひっぱられていくことになる。いつまでたってもロボットはボロいし敵が巨大ロボのイメージなんてまるでないしで、ぜんっぜん繋がる未来がみえないので、良い意味でも悪い意味でも予測不可能な物語になっている。
種子島の生活感
若干主題からはそれるが、種子島の高校生の日常描写はとても楽しそうだった。実際には種子島なんていったことないからこれがどの程度正確なのかわからないが、青い空、観光客もやってこないからまったく人のいない海、なんにもない、人が少なく開放感のある場所、のんびりとした人々──といった感じで、すべてを放り出して種子島に行きたくなってしまうような魅力にあふれている。観光名所にいきたい、という感じじゃなくて、実際にここに長期滞在してみたいなあと思わせるような「生活感」がある。ロボとは直接的には関係がないのだけど、そうした島の生活感も魅力的な箇所だった。
システム面について
この科学アドベンチャーシリーズはヴィジュアルノベルとして単なる「選択肢によるルート分岐」を使わず、しかも分岐システムを毎回シナリオに合ったものに変えてくるところが毎回チャレンジングで好きなのだけど、今作はついポと呼ばれるまんまTwitterシステムへの返信内容でルート解放が行われるシステムになっている。ルート解放とはいっても個別ルート毎にエンディングがあるわけではなく、ルート解放されることで時系列が埋まっていく一本道制御システムなのでそれは注記しておくが。リアルタイムでまわりの人々の近況や、世間の近況がアップデートされていくのでそれがおもしろい。
しかし…システムとしてはいいけど、結局時系列を埋めていく一本道なのでルートをついポの返信で制御する意味が…ない……。しかもかなり面倒臭くて最初は攻略を見ずにやっていたのだがまるっきり先へ進められない有様である。
あともう一つ特徴的なのは立ち絵が廃止され立ち3Dモデルになったところだろうか。これ、前例があるかどうか知らないのだが個人的に画期的、驚きで、発言が行われる度に3Dモデルがぐりぐり表情や身振り手振りを変えるのにすっかり感動してしまった。紙芝居(笑) と揶揄されることのあるヴィジュアルノベル界隈だけど、本作や『魔法使いの夜』みたいにテキストを読ませていく形式でもまだいろいろ進化の余地があるなと思って嬉しくなった。3Dモデルのおかげで確度を変えたりといった使い方が多様になっており、表現の幅も広がっている。
サイエンス・フィクションとしてのロボティクス・ノーツ
お話のメインにすえられているのは巨大ロボットであり、巨大ロボットを創りあげていく過程であり、巨大ロボット物に熱狂した人々の妄想を具現化していくような過程にある。しかし近未来設定であり、HUGという身体を補ったり、拡張するようなロボット、道案内するようなロボットが身近に溢れており「ロボットが今よりも身近な世界」の描写もまたおもしろいものだ。ロボットが身近で街中に配置されていることが重要な事件につながっていたりして、おいおい、それでメインシナリオが一本書けるだろ、みたいなネタが使い潰されていくのもSF好きとしては楽しい。この手のロボットが近未来において普通になった世界での反乱や混乱、活用事例を書いたものとしては最近BEATLESS - 基本読書 やこの正解の分からない混沌が、私は好きだった。──『富士学校まめたん研究分室』 by 芝村裕吏 - 基本読書 があるのでロボティクス・ノーツが面白かった人はこちらもおすすめ。
本シリーズはとても科学的な態度とは程遠いような陰謀史観が同時に進行していくのも読みどころのひとつだが、世界的な陰謀が見事にロボット要素と結びついていくさまはたいへんおもしろくわくわくするのである。ハリウッドではなぜかロボットや人工知能といえば反乱を起こすものと決まっているが、日本では反乱も起こさせることだってできるし、かわいく友達や彼女にすることもできる活用方法が多くて多様だと思う。ドラえもんやアトムの時代から人間にとってロボットは友達だったからねえ。
あとロボとは関係ないのだけど、重要な要素として組み込まれているのがARやVRといった「拡張現実」や「仮想現実」「代替現実」のような、現実と仮想を融合させていくような要素だ。システム面でプレイヤーはついポの操作をシステムとしてできるだけでなく、現実を上書きしてタグなどをはりつけられるARシステムも使えるようになっている。そうやって観光地やお店などをみるとタグがはりつけられていて、説明を読むことができたりする。ようは現実を上書きしているわけであって、現代ではまだそれほど活用事例は多くないが(セカイカメラとかはやったけどもう使っている人もみないし)これが発展した場合行き着く先は「現実と仮想の融合」につながってくるだろう。
現実だけではない。かといって仮想だけでもない。現実の上に仮想が上書きされ、それらが両者当たり前のように活用されていく未来。そのテーマはロボットとズレるのでは、とプレイ中は思っていたのだけど、これが実によく馴染む。というのも結局巨大人型ロボットもこれまでの「妄想」を現実化しようという試みであって、ある意味では現実とフィクションの融合を体験している過程だからなのかもしれない。科学、技術が発展していった先にある「現実」と「仮想」が区別できないぐらい入り交じっていったらどうなるのか──という仮定として本作のシナリオはその真価を発揮していたと思う。
様々な立場からみたロボット
本作は「偶像劇」としての側面を持っている。種子島高校のロボ部員それぞれがみな主人公だともいえる。主人公は操作を担当する凄腕格闘ゲーマーで、部長はロボアニメ大好きな熱血女子高生、エンジニアは理性的で理屈っぽいいかにもな理系男子、などなど。みなそれぞれの立場で、ロボットになんの興味もなかったり、巨大ロボットアニメの具現化にこだわっていたり、機能としてのロボットにこだわったり、あるいはロボットに恐怖感を持っていたりと様々な立場を持っている。
シナリオはもちろんロボアニメファンの願望充足的な側面がある。だからといって巨大ロボが好き以外はお断りのシナリオではない。僕は巨大ロボアニメなんか好きではない、あんなもん画面に出てくるだけで嘘臭さが際立ってしらけてしまう。人型ロボットがかっこいいという感想もまったく理解できない。人型のどこがかっこいいわけ? かろうじてパトレイバーは面白いとおもった。パシフィック・リムは話が退屈すぎて途中で寝てしまった。そんな、巨大人型ロボットに対して何の思い入れもない人間でも問題ないぐらい間口は広い。だいたい主人公からしてロボットに何の興味もない格闘ゲーマーなのだ。
さいごに
不満点がないわけではない。ルート的に「必要ないんじゃ……」と思わせるぐらい微妙な出来のシナリオがあるし、最後の展開は燃えるものの強引極まりない。またせっかくロボットが日常的に存在している世界観で、システムとしてARやついポなどをプレイヤーが操作できるようになっているのだから日常に存在するロボ操作アプリなどが使えてもよかったのに、と思ったりもする。だがそれ以上に種子島の日常感覚、ロボットをつくりあげていく楽しさ、ロボットが日常にいる近未来感、そしてそこから発生する世界規模の危機、陰謀へと面白さが積み重なっていっていて、総合的に素晴らしい内容になっている。いやー、久しぶりに時間を忘れてノベルゲームにのめりこんだよ。大満足。プレイ時間は今みてみたら24時間ほどで、時間が確保できる人にはオススメ。
- 出版社/メーカー: 5pb.
- 発売日: 2014/06/26
- メディア: Video Game
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