基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

西尾維新対談集 本題

いやあこれは面白かった。西尾維新と五人(小林賢太郎、荒川弘、羽海野チカ、辻村深月、堀江敏幸)の対談集。西尾維新という作家は読者が多いだけにいろいろと否定的なことを言われることも多いし個別の作品をみていくとまたクォリティにばらつきがあるけれど、今の文芸作家、エンターテイメント全般の中では明らかに異質というか、突然変異体のようなおかしさを抱えているわけであって、こうした小説以外のものが出て「物語という成果物以外のところからみえてくる西尾維新」が見えるのは面白い。楽しみにしていた一冊ではあったが、期待どおりだった。

常々集団作業に向かないといったことを自分から言っており、ものすごいコミュ症であろうので、対談なんてできるのか笑 というところはあれど、顔出し系のイベントに出てこないだけで意外と対談自体は数をこなしているんですよね、むかしから。この本は西尾維新がインタビューしにいくというよりかは、書名にもあるように完全に「対談」なんだけど、インタビューとしての面白さの詰まっているところもよかった。「良いインタビュー」なんてものはそれこそいろんなパターンがあるだろうから一概にまとめられるものではないのだけれども、相手の作風やこれまでの歩みと分野をよく理解して、さらにはそのうえで「なんらかのテーマを持って、それを聞き出す」という形は一つの面白さかなと個人的には思う。

で、西尾維新さんは各作家陣にたいしてそのテーマを明確に設定して挑んでいるように見える。そのテーマが何かといえば基本的には自分に欠けているもの、たとえば持続的に長編に取り組むだとか、日常的な描写をどう書くかといったような、自分にないものを取り込むための対談になっている。ある意味作家修行の場のようなもので、真剣さも伝わってくるし、緊張感もある。

西尾維新側から取り込むばかりではなく、対談相手の方も西尾維新作品を読んできていて、作品への言及や対談相手側からみた西尾維新作品の面白さに触れている部分も多く、そうした中でお互いに取り込めるものを取り込んでいこうとする姿勢も面白かった。なんだろな、それぞれ漫画家や劇作家と立ち位置が異なるからこその部分もあるだろうし、そもそも一日二万文字書くとかいう西尾維新スタイルが異質すぎる為にお互いに心開けるのかもしれない。スタイルが似通っていると結局明確にライバルということになるので、ここまで打ち解けられはしないんじゃないかな。

いない人

そういう意味で言えば本書最大の違和感は対談相手に「森博嗣」がいないことではある。というのも、西尾維新初期の対談で高校生の頃から森博嗣作品を読み続けており、「森博嗣になりたかった」とかメフィスト賞をとっていずれはメフィスト賞作家として森博嗣さんと対談をする、その地点がゴールでその日のために小説を書き始めたようなものですとまで言い切っているのに笑(別冊宝島「森博嗣本」より)

本人が話を受けなかったのかもしれないし(最近はもう表には出てこない)、そもそもそうした現状を把握して遠慮したのかもしれないし、まあいくらでも理由は考えられるのでどうでもいいことではあるのだけど、できれば現在の二人の対談も読んでみたかったな。まあ今までこの二人は何度か対談しているから今更いいような気もするけれど。

創作家同士の視点

僕は創作家同士の対談が好きで、あんまり読まない作家のものでも見つけたらちょくちょく読んでしまうのだが、それはやはりただの読み手と創る側ではみているところが違う、というところに面白さがあるから。まあいってみれば創る側はなんだって自由なのだから、あらゆる場面に自分の意思を反映させられることができる。名前の符号だったり、普通に読んでいたら絶対わかりそうにない意図を含ませられる、どこから攻めても大丈夫だという攻める側の優位性がある。

読む側はおそらくそういった創った側が意図したものを全部読み取ることは不可能だろうし、意図したものを読み取ることが読書だったり鑑賞ということでもないからそれはそれで当然なのだけど、でもやっぱり自分が気がついていなかった点についてのこだわりを聞いていたりすると、ああ自分はもっと本から多くの情報を読み取ったり、あるいはそこから新たな意図を自分なりに生み出したりしてもっともっと楽しめたはずなのにと悔しくなる。もっと自分の中にとっかかり、楽しめる視点をたくさん持っていれば、同じものを読んでも楽しみ方が増えるはずなのだ。

たとえば漫画家やアニメーターやイラストレーターのような絵を描く人達はやっぱり、同じものを見ているようでいても全然違うんだよね。造詣の物凄く細かい所をよくみていたり、あるいは水滴が落ちたような一瞬の挙動をすごく印象深げに覚えていたりする。観察力が鋭い面もあれど、常に「ちゃんと見よう」としているのだろう。絵を描くとなったらそうした部分まで再現していく行為が必要になるからなんだろうけれど、同じものをみていてもそれをどれだけフォーカスして、どんな視点からみるかによって情報量がぜんぜん変わってくるのだ。

この対談集でも自分が思っても見なかった視点があるなあといくつも気が付かされることになった。たとえば特に羽海野チカさんのこんなお話が凄く印象的だった。

羽海野 チームワークと言ったら……私は今、七人の女の子に漫画を手伝ってもらっているのですが、その中にひとり自然物を描くのがすごいうまい子がいて、イメージだけ伝えて、あとはお願いしますと言って渡すと、すごいものが完成品として上がってくるんですね。私の想像のすっごい上を行くみたいな。台風の日の外の絵を描いてもらった時とかがそうなんですけど。私だったらここで描くのをやめてしまうんだろうな、という先の先まで描いてくれた。台風の日に、雨の中で木が風になびくと、葉っぱの表面だけ海の波のように光って、風の通り道が見える時があるんですね。「……この子、すごいや。あれまで描こうとしているんだ!」と、見た瞬間にひとりでスタンディングオベーションしたい気分でした。ここまでやってくれるとは思っていなかった、というチームワークって、うれしいですよね。

何かスゴイことをやったとしても、それをちゃんと評価してくれる人がいなければ、さりげなく流されてしまうわけで、羽海野チカさんがちゃんと気がついていくのもスゴイな。ここでは羽海野チカさんの話を引用したけれど、他にも多くの創作者側の気付きが得られる良い対談集だ。こういうものを読んでいると、思っても見なかった視点に会い、取り込むことができる。

各対談相手のあまり外に出てこないような面がよく出ているし、また西尾維新という作家がいかに異質な作家であるかといったことが各作家人との対比で浮き彫りになっていたようにも思う。さすがに対談相手も西尾維新もよく知らない人が楽しめるかどうかわからないが、少なくとも誰か一人のファンであれば十分に良い内容だろう。

これでせめて箱入りじゃなければあ……笑

西尾維新対談集 本題

西尾維新対談集 本題

  • 作者: 西尾維新,木村俊介,荒川弘,羽海野チカ,小林賢太郎,辻村深月,堀江敏幸,講談社BOX
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/09/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る