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地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書) by 増田寛也

人口減少への各種統計数値をベースにした危機の解説とその対策案が主な内容で、危機に関しても対策に関してもそれぞれまったくその通りだと頷く内容。一方で疑問点としては、人口減少速度を低下させるための対策が必要なことは確かだけど、仮定として今後15年間である程度状況が改善されたとしても五十年間以上日本の人口が減り続けることは確実なわけで、人口減少問題については産業構造や社会システムをどう変換していくべきかという議論とセットで考えないと現実感がないのだがそこについての視点は対談でちょっと触れられているぐらいでほぼない。

たとえば地方自治体向けの対策も打倒なものばかりだが、各自治体ごとにできることは限られており、現実的に考えてできる手を打ったとしてもどこまで回復するのか未知数である(実験例自体が少なく、成功例も少ない)。一般に少子化対策が成功しているといわれているフランスだって人口置換水準に到達していないんだから15年以上かかっても絶望的な話だ。減るのはほぼ間違いない事項として、「いかにしてスピードをゆるめるか」、「ダメだった場合どうするのか」についての対策が会って欲しかったということ。それ以外については最初に書いたように状況が綺麗にまとまっている良い本だったと思う。

2100年に人口4959万人の未来

日本はこれから本格的な人口減少社会に突入することは多くの人が聞いたことがあるだろうが、それを数字的なところで示されるとけっこう唖然とするものがでてくる。たとえば2010年の推計人口によれば1億2806万人の総人口は2050年には9708万人になり、2100年には4959万人になってしまう。5000万人を割るわけで、最盛期と比べると半分以下に、今後80年だかでなってしまう。移民を受け入れればいいじゃないかという議論は定期的に起こるが、少なくとも生まれてこない分の人間を移民受け入れで増やそうと思ったら2050年までに1000万から3000万近くの移民を受け入れる必要が出てきて、非現実的である。コラム:人口減少経済と移民等に関する一考察(経済学の視点から) : 財務総合政策研究所

次に具体的な出生率などをみていくと、日本の出生率は1.43、出生数は102万9800人となっており、出生率については2005年の1.26以後回復傾向にある。やったね、じゃあほっといても大丈夫だ──といえばそうではなく、実際に生まれている数、出生数は減少傾向。これは当たり前で、生まれた子供の数が他の年代とくらべて少なければその年代でいくら出生率が改善しようが出生数は伸びない。またこうした人口減少については都市よりも先に地方で起こっており、都市で顕在化するよりも先に地方の人口がやせ細ってどんどん消滅していくことで気がついた時には手遅れになってしまう危機感が語られている(第一章、極点社会の到来──消滅可能性都市896の衝撃)。

地方から流出していく若者世代

この地方から都市へ流出していく人口は大学に通うために都会に出て行く学生や、そのままそこで就職し根付く若年層であるためにいっそう地方の人口にとっては厳しいことになっている。産み、育てる人間がいないのだから、地方で人が増えるはずがない。産み育てる人間がいないことによる自然減+育った後出て行く社会減のコンボで気がついた時には回復不可能なまでの打撃を受けている可能性もある。「とはいっても都市に一極集中するのはそれはそれで利点があるのでは」という意見もあるだろう。たとえばエネルギー効率はいいし、経済的な効果も期待できる。

だが一方で経済変動や災害リスクに弱い面もある。ただまあ現状ほぼ都市圏に依存している状況だから「すでにどうしようもないぐらいよええよ」という気がしないでもない。このへんはまあ議論をスムーズにさせるための前提と言った感じでスルーされているので、どこか別の誰かがもっと検討してくれるのをまとう。また本書では都市一極集中のリスクとして都市圏の出生率が2013年は1.13と極端に低いことを指し示し、都市に人口が集中したらこの低い出生率環境に巻き込まれて都市で誰も子供を産まないからどんどん人口減ってくがな! と言っている。これもまあその通りであるものの、都市圏のような人口密集地帯であることが不可避的に出生率の低下を招くのか、対策によってある程度回復できる部分があるのかがわからないので「だから都市一極集中はダメだ」と断言するのは時期尚早だろう。

改善手段は?

