基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

RPF レッドドラゴン

TRPGの手法を用いて「最高のフィクション」を生み出すためのシステムなどといって出てきたロールプレイングフィクション(RPF)などというイマイチよくわからないものが最初このレッドドラゴンのウリ文句だった。それってようはTRPGのリプレイってだけでしょ? なんで新しい名前を付ける必要があるわけ? と物語が始まり、まだまだ完結まで時間がかかりそうな時は思っていたのだが、完結してみればこれはもうびっくりしたという他ない、たしかにこれはTRPGというには異質すぎるし、新しい名前をつけたくなるもわかりますという笑

もう、参加プレイヤーからワールドクリエイターからスタッフ陣まで含めてあらゆる部分において凄いし、もう最初の最初でこのRPFなどというジャンルがあるとしたら、そのジャンルを終わらせにかかっているとしか思えないような総力戦。虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟という面々のプレイヤーとしての完璧さに加え、フィクション・マスター三田誠による完璧な合いの手、世界観構築、システムデザイナーによるシステムの作りこみに加え、さらにはそれをサポートする小道具の数々……。

簡単に本シリーズがどういうものかを説明しておくと、ロールプレイングフィクションにて行われた六夜のセッションを文字化したものである。『RPF――「Role Playing Fiction」とは、「最高のフィクション」を生み出すためのシステムです。参加者は全員が一線級のクリエイター。TRPG(Table-Talk Role Playing Game)の手法を用いてFiction Masterが企画したオリジナルシナリオの世界で、クリエイターたちはそれぞれが一人のキャラクターを演じ、一丸となって「最高のフィクション」を紡いでいきます。』『レッドドラゴン』 | 最前線 より引用したとおりのもの。

簡単なあらすじ

世界は、ふたつの国家の膠着が形作っている。七竜のうち三柱と契約し、一度は世界を征しながらも、衰退しつつある最大国家ドナティア。かつては遅れをとり、ドナティアに侵略されながらも、今旭日の極みにある黄爛。その睨み合いのただ中に――ニル・カムイと呼ばれる島国が存在した。まあいってしまえば三国志みたいなものだ。この三国志状態の世界において、気が狂って世界を破壊しまわっている赤い竜を討伐するよーといってなんだかんだあって集められるのがプレイヤーの五名。みなそれぞれの勢力から、それぞれの思惑を持って参加してきており、みな一癖も二癖もある過去や特殊能力を背負って参加してきている。当然、仲良しこよしの珍道中などにはならず、陰謀と策略が渦巻くどろどろチームの出来上がるというわけだ。

プロ物語作家陣による即興演奏

で、このレッドドラゴンという世界観の中に配置された虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟がつくりだしたそれぞれのキャラクタをもちいて、ダイスをふって行動の成否判定を行い、各自がおもいおもいのプレイングをしながらシナリオを前へ前へと先へ進めていく。目的はひとまず赤い竜討伐だが、みな腹の中では別の目的を抱えているのでてんやわんや。ちなみにリプレイ自体は、セッションを完全に小説のように描写するのではなく「うぎゃーダイスミスったーーー」とか盛り上がるような場面では全員の盛り上がりがちゃんと描写されているので、その時参加している人達の熱狂がまるで感じ取れるようになっている。

とにかく圧巻だったのはやはりプロの物語作家の力量。キャラクタに入り込むというか、行動原理を深く理解、あるいは設定しその時々の行動判断がひどく的確で、迷いがない。そしてさすがはエンターテイメント作家ばかりというか、読んでいるだけでは到底考えつかないような奇策、そこまで考えていたのかという思考の深さにより世界観を広げていってくれる。その場のセッション、人々のやりとりで成り立っているはずの物語なので、本来であれば「読み物としてまるでつまらない」物になったっておかしくなかったはずなのに、最後まで読み終えてみればそこらの凡百の小説を読むよりずっと手に汗にぎり、なんなら奇声をあげながら読んでいる自分に気がつく。

いやほんと、もう最後の方はその異常な展開の数々にもう笑いっぱなし。「そんなことがあっていいのか!!!!」と笑い、そして物語としてはシリアスそのもので個々人の成長、過去の清算、目標への執念が語られているわけであって、セッションの盛り上がり笑いながら物語の展開に泣くといった面白すぎる状態に陥ってしまった。それぐらい物語として完成度が高い。シナリオ上何度も何度も「そんなバカな!!!」としかいいようがないことがおこり、フィクション・マスター三田誠は何が起ころうとも「いやはやこうなるとは……でもちゃんと想定してます」と対応してみせる。お前ははやぶさの技術者か何かなのか、というぐらいあらゆる事態が想定されていて、本書がたどったルート以外も膨大な量の設定が隠されていたはずだ。

みなプロの作家であり、スタッフの力量も本物で、準備にかけた時間も半端ないものであればこそ。湯水のように使い捨てられていく、そうした人間の思考力の数々が、予算をかけられまくって一瞬で派手な映像が錯乱していくハリウッド映画を見ている時の如く脳内にアドレナリンを放出させていく。物語が終盤に向かうにしたがって、レッドドラゴンは単なるTRPGの枠を超えて動き始まる。具体的にはシュミレーションゲーム地味た勢力争いになっていき、個々人の物語を超えて組織対組織の大きな枠組の中で物語が動いていく。一人のプレイヤーの行動に度肝を抜かれ、その次のプレイヤーの行動にも度肝を抜かれ、フィクション・マスター三田誠の対応力に驚いて、その構築されきったそれぞれの考えに追いつくのにひどく時間がかかる。

