2012年は個人的に『BEATLESS』の年だった! 読んでないなら読むと、たいへんいいことがある可能性が高い。というわけでBEATLESS - 基本読書 の、2013年冬コミで発表された同人誌がこの『INSIDE BEATLESS』になる。同人誌とはいっても著者は『BEATLESS』のイラストレーターと長谷敏司さんご本人であらせられるので、出版形態だけの話で、中身は完全に公式です。いやあ、とにかくビジュアルが素晴らしいですね。結局単行本では描かれていない人類未至産物のヴィジュアルや印象的な場面でのラフ、表紙ラフ、キャラデザラフなどなど、とにかくビジュアル面での充実っぷりが素晴らしい。
それだけじゃなくちゃんと著者協力なこともあって、DEVICEの詳細な説明であったり(DEVICEがちゃんと絵で書き込まれているのが地味に嬉しかった。マリアージュとかかっこいい!)また「特異点(シンギュラリティ)」を超えた22世紀が舞台なのだが、そこに至るまでの歴史上重要なトピックとその起こった年が載っている情報があって、これが興味深い。しかしSFにおいては「特異点(シンギュラリティ)」がドラえもん的な便利さをもって技術が簡単に限界突破させられる都合のいい嘘になっている状況があって、あんまりよくないなあと思う。
AIが知能を獲得し人間が思いもよらないものをバンバン生み出し、人間を操作することすら可能になることも、人類が肉体を捨ててソフトウェア媒体に移動するのも、「技術的特異点が起こりました」のヒトコトだけで終わっちゃうんだから、「そりゃどうなの」っていう。もちろん本書でも知能を獲得したかのように見せかけるシステムが背後では動いているのだが、どうも現代の延長線上の技術でうまくいく気がしないんだよなあ。とその辺の話はZendegi by GregEgan - 基本読書 で書いたし余談なのでおいとこう。
本書のアイデアとして面白かったのは超高度AIをクラウドで管理することだったのだが、そこに至る過程を改めてこの本で読み直していてなるほどと思ったりした。
自律ロボットを大量に社会へ浸透させた結果、社会の変化やユーザーの要望に対応することで想定外の行動をすることが問題になる。この問題に取り組む国際プロジェクトがクマれ、結果、当時推定30年以上人類を引き離していた9機の超高度AIすべてが、「将来的に制御しきれなくなる」と回答。人類には最低30年間は解決が厳しいと結論され、自律反応を抑えることが主流となる。これがクラウドによる行動管理への流れを決定づけた。
他に面白かったのは、ほとんどの説明に英訳がついていること。元々英語表記が印象的だった単行本だけど、最近はTokyo Otaku Modeで英訳版のBEATLESS連載が始まるなどして⇒BEATLESS | Tokyo Otaku Mode 地味に動き続けている本作ゆえの特徴だろう。うーん、このまま動き続けて連鎖的になんか起こらないかなーと思いますね。なにしろ日本語から英訳されたSFは最近、伊藤計劃の『ハーモニー』がフィリップ・K・ディック記念賞の特別賞を受賞して、円城塔さんのSelf-Reference ENGINEが今回また同賞にノミネートされて、さらには小川一水さんの時砂の王がハリウッド映画化、桜坂洋さんによるAll you need is killがハリウッド映画化と調子づいているから。
なにはともあれファン必見の同人誌であります。買う場合は現状、とらのあな一択みたいです。【とらのあなWebSite】INSIDE BEATLESS