100の様々な発想を元に、1発想につき見開き2ページで簡単なエッセイが書かれている本。100の講義シリーズの第三弾だ。ただ、内容につながりがあるわけでもないので別にこれから読んでも問題ない。
定期的に出るので森博嗣さんの日記のように読んでしまう。内容的には既に読んだことがあるようなものもあるけれど、何分こちらも状況が変化していくうちに以前は気にならなかったところに引っかかったり、ああ、これは応用できそうだなと思うところが出てくる。ほんの数年前までは学生だったが今は仕事をしているので、仕事関連の話はより前のめりで読むようになったし、プログラムも組むようになったのでプログラム系の話にはよく注意を払うようになった。結局コレは自分自身の環境の変化がそのまま興味というか動機へと繋がっているわけであって、無関係なものから抽象化し別の物事へ当てはめていないのだと少し残念になるけれど、でも否が応でも環境に左右されるものだよなとも思う。
しかし本書は物書き森博嗣が100のエッセイを書いたものだが、他にこういう形式の本を僕は見たことがない。僕は元々森博嗣作品ファンなので自然に手にとったけど、まったく情報がない状態からこの本を読む人がいるというのは驚きだ。何を求めて買うんだろう。僕は一応おすすめするような立場だと思うのだが、この本の何をおすすめしたらいいものなのかよくわからない。自分が初めて氏のエッセイを読んだときは、ずいぶんと驚いたものだ。わりとあんまり表立って言われることのないことを「ああ、すっきりいってくれたぞ」と思ったり、難しいことがまったくなく、理屈がスパっと書かれていたり、「そんな発想があるのか」といった物事への切り口を教えてもらったと思う。
もう何冊も氏のエッセイを読んできたせいで、最初の時の感動をすっかり忘れていた。文章で金を稼いでいるのだから当たり前なのだが、森博嗣さんの書く文章はやはり唯一無二だと思う。だから、たぶん今まで森博嗣エッセイを読んだことがない人ほど面白いと思うし、あんまり読んだことがなければもっと面白いだろう。特定分野、たとえば科学や文学といったジャンルに限ったエッセイでいえば、面白い物を書く人はいくらでもいる。でもこのようにノンジャンルなエッセイではいまだに僕の中では森博嗣さんのものが好きだなあ。一番かどうかはまた微妙だけど。
書いていること全部がもちろんストンと腑に落ちるわけでもなく、「うーんそうだろうか。どうもそうは思えないな」とどこが違うのか考えたりする。僕もさすがに森博嗣さんの膨大なエッセイ(日記含む)をほぼすべて読んできただけあって、発想の癖だとか、理屈の構築の仕方にはずいぶんと影響を受けている。「ああ、これはおんなじことを考えていたな」と思うこともあれば、同じようなことを考えていたことのまったく別側面について言及されていたりして、長年読んできたからこその面白さみたいなものもある。
なんというか、何十冊も一人の著者のエッセイを読むというのは、その人間を自分の中に取り込んでいく過程に等しいと思う。考え方の理屈や、論の構築の仕方は先ほど書いたように自分のものと混ざり合っていくのはもちろんだけど、それとは別に常に自分の中にもう一人別の考え方を持つ人間がいるようになるというか。僕は別に森博嗣さんにあったこともないし、小説やエッセイを読んでいるだけなのでそれで人格がまるまる構築できるとは思えないから、自分の中にいるそのもう一人の人格は完全に自分で作り上げた仮想のイメージではある。でもそうした仮想のイメージであっても、明確に分離された考えの軸が一本あるというのは、なかなか面白いことだ。
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