基本読書

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ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦 by バズ・オルドリン

 火星移住大作戦とかまたアホみたいな副題がついているから胡散臭い本だなと思っていたが、著者がバズ・オルドリンだった(ジェミニ計画及びアポロ計画に飛行士として搭乗。アポロ11号の人類初の月面着陸において月面歩行をおこなった。)生粋のエンジニアで生涯をかけて宇宙探査にコミットしてきた人間。それだけでも読む価値があると判断するに充分。実際中身も一つ一つ火星行きの論理を積み重ねており、堅実であった。

 そもそも胡散臭いのは民間含めなんだかよくわからない、希望者から金だけ集めてトンズラするんじゃないのかとしか思えない無秩序な火星行きの計画がぽこぽこ立ち上がっているからで、本書もその類のものだと思ってしまった。そもそも火星に行く前に月面基地なり、ラグランジェポイントでの恒常的な滞在基地なり、考えるべきこと、やるべきことはいくらでもある。遠くに人間を送り込んで移住させるよりまずは目の前のことから片付けるのが筋ってもんだろう。

 ロボットの性能はあがり、できることは格段に増えた。一時期騒がれた人口爆発に対応するための宇宙移民の発想も、先進国が軒並み少子化傾向にある中、現実感はなくなってきている。月に人間が行くしかなかった時代とは、今はもう大きく変わってしまっているのだから、「火星移住」なんていうのはどうにも乗り切れないアイディアのように感じてしまっても無理はない。

 さすがというか当たり前というか、そのあたりのことはきっちりと認識している。本書のほとんどは火星に人間を送るというオルドリンのビジョンをトレースしていく過程だ。現実的な火星ー地球間の輸送システムを考え、火星上に生活圏を築き上げるための手段と、それに伴って、まだ開発されていないが必要とされるであろう技術のチェックリスト、それから現在急速に発展しつつあるロボティクスと企業が行う宇宙ビジネスにも触れながら、大雑把なロードマップを描いていく。

 Howの部分はさすがにエンジニアだけあってよく考えられており、面白い。このデザインはたぶん本当に今後も使われていくんだろうな、というものがある。太陽の周囲を進む、途中で地球と火星に近接飛行して2年と52日かけて1周する循環軌道に大型の輸送船を載せ、ほとんどエネルギーを使わずに定期的な航路とする輸送機関のアイディアなど、実現できれば画期的なように思える。

 一方やっぱりWhyの部分はどうにもお粗末だと思った。「なぜ火星に移住しなければいけないのか」という部分だ。正直なところ、彼が人類を火星に移住させるといっているところの理屈は、読んでいる限りではそう大したものではない。たとえば「今更有人で人間を火星に送り込んだとして、それですぐUターンさせてなんの意味があるんだ?」疑問をなげかけてくる。

 今こそ火星に人類を永続的に存在を確立させるとアメリカが宣言すること、そしてそれによりアメリカが宇宙探査上の旗振り役として存在し続けていることを示すのだと。小惑星や隕石が地球に落下してくる危険性も一章を割いて訴えかけてくるが、うーん、意図はわからんでもないけど、もうアメリカが旗振りをするような時代でもないだろうと傍から見ていると思うし、小惑星の追突などはそんな何十年のスパンで考えるようなことじゃない。

 大統領に計画を提出し国策として宇宙政策を推し進めていくよりずっと、イーロン・マスクがやっているスペースX社の計画の方が現実的だと思う⇒火星到達を目指すSpaceX、ブースターロケットの「軟着陸」実験に成功 « WIRED.jp というのも金が客から入ってくるのは大きい。本書でも政治的な意図でNASAの宇宙計画が何度も頓挫し、オルドリン自身の統一宇宙計画も大統領に直接意見を伝えるなどという非効率な手段でしか行えていないが、そんな吹けば飛ぶような作戦で望むには資金がかかりすぎる。

 無茶な努力をしなくても数年以内に確実に現実化する宇宙旅行ビジネスが続いていくうちに自然と必要な技術と資源の導入体制が整って火星行きへの資金が循環し始めるんじゃなかろうかと楽観視してもいいんじゃないかなあ。あと30年以内に達成しないと地球が終わるってわけじゃないんだから、100年200年後に達成できるているだろうなっていう長い目でみればいいんじゃないですかねえとSFが好きなくせに夢も希望もないことをいうが。

 本書のほとんどは火星ミッションについての話だが、時折挿入される自身が月を歩いた時のエピソードもとりわけおもしろいものだった。なにしろ月を歩いたことのある人間など多くはないから、体験談の一つ一つがとても価値のあるもののような気がする。月に降りてまず小便をしたとか、月でとりわけ印象的だったのが船内に戻った後宇宙服についた砂塵の強烈な臭いであったことなどなど。

 オルドリンの案がこの後の米国の宇宙政策にどのような影響を与えるのかはわからないが、まあ仮にてんで受け入れられなかったとしても(これまでの変遷、予算の減らされ方をみるとその可能性が高いように思う)、宇宙旅行ビジネスが始まりつつある現場、未来は明るいと個人的には思う。長生きしてもっと先をみたいものだ。想像もつかないところまでいってしまうかもしれない。

ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦

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