基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

Cooking for Geeks ―料理の科学と実践レシピ by Jeff Potter

最近料理をはじめた。それ以前は冷凍食品をちんして料理をしたと言いはっているレベルであったので、まったくもって人生初自炊である。時間に余裕が生まれたのと、栄養バランスを自分で管理する必要が出てきたことから始めたのだ。最初、料理といっても結局は化学反応の組み合わせで味をコントロールすることに過ぎないのであって、レシピと手順があれば別になんだってすぐできるだろうとたかをくくっていたところがある。ところがいざはじめてみれば包丁はうまくつかえないし、どれだけ焼いたらいいのかよくわからないし、火加減が難しくてすぐにおいしくなるはずだった食物は黒焦げになるし、出来上がってみたら味がなかったりあるいはキツかったりしてとにかくうまくいかない。

黒焦げになりしかも醤油を入れ忘れ、塩コショウはどの程度入れていいのかわからない為、健康に配慮をしてちょっとしか入れず、どれだけ卵を入れたらいいのかわからないからとりあえず多めに入れときゃあいいだろうと2個も3個もご飯にぶちまけたときに出来たあの味のしない糞不味いチャーハンをきっと僕は一生忘れない。単なる化学反応であるのはその通りだがうまくいかないのではしかたがないのでとりあえず得意分野から攻めることにした。本だ、本を読むのだ。しかもfor Geeks というおあつらえのものが。コレが良かった。

単なるレシピ本ではない。もちろんレシピも入ってはいる。しかしそれは料理の科学性についての文章のあと、その実践形態としてレシピが載せられているという形だ。料理とはいったいなんなのか、どのようにして料理をするべきなのか、気をつけるべきはどこか、たとえば衛生面で、用具で、食材、時間に温度について。どれも示唆にとんだ文章であり、僕はあいにく普通の料理本を読んだことがないのでこれがどれほど特徴的な本なのか差異を述べることができないのが残念だが、科学的に料理とはなんなのかを分解していってくれる。

そしてfor Geeks なので説明は完全にプログラマ向けだ。序文からしてそれは明確になっている。

しかし、われわれギークの胸に秘められた「どうやって?」、「なぜ?」という好奇心は、かつてポケットプロテクターを着けていたギークたちから綿々と受け継がれてきたものだ。まさにこの点が、これまでの料理の本には欠けていた。従来の料理の本は「何をすべきか」をステップと分量を示しながら説明するため、技術者スタイルの指導方法とは相容れず、読者に考える余地を与えないものだったからだ。

具体的なレシピももちろんあるが、料理をする際の様々なスタイルの紹介、「なぜそうするのか」というところを重点的に、科学的に解説してくれるので納得度が高い。そうそう、こういうのを求めていたんだよ。

キッチンでの失敗は、たとえ料理を焦がし、お金を「無駄」にしてピザを頼まなければならなくなっとしても、それは実は成功なのだ。こう考えてみたらどうだろうか。物事がうまくいっているとき、そこから学ぶことはあまりない。うまくいかなくなったとき、境界条件がどうなっていたのかを理解するチャンスが訪れ、将来、物事が間違った方向に行ったときに、修正できるようになる。

僕の黒焦げ味なしチャーハンもこの言葉でむくわれるというものだ……。表現にいちいちプログラミング系の概念を挟み込んでいるのもまた面白い上にわかりやすい(プログラミングを全くやったことがない人間にはむしろわかりにくいだろうが)。『包丁を研ぐことは、ファイルのバックアップを取るのと同じようにキッチンでは大事な作業だ。』とか『時間と温度が料理における重要変数であるように、空気は焼き菓子作りの重要変数だ。』などなど。

料理というのは僕にとっては未知の分野なのでどこも知らないことばかりで面白いのだが、中でも知りたいと思っていた項目の中から漏れていた、盲点になっていたのは食品の安全に語っているところだ。本書ではそれぞれの章で専門家へのインタビューが収録されていてそれも面白いのだが、たとえば食品の安全についてはこんなことが語られている。『品質について話をするのはみんな大好きだ。ワインやオーガニック食品、栽培方法など、話の種は尽きない。私の仕事は、人々が嘔吐するのを防ぐことだ。』

いわれてみれば安全についてなんてほとんど考えずにやっていたなあ……危ない危ない。もちろん火をよく通すなどは当たり前にやっているが、生の状態で隣り合わせでおいておくだけで寄生虫や細菌がうつっていないとも限らない。冷凍でない魚にも当然寄生虫や細菌の問題がある。そのどの場合にも想定される寄生虫や細菌のリストが存在しており、死滅する温度なども明確にわかっているので、こうした知識はきっと将来の僕の腹を救うことになっているだろう。

はじめてオブジェクト指向を学んだ時のことはよく覚えている。「現実をうつしとるのにこんな適切な方法があるのか。これを最初に考えた人間はスゴイなあ」という驚きがあった。プログラミングは論理的な言語で現実を抽象化していく過程だ。こうしたプログラミング的な観点から料理をとらえると非常にロジカルに諸々の手順が導き出されてくる。もし仮にGeekってなに? という状態だったとしても、このわかりやすさは伝わると思う。

Cooking for Geeks and non-geeks

Cooking for Geeks ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)

Cooking for Geeks ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)