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The World We Made: Alex McKay's Story from 2050 by Jonathon Porritt

歴史の先生であるAlex McKayが2050年から歴史を振り返って何が起こったのか主要なイベントをざっと見ていく、未来予測系の本だ。単なる「未来はこうなっているかもしれません」とする未来予測とはちがって、時系列順に「この年にはこんなことがあってね……」と架空の歴史を紡いでいくので、個々の予測だけみるとたいしたことない(目新しいものはない)のだが、ストーリー仕立てになっているところが面白い。一貫して、網羅的にトピックをとりあげていってくれるので、たとえばSF作家などがこれを読むと未来社会の構築には役に立ちそうだ。歴史も全部作ってくれているし。

農業、水、食物、生物多様性、気候変動、経済、エネルギー、健康と教育、政治と安全、社会と都市、テクノロジーと工業、旅行と輸送それぞれに数ページだが「2010年以後に何が起こったのか」が描かれていく。本書の特徴を歴史仕立て以外にもう一つあげるなら、写真の多さだろう。全部ちゃんと色がついた状態で収録され、しかも数が多い。「なぜ未来社会の状況が写真(絵)にとれるのか」といえば、現代にとられた写真をハッタリかまして未来社会の写真ということにしたり、あるいは都市計画や大規模な開発計画などはたいてい何年も先の計画図みたいなものをつくるので、それらをさも「実際にできました」といわんばかりに提示されていくのだ。

ぶっちゃけ予測事態はガバガバというか、まともに受け取るようなものではない。基本路線は楽観論によって構築されているので、たとえば核については歴史の途中でサイバーウォーによるハッキングにより現場がクラックされたり、戦争で実際に核が使われるという事例が起こった後で各国は肝を冷やし核の根絶に世界は向かうことになっていたりする。まあ「2050年は核の炎で焼きつくされました。終わり。」ではお話にならないのでしかたがないかもしれないが、そういう感じで「え、そんなサラっと流されちゃうんだ」という部分は多い。

未来予測にはたとえば次のようなものがある。

  • エネルギーの90%は再生可能エネルギーで賄われており、そのうちの電気について30%はソーラーエネルギーである。
  • コンピュータは既に人間の脳と同程度の能力を有している。またロボットは街中に溢れ人間の良きパートナーになっている。
  • ナノテク、3Dプリンタ、biomimicryの技術が製造業を変質させている。
  • 個人向けのgenomics技術が進歩し、健康は誰しもに行き渡ったものとなり、寿命は伸び、死ぬ時を自分で選べるようになる。
  • 世界は依然として裕福な層と貧困層に分離している。しかし貧困層もまた幸せであり、貧困層から裕福な層へとうつる手段は増えている。

基本的には事実をベースにした未来予測になっている為、「なんだそりゃ」みたいな物は少ない。「現在判明している技術の延長線上の未来社会はこうなるんじゃないですかね」という内容だ。ナノテクも3Dプリンタも再生可能エネルギーもロボットも。都市計画なども十年二十年のスパンで考えるものだから、そうした部分はめっぽう当たるだろう。でも何しろ35年以上先のことだからなあ。今(2014)の35年前といったら、1980年ぐらいでしょう。でもそう考えると本当の意味で予測困難だったのはあんまり多くはないのかな。誰もが携帯を持っていることぐらいは簡単に想像がついても、それがスマートフォンであることは想像がつかないみたいな感じか。

個人的に今はあまり注目されていない分野で(注目されていないというのは、こういう現代を基にした未来予測本での話だが)伸びてくるのはバーチャルリアリティだろうなと思う。世界人口が増加の一歩をたどるのか、はたまたどこかの時点で減少に転じるのかはわからないが(先進国は軒並み少子化。文化が発展すると子供を大量に産む圧力が低くなるので文明レベルがあがると子供の数は減る。)限りある資源を有効活用するのに有効な手段として注目されるんじゃないかと思う(人が移動する、遊ぶ、といった行動を制限できる)。

項目としてあったら嬉しかったのは宇宙開発の分野だろうか。2010年台後半にむけて多数の企業から宇宙旅行パックが出てきている。今はまだ一瞬地球大気圏外をでますよ、みたいなのが多いが2050年にもなれば月旅行ぐらい一般化していてもおかしくはない。アメリカの国策としての宇宙事業がどこを向いていくのかも重要だ(火星か? 地球軌道上に施設を充実させるのか? 無人探査機を重視するのか?)。

物足りなかったのは経済の分野で、この崩壊しかかっているともいえる資本主義経済が果たしてちゃんと機能したまま2050年まで持ち越せるのかよという疑問がある。このへんの予測は難しい。本書では世界的に起業家が増え、世界中が経済圏に巻き込まれるといった当たり前のことからお金の価値(というか消費か)は今よりもずっと低くなり、協調と自身に必要なものは自分たちで取得する状況について言及している。再生可能エネルギーが主軸になり、食物の生産が生活と一体化(都市の至る所にソーラーパネルがあり、また都市全体に供給される食物の栽培書が都市と共存していることになっている)したという前提から導き出される状況で、このへんはなかなかおもしろいか。

※食物の生産が都市と一体化した図
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とまあ微妙な部分ももちろんあれ(この手の本だとしかたがないんだけど)、その一貫した歴史観と、あくまでも堅実に事実ベース、現在から予測されるものをキチンと書く、映像多めでというのが面白い一冊だった。Kindleで紹介できればよかったんだけど紙の本しかないから、欲しかったら紙で買ってね。

The World We Made: Alex McKay's Story from 2050

The World We Made: Alex McKay's Story from 2050