アニメーション制作進行くろみちゃんというアニメーション作品を見た時、あまりに過酷で、平均的な価値観が通用せず、精神を削り肉体を削り仕事をしているのでこんな仕事には絶対につきたくないものだなあと思ったものだった。くろみちゃんはその日が初めての制作進行のお仕事なのだが、前任者は簡単に部屋を案内しているうちに腹をかかえこみ救急車にて搬送。後任者がくるのをまって即効でやめていくことで話がついていたのだ。
その後くろみちゃんは、まったく進展せずにこのままじゃアニメが落ちるしかないという状況にあるアニメーション作品の原画をとりに、アニメーターの家をまわり、調整し、なんとか原画をとってアニメを放送するためのつらい日々が始まる……。あがらない原画に、スケジュール遅れ、徹夜が常態化している作業。そんな状況でいい仕事ができるはずないだろ、と思うのだがそれが「普通」になってしまっている。
くろみちゃんでもこの本『アニメを仕事に!』でも、どちらも「めちゃくちゃしんどい……が、楽しい!」を軸にしている。まあ、そりゃ、金も儲からないわしんどいだけだわでは仕事が成り立たないわけなので、楽しい人には楽しいのは確かなのだろう。ただし3年後の業界滞在率は10〜20%というありさまであり、とても常人に耐えられるような仕事ではない。実際3年後の滞在率10〜20%ってのは相当だよね。「辞めます」といわれても「ああ、君もかね。じゃあばいばい」ってそれぐらいの感覚になっているだろう。
僕はこの本を読んだ後、くろみちゃんを見た時以上に嫌な気持ちになり、「人生のうち死んでもなりたくない職業リスト」にアニメーションの制作進行が追加されたが、つまるところ包み隠さず書いているわけであって、良い本だと思った。まあ、つらいことが知れ渡っているアニメの制作進行の仕事をことさら魅力的に書いたところですぐやめていくんじゃまるで意味がないからなんだろうが……。
ところで制作進行とはいったいなんのことやらこの四文字だけではよくわからないが、ようはアニメーション製作過程における多機能型奴隷のことである。これを心地よい言葉に言い換えると「アニメができるまでの全ての立場に関わることの出来る」立場ということになる。車を飛ばして原画を集め、環境を整え、道具を揃え、人間関係づくり、各種調整……えとせとらえとせとら。
本作ではそうしたアニメーション制作上の過程を、実際のアニメ(リトルウィッチアカデミア)の原画やレイアウトを元に仕事を解説してくれるので、いまいちよくわからないアニメーションの集団制作の過程でいったいどのように仕事が分割されていて、どのように肯定が進んでいき、いったいどれぐらいの人間が関わっているのかということが具体的によくわかるようになっている。
よくアニメーターへのインタビューであるとか、音響へのインタビュー、監督のインタビューであるとか、断片的な情報は集まってくるのだが、究極の下っ端である制作進行の視点からみることで全体の泥臭い部分が見えてくるのはよいとおもった。僕は別にアニメーション関連の仕事がしたいわけではないからあれだが、本気で仕事に死体人が読めば非常に勉強になることしかりだろう。
制作進行は各セクションのクリエイターの作業を、スケジュールどおりに終わらせるのがお仕事です。終われば問題なし! しかしこの業界、90パーセント以上が終わりません! 断言できます! 制作進行がちゃんと状況を把握しておかないと絶対に終わりません! もう一度言います! 終わりません!
しかし泥臭いよなあ……。やりがいをたてに低賃金、異常な重労働が常態化している状況をさす「やりがいの搾取」などの語句まで生まれている現在、一向に労働環境として改善される気配のない制作進行という仕事は(多少は改善されているのかもしれないが)、まさにそのものではないかと思うし、そうした労働環境についての改善への意志がまるで感じられない内容には危うさを感じさせるところもある。
いい仕事ってのは入念な準備と余裕のあるスケジュールから生まれるものであって、忙しく時間に追い立てられた中で仕事をすることが当たり前だと考えているなら、またまだクソッたれた考えで仕事をしている人が支配的なんだなあとしか思わない。
アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本 (星海社新書)
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