普通、小説を一人で読んでいる時は「すげえええ展開だあああ作者は天才だぞおおお」と思っても、一緒にその興奮を分かち合ってくれる人は、少なくともその場にはいないものだ。テレビのバラエティ番組などは「ここが笑いどころですよ〜」とご親切に笑い声を入れてくれるが、小説にそんな素敵機能はついていない。でもこれはリプレイなので、明らかにすげえええ展開だあああなんだこれえええええと叫びたくなるようなところでは実際プレイヤー達の「すげええええええええ」という生の反応が収録されているので、「いやほんとすごいですよね」とまるっと同意してしまう。読んでいるだけだが一緒に参加しているかのような臨場感があるのだ。

TRPGというのは、どれだけルール内で、ゲームを破綻させないように面白い行動をして、面白い物語を紡ぎ出せるのかという各プレイヤーの技倆の張り合いの場でもあると思う。一人の意外な行動が連鎖反応的に他のプレイヤーに決断と行動を迫り、真っ当な道からずれ始めた物語は誰にも想像の出来ないものになる。どれだけそのキャラクタの内面をつかみとり、どれだけ世界観を深く理解し、どのように劇的な展開を演出するのか。これらの点において、参加者はまさにプロとしての力量をみせつけてくれた。

やりたい放題やっているようであって、決してゲームの世界観の枠をはみ出さず、その上で最大限の無茶苦茶、それも物語を面白くする方に──をやってみせる。それができるプレイヤー達と、そしてその無茶苦茶を受け止めることのできる、フィクション・マスターとスタッフ陣がいたというのはすごい話だ。

出目の緊張感

またTRPGが面白さの一つは、どれだけ参加者が熱心に自分の進みたい展開を考えたり、こうありたいという形をフィクションマスターが考えていたとしても、ダイスの出目によって成否が判定されてしまうことだろう。これはそれぞれが物語を、作家として描くときには基本的に起こらないことである。よかれとおもってとった行動が失敗したりするし、失敗するはずのなかった行動が極度の不幸によって失敗したりする。でもその運要素こそが物語を常に予想がつかないものにしており、その緊張感を物語のプレイヤーも読者も共有している。

実際、どのタイミングでプレイヤーキャラクターやシナリオ上重要な人物が死んで世界から離脱してもおかしくないので、これだけ緊張感のある物語もそうはない。その無茶苦茶の真骨頂は、スタッフ側の本気も含めて「第四夜以後」に表れている。作家陣はその考えぬいてきた自身の行動原理と、即興の解釈によって物語を湧きたて、スタッフ陣はジオラマをつくってきたりフィギュアを全キャラ分作ってきたりする。最後はスタッフ含めると野球ができる程に人数が膨れ上がり、各陣営の戦闘状況を総掛かりで計算し始めるなど、通常のTRPGの枠をはるかに超えてリアルタイムストラテジーじみた複雑な計算が人力で行われるようになる。

ただし歴戦のTRPG戦士や、プロ作家ばかりが集まったわけではない。今回参加者の中にはTRPG未経験の人間もいれば、イラストレーターであるしまどりるさんも参加していて、「ああ、明らかに慣れていないんだなあ」と最初はわかる。TRPGほぼ未経験の上に、物語作家でもない、しかも回りにいるのは歴戦の作家達なのだからそのハンデは相当なものだ。でもその慣れてなさはキャラクタの精神的な幼さ、考えのなさと同化させられており、TRPGという形式に慣れていくと同時にそのキャラクタの覚悟が決まっていくという形で演出に消化されていくなど、とにかくよく考えられているんだよね。

実はこのレッド・ドラゴン、第三夜まではウェブで読むことができるのでここまで読んで気になった人は是非そこまで読んでもらいたい。しかし、肝心の第四夜以後は存在しない笑 本当に凄い、無茶苦茶になってしまうのはそこからなんだけど。SESSION - 『レッドドラゴン』 | 最前線 第四夜より先は、諦めて本を買って読んでもらいたい。僕はてっきり全部ウェブで読めると思っていたから、第三夜まで読み終えたところで「おのれ星海社ーーーーー!!!」と叫びながら本屋に駆け込んでいって4,5,6夜分を一気に読みきってしまった。

もう最後の最後、奈須きのこキャラクタがみせたキャラクタへの解釈に、最初はおどおどしてろくに物語に割って入れなかったしまどりるキャラクタの決断と絶妙な判断に、最後までヒールに徹してみせた虚淵玄キャラクタのエンターテイメントぶり、膨大な数のNPCの行動計算を行うスタッフたちとすべての世界観を作り上げたゲームマスター達、「展開に燃えた」だけではなく、「プレイヤーの思考力と、判断力」に感動して涙が出てきたものだ。ああ、人間は即興でここまで物語をコントロールできるのだと。レッドドラゴンは物語に感動し、さらにそれを即興で構築していくプロの作家たちそのもの、これを全力でサポートするスタッフに感動する、特殊としかいいようがない物語だった。

まあ、まずはウェブで三夜まで読んでみてくださいよ。そこでいてもたってもいられなくなるか、「まあこんなものか」と思うかはわからないけれども、僕と同じようにいてもたってもいられなく本屋に走るようならこれぐらい面白い物語も存在しないんだから。

RPF レッドドラゴン 1 第一夜 還り人の島 (星海社FICTIONS)

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RPF レッドドラゴン 2 第二夜 竜の爪痕 (星海社FICTIONS)

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RPF レッドドラゴン 3 第三夜 妖剣乱舞 (星海社FICTIONS)

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RPF レッドドラゴン 4 第四夜 夜会擾乱 (星海社FICTIONS)

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RPF レッドドラゴン 6 第六夜(上) 夢幻回廊 (星海社FICTIONS)

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RPF レッドドラゴン 6 第六夜(下) 果ての果て (星海社FICTIONS)

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