基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

悲業伝 by 西尾維新

 普段こうしたシリーズ物の一冊はシリーズ完結した時に総評としてあげるのが常なのですが、このシリーズは最初から一巻ごとに感想をあげているので今回も一応書いておきます。とはいえ完全に続き物の中の一冊であることもあり、未読の方は読まないでしょうけれども。現時点での、この伝説シリーズへの僕の評価は「能力バトル物としては最高水準の出来(の部分がある)」といったかんじです。というのもとにかく本作は長い。感情がないというわけではないがほとんど介在させずに物事を判断することができるロボットみたいな主人公が、常に死線をくぐりぬけていく能力バトル物で、小説における大きな利点である「思考をいくらでも書ける」ことを最大限活かした能力バトル物になっています。

 能力バトル物においてまず恐るべきなのは自分の能力を知られることであります。相手が自分の能力を知らなければ、たとえとても程度の低い能力であっても相手を制圧することができる可能性がある。そうした情報戦が能力バトル物の魅力だけれども、これを徹底してやっているところは、能力バトル物として大好きな点。主人公の思考を書く過程は本作の特徴の一つではあるけれども、それがとにかく長い。長すぎて長すぎて一冊がノベルス二段組で500ページを超えてしまっている。そしてとにかく敵も味方も入り乱れ、神の視点があれもこれもと描写してくれるのでふくれあがっていく。

 長く、時間が進まず、それはつまり物語が進まない。シリーズとしては好き、能力バトル物としても素晴らしい、だけれども人には絶対にすすめられない。そんなシリーズになってしまった。本シリーズは悲鳴伝からはじまっている。二作目悲痛伝からはなんと閉鎖された四国で魔法少女同士がバトルロワイヤルをする通称四国編がはじまり、本来であればこの四国編は二冊で終わるはずだったなどと被告はのべているが現在四国編4冊目の非業伝が終わって尚、四国編が終わっていない! いや、面白いよ? 魔法少女同士の殺し合い! 閉鎖された四国! そこでは謎めいたゲームが進行していて、とっちゃいけない行動をとると突然身体が爆発して死んだりするのだがそのルールはどこにも書いてない! 探りあい、宇宙! と面白いけどね? 500ページ×4を読んでも尚終わらないとさすがに疲れてくるのですよ。

 本作のおもしろポイントについてはもうさんざん語ってきたので繰り返しませんが
悲鳴伝 - 基本読書 
読者が『悲痛伝 』(講談社ノベルス):西尾維新 - 基本読書
死刑執行中脱獄進行中『悲惨伝』 by 西尾維新 - 基本読書
悲報伝 (講談社ノベルス ニJ- 32) by 西尾維新 - 基本読書

 今回はさすがにちょっとどうかと思うのです。以後ネタバレ。今回はこれまで延々と語られてきた主人公から視点がはなれている。さんざん、ウザいぐらいに人間的な感情がそなわっていないと描写されてきた主人公を離れ、思考の本流から逃れられたのはいい。脇役としか言い様がない人間たちが主人公たちに合流してくるまでの、脇役視点の物語を延々と続けられるのはつらいものがある。いや、三十代女性が恥じらいを持って魔法少女姿になるところとか、恥じらいをあまり持たずにそこそこの自身をもって魔法少女姿になるところとか、もちろん面白いんですけどね。

 結局人間どこに興奮するかと、エロスはどこにあるのかといえば「秘められた箇所があばかれる瞬間」にこそあるわけです。あまり恥じらわない女性たちが、通常ありえないようなシチュエーションに陥って羞恥にもだえ苦しむ様はそうしたエロスを体現している……。つまり、面白いからこうやってレビューを書いているわけだけれども、これ別に「合流しました」と一行……はさすがにないにしても、30ページぐらい使ってことの顛末を書いちゃえばいいようなもんだと思うんですよ。

 いずれ四国編が完結した後にひっそりと「実はあの人達が合流した時の裏にはこんな物語が──」と、たとえばアニメ化したときのドラマCDとかで出せばいいじゃないですか。今回読んでいて僕が思ったこと、感想はそこにつきます。面白かったから、いいんですけど……。

余談。バトルロワイヤル物について

 大抵のバトルロワイヤル、閉鎖環境下での殺し合い物というのは、「黒幕の設定」が困難だったりします。どうしたって黒幕を設定すると現実感がなくなりますからね。「金持ちたちの道楽、ギャンブル」だとか「一人の天才が強引に実行したデス・ゲーム」だったり、あるいはもう最初っからファンタジー設定で「この世界はそういうことがあるんです」と強引にいってしまうとか。本作の能力バトル・ロワイヤルの設定として面白いのは「黒幕がいないようにみえる(現時点では)」というところにあったりします。事故でバトルロワイヤル状況が起こってしましました! って、そんなの魔法のある世界でしかありえないんだけど、魔法がありますからね。

悲業伝 (講談社ノベルス ニJ- 34)

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