問題はなぜ若者は子供を産まないのか、そこをつきとめて自由意志で産まないことを選択した人はともかく「産みたいのに産めない」といった希望が阻害されている状況を環境的に可能にしてあげるのが主な対策になるだろう。そもそも結婚を望んでいない人はいまだにそこまで多数派というわけではなさそうだし、(女性で89%が結婚を望んでいる)夫婦の理想子供数が「2.42」、予定の子供数が「2.07」であることからもギャップが窺える。なかなか産みづらい理由には若年者における非正規雇用者の増加や、ワークライフバランスの確立や育児休暇も自由にとれない労働環境、保育園などの幼児保育施設の少なさ、そうした施設不足からくる夫婦共働き生活の実現困難性、そもそも男性の育児への参加率、参加精神のなさなどはメインどころだろうか。

出生率改善といってもその対策には否が応でも労働環境の改善や子育て参加への意識変革、それからそもそもの施設改革と幅広い分野での改革が必要であって、広範囲にわたる一大事業だ。たとえば出生率と女性就業率の間には関係があり女性の就業率が高いほど出生率も高くなってきている。安倍政権も最近女性の働き方改革を打ち出しているがどうみたってピントがズレており先行きが不安だが、これまで見向きもされなかったことからすると気にはかけているようなので前進はしているのだと思いたい。たぶんこうやって一歩一歩進んでいくしかないのだろう。

政策として身動きが取りづらいのはもう仕方がないことだが、では地方ではどうだろうか。本書はむしろ政策面よりは地方ではいかな手が打てるかの検討が充実している。地方も「若者が流出していくのが問題」なのか「出生率の問題」なのかで様々に打つべき手はかわってくるが、まあ基本的には「出生率目標」の制定とそこに向けての現実的な若者流入施策、有配偶率の向上を目指し、あとは労働需要まで含めた産み育てやすい環境デザインと国レベルの話に「いかにして若者をとどめ、呼びこむか」を考えていく内容になっている。

問題はどこにあるのか

さて、しかしそもそも人口がガンガン減っていくことの問題はどこにあるんだろうか。別に減っちゃってもいいんじゃねー? とはならないのか。大雑把にマイナスポイントをまとめてしまえば「税収がガンガン減りますよ」「企業の顧客があと何十年かしたら半分以下ですよ」「有権者は老人ばっかの元気のない社会になっちゃいますよ」というところだろうか。逆に利点もいくらかはあるだろう。たとえば国家の視点から外せば地球人口はエネルギー的な意味でも環境汚染的な意味でも既に限界なのだから各国家群が人口を減らしていくのは理想的だといえる(別に寄生獣を読み返したからこんなことを言っているわけではない)。

人口減少は多少ゆるやかに出来たとしてもものすごい勢いで減っていくのは避けられないので、むしろこうした問題点に対しては今のうちに方策を立ててほしいと思っている。今まで日本のユーザ向けのみで仕事をして利益をあげてきた企業は今後は国外市場を最初からみな計算にいれていかなければいけなくなるかもしれないし、日本は数十年のあいだ極端な人口不均衡に悩むかもしれないがむしろそこを抜けて1億2000万人よりだいぶ減らした人口でも安定させるべきではないだろうか。企業については一、二社レベルの問題じゃなく国全体の産業構造を変質させていかなければならない大方針転換になってしまうだろう。

さらなる問題は税収で、たとえば年金のような「若年層から集めた金をそのまま年金受給層に流しますよ」みたいなシステムは現状既に絶望的だが、これはそもそもシステム設計の段階でオワってる話なのでこのあたりの改革も一刻も早くしないとキズが大きくなるばかりだ。全体的なインフラの整備もダウンサイジングするとしたら補修や拡大含めて試算しなさなければいけないし、もろもろを含めた膨大なコストと実現性を考えるとこっちはこっちで現実感がない。しかしやらなければならないことだと思う。

しかしまあ問題は山積みだなあ。40年後とか、わりあいちょっとずつでも改善しているものなんだろうか?

地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)

地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)