基本読書

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情報汚染の時代 (角川EPUB選書) by 高田明典

ツイッターにタンブラーに動画サイトにアルゴリズムで自動的にニュースを取得してくるサイトに……今やどこにいっても常時更新が行われるサイトばかりで、情報を取得して時間を潰そうと思えばいくらでも出来てしまう。いたるところで情報が吐出されて、話題はすごい勢いで移り変わっていく。僕はツイッターで1000人ばかりフォローしているが平日だろうがなんだろうがすごい勢いで更新されるのでろくに読めない。いたるところからいろんな情報がリツイート(引用)されてきてその情報の真偽を確かめることなどとてもできはしない。だからせめて僕はリツイートをしないようにしている。

また、本来自分に関係のない情報に時間をとられるのはあまりいいことではない。時間はうまく使えば賃金効率をあげる投資に使うこともできるし、自身のもっと他の楽しさを感じることにも使える、貴重な資源だ。かつてテレビがその受動的な、楽な暇つぶしツールとして普及したように今はネットの情報がその位置にとって変わりつつある。スキマ時間をニュースやツイッターやフェイスブックで埋めるのだ。ぼーっとみているだけで次から次へと情報が流れてきて別の場所にうつる必要もない。

こうした日常的に情報の奔流に晒されている時代において、情報とどのように向き合っていくのか、情報の質をどう判断すればいいのかというのは重要な課題のひとつであり、本書はまさにその部分を教えてくれる。真偽の確認もとれない情報を拡散し、悪意や錯誤、誘導の混じった情報にいいように踊らされて、自分だけならまだしも拡散に加担してしまう前に、誰もが中学校ぐらいで覚えていたほうが良い知識ではないだろうか。もちろんどれだけ気をつけてもすべてのノイズを除去できるわけではないが、それでも無防備に情報の奔流に立ち向かっていくよりかは余程マシだ。

質の悪い情報ばかり受け取って自身の中でフィルターとして持っていると、その後に入ってくる情報も悪い情報ばかり素通りするようになる。「UFOは存在する」という強い確信、フィルターをいったん自分の中に持ってしまったらその後の情報はUFOが実在するものばかりが素通りしてしまうだろう。情報をたくさん受け取ればそこには大量に質の悪い情報が含まれてくるので、好ましいことではない。厳選された情報源にふれるのがいいが、厳選のためのフィルターを形成するのが最初は難しいから本書のような手順書が必要になってくる。

さて、そうはいってもどうやって、情報の確実性、あるいは汚染度を確認したらいいのだろうか。たとえば人は情報の正誤をどう判断するのか単純化して考えてみる。地球は四角いなどというやからがいたらそれは圧倒的現実性のまえに「正しくない」と断定できるが、「仙台で雨がふっている」と言われても自分がそこにいない場合正しいのか正しくないのかなんてよくわからない。しかし、わからなくても一般的にいって権威やこれまでの信頼を積み重ねている報道機関、天気予報によって「仙台は雨である」と宣言されているのであればまずもってその情報は真実性が高いとかんがえることができる。

ここで重要なのは次の2点である。「情報の正誤は自身が信じている情報との齟齬の大きさ、あるいは元となる情報からの推測によって判断される」もしくは「信頼性の高い情報経路を経ているか否かによって判断される」ということだ。「地球が四角い」は前者によって判断でき、「仙台で雨がふっている」は「信頼できる情報経路か否か」である程度判断できる。問題は自分が確信を持っている情報の正しさはどのようにして担保されているのかだ。「地球が歪んだ円形である」というのは僕はこれまで受けてきた科学教育の結果としてそう信じている。また地球外からの映像などによってもその信頼性はましている。ただしそれも結局は自分で見てきたことではないため、結局もこれは「情報経路の問題」ということになる。

さて、というわけで最終的に「情報の質の判断基準」を考えるにあたって重要なのは、とりあえず「情報経路の信頼性はいかにして判断すべきか」に集約されるだろう。このあたりは本書で前提となっている「情報とはなにか」「情報汚染はどうやって発生するのか」の部分を盛大にはしょって勝手にまとめてしまっているため、なにか抜けがあるかもしれないが、とりあえずそういうことにしておこう。念のため、簡単に概要だけ説明すると、情報とはありのままのデータ+それを発する人の意図の複合体であり、情報汚染は錯誤、悪意、意図、過剰によって発生する、ということを詳細に理屈を説明している。

ではどうやって錯誤、悪意、意図、過剰といった情報汚染の要素を判断すればいいのか? 本書はそのポイントをわかりやすく5つにまとめてくれている。①情報経路の任意性、②情報経路の無関係性、③情報経路の権威性、④情報経路の継続性、⑤情報経路の開放性。これだけだとよくわからない部分も多いと思うが、チェックリストにもしてくれているのでそこだけ引用してみよう。

  • ①その情報は、あなたの問いかけによって引き出されたものか[1]、それとも、相手側から言い出したものか[0]。
  • ②その情報は、その提供者の利害に関係していないか[1]、関係しているか[0]。
  • ③その情報の提供者は、その分野において名の知られた人物(組織)であるか[1]、否か[0]。
  • ④その情報の提供者は、長年にわたって(少なくとも2年以上)、その分野での情報を提供している者であるか[1]、否か[0]。
  • ⑤その情報の提供者は、個人の資格でその情報を提供しているか[1]、それともなんらかの集団名・組織名・団体名の肩書のもとで発言しているか[0]

1とか0とかついているが、ポイントだと思ってもらっていい。点数が高ければ高いほど情報経路の質は高いと考えられる。たとえば①や②が0だった場合、相手の意図により情報は欠落していたり利害のため誘導がかけられている可能性がある。STAP細胞を例にとれば、①②は0、③④⑤が1で合計3点となる。マスコミや書籍経由の情報という時点で②は殆どの場合0になってしまうので5点がつくのは結構珍しい事例だといえるだろう。4点あるとかなり信頼度の高い情報といっていい、厳し目のチェックリストだ。

この判定でいくとツイッターやフェイスブックで流れてくる情報のほとんどが信頼に足りないものであることはいうまでもない。ツイッターをやっている人間の中には幾人もの専門家がいて、上記のチェックリストを3点以上程度で発信している人達もいるからすべてではないが、匿名か匿名でないかが問題ではなく、その人の所属している組織、経験といったものが明らかにされており利害関係まで把握できるような情報がない限り信用しないほうが無難だからだ。

もちろんこのようなチェックリストをそのまま踏襲する必要はない。おかしいと思うところがあれば変えてみるのも、減らしてみるのも、増やしてみるのも、ポイントを変えてみるのもいいだろう。本書はこのチェックリストだけでなく、どうやって情報経路を増やしていくのか、また情報汚染に対抗する手段として情報除染をどう行うのかについてなど、情報と付きあうための手法がいくつも書かれている。情報とのつきあいかたに悩んでいる人には、全体的にオススメの一冊だ。

情報汚染の時代 (角川EPUB選書)

情報汚染の時代 (角川EPUB選書)