基本読書

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原作と映像の交叉光線 by 千街晶之

なんだかかっこつけた題名だが、ようは原作付きで映像化された作品を原作と比較しながら読んで(みて)いこうという、ただそれだけの本である。ただそれだけといっても原作の映像化は全部が全部同じようになるわけではない。原作にできるかぎり、セリフまでふくめて忠実に作られた映像作品もあれば、ほとんど原案だけに留められ大きく改変されている作品もあり、細部の解釈を変えているものもあればラストをガラっと変えているものもある。文章や絵から時間を伴う映像へと表現手段が移り変わり、そもそも原作はだいたいにおいてその媒体にふさわしい長さを持っているのに映像ではそれを数時間に収めなければいけない。無茶が必要になるのが当たり前で、その変更にもいちいちドラマや苦悩の影がみえる。

うまくいっているものもあればうまくいっていないものもあり、「原作と映像の関係」というただそれだけの話しなのだが、どこが改変されているのか、またそれはなぜ改変されているのだろう、試みはうまくいっているのか、はたまたうまくいっていないのかと考察していくなかなかおもしろい一冊に仕上がっている。映像化されたのが2000年以降という縛りがあり、作品も犬神家の一族からアニメ作品UN-GOまで多様にとりそろえられている。ミステリ系の小説だけではなく、DEATHNOTEのような漫画からの実写作品や、アニメ映画イノセンスも取り上げられているので自分の知っているものだけ拾い読みするのもありだろう。なにしろ結構な頻度で結末近くまでネタバレされてしまうので。

僕はネタバレ気にしないので全部読んだが。観る気のないものもストーリーはざっくりと全体を説明してくれるし、見どころも説明してくれるので見た気分になれる(邪道だが)。最後に28作品考察されているので、その内訳を目次として載せておこう(引用ではなく自分で作成)

第1部 謎解きのカレイドスコープ

  • 箪笥の奥の闇―『犬神家の一族』
  • 裏切りの永劫螺旋―『アンフェア』
  • 銀幕観想術─『アヒルと鴨のコインロッカー』
  • 銀色のミスディレクション─『姑獲鳥の夏』
  • 海峡を超えた女王─『ゼロ時間の謎』
  • 牙を剥く聖都─『天使と悪魔』
  • 彼らの愛した数式─『オックスフォード連続殺人』

第2部 幻影のアルバム

  • プティ・トリアノンの百七人―『理由』
  • 窯変の牢獄―『46億年の恋』
  • 風とマレビト─『六番目の小夜子』
  • 五衰の檻─『おろち』
  • 純粋すぎる風景─『GOTH』
  • 独身者のゴースト─『イノセンス』
  • 東京怪談─『パレード』

第3部 過去へのタイムマシン

  • 死美人狂想曲―『ブラック・ダリア』
  • 奇術と魔術―『プレステージ』
  • 見えない翼─『点と線』
  • イリュージョンの陰画─『幻影師アイゼンハイム』
  • 芳香の救世主─『パヒューム ある人殺しの物語』
  • 昭和闇迷宮─『ロストクライム─閃光─』

第4部 善悪のラビリンス

  • 迷走の遊戯、暴走の正義―『DEATH NOTE』
  • 眼球都市の死角―『マイノリティ・リポート』
  • 最も危険な賭け─『ミスト』
  • 失われた時間─『オールド・ボーイ』
  • 二〇世紀のスパイの肖像─『007/カジノ・ロワイヤル』
  • 記憶の旅の果て─『アンティーク〜西洋骨董洋菓子店〜』
  • 凸面鏡に舞う─『告白』
  • 敗戦の考現学─『UN-GO』

原作と映像の交叉光線 (ミステリ映像の現在形) (キイ・ライブラリー)

原作と映像の交叉光線 (ミステリ映像の現在形) (キイ・ライブラリー)