地球という何億年もかけてその形を整え、中の環境を変化させてきた惑星において「植物」が果たした役割とは何だったかについて見ていく一冊。地球も40億年以上生きているわけだから、その間にはいろいろあったわけだ。全地球凍結とかいって地球全体が氷に覆われた時期もあったかと思えば、突如恐竜みたいな一世を風靡した種族が絶滅したり。地球の酸素は今のところ約21%だが3億年前にはその値は35%だった。大気中の酸素含有率がそんなレベルで変動した状況のことを想像できるだろうか? 酸素の濃度って変るんですよ、マジで。当然ながらそんな環境下では動物の生態を大きく変えているし、植物の形も変わっている。
酸素濃度の話
たとえば35%の酸素を含んだ大気というのは濃度がいまより3分の1も高い。そうするとどうなるかというと、大きな動物でもらくに飛べるようになる(21%との比較で)。羽で濃い空気を押すと、身体は楽に浮き上がるようになるからだ。そのかわり空気抵抗が大きくなってトップスピードはでなくなるが。そんな環境だと、我々の現在の地球では到底飛ぶことが出来ないような身体の大きさの実際、この酸素濃度が極端に濃くなった時期と符合するように当時の植物や動物たちはみな巨大化していたことがわかっている。実際現代でも、ショウジョウバエをかつて酸素濃度の濃かった時代に合わせて育てたところ、わずか5世代で14%も大きくなったのだという。豊富な酸素はわずかな期間で植物含む生物の物理的な身体の制約をゆるめることができる、ひとつの証左であろう。
葉っぱと気候の話
なんだかあんまり植物に関係ない話だったのでもっとがっつり植物と気候の話も取り上げてみると、「葉」の話も面白い。毎日植物の光合成を助け、力学的にも理にかなったしなり具合を持つ素晴らしい器官が「葉」だ。しかしこの葉が生まれて、植物界全体に広まるまでに5000万年の歳月がかかった。そもそもなんというのかな……恐竜がいる時代から植物は植物として変わらず存在しているようなイメージがあるけど、当然そんなことがないという時点で個人的には面白かったな。植物もずっと進化・変化を続けてきて、一つ一つの形質を獲得してきた。
しかしなぜこんな便利な器官が広まるのに5000万年もかかったんだろう? 研究が進むにつれてわかったのは、葉をつくる遺伝子それ自体は葉が生まれ、浸透していくよりずっと前から完成していたということだ。それならばなぜ葉は長い間眠ったままだったのか? そこまで至ってようやく、「植物の方で準備ができていたのだとしたら、外的な要因で葉は進化できなかったのではないか」という問いかけが湧いてくる。そして外的要因には、酸素濃度がかつて35%もあったように、二酸化炭素の濃度が関わってくるのだ。
過去4億年から3億5000万年前の間に、二酸化炭素の濃度は現在より15倍も多かった。温室効果によって気候は当然温暖で、植物は豊富なエネルギー源で悠々自適な毎日だったに違いない。二酸化炭素排出量を減らせと我々が騒いでいるのがバカに見えるような二酸化炭素濃度だ。で、この時の植物を調べると、初期の陸上植物は二酸化炭素を取り込むための気孔をほんのすこし、1ミリ四方に五つしかもたなかったんらしい。現在の植物は1ミリ四方に数百だから比べ物にならない。
そしてこうした状況証拠の数々から、二酸化炭素濃度が物凄く高かった時期は気孔の数が少なくても何の問題がなかったのが、濃度が薄くなるにつれて必死に呼吸するかのように葉っぱの面積を増やして、気孔の数を増量させて対応していった植物の涙ぐましい方向性が見えてくる。他にも葉が大きくなると熱の調整が難しく、それ故二酸化炭素濃度が低くなるまで待たねばならなかったのだなどと、有力な仮説が出揃ってきてきたのが現代の植物研究の現状のようだ。
植物の増殖・変化が地球環境に影響を与え、地球環境への影響が地球気候への影響を与える──これはもちろん数百年のような短い単位では起こらず、数百万年単位で段々と進行していく出来事だが、だからこそ人間の時間スケールをはるかに超えていて面白い。
森林が地表を覆うことで雨水がリサイクルされ、有機酸が土壌へ流れ出た。それにともなって陸の侵食によって二酸化炭素が大気中からどんどん取り除かれ、重炭酸塩イオンとなって海の底に埋もれていった。植物の活動は1億年のあいだに陸を削り、その結果二酸化炭素濃度は急降下し、気候は涼しくなり、地球は氷河時代という大惨事の瀬戸際に追いやられた。地球の消化不良によって、湿地には死んだ生物の残骸が大量に溜まり、大気中の酸素濃度が上がった。それは生物に新しい進化をもたらした──動物の巨大化だ。
地球という40億年以上の長い歴史を見ていけば酸素濃度が濃い時代も薄い時代も、二酸化炭素が濃い時代も薄い時代もあった。氷河期もあれば地球全体が熱帯の時期もあった。そうした気候の変化に常に植物は影響を与えてきたし、また同時に影響を与えられてきた流れがある。植物のシステムを知ることは、植物化石に対する理解を深め、化石から地球の歴史を知る手がかりを広げてくれることでもある。今後植物の生態がもっと明らかになるにつれ、過去の気候変動についても新たな仮説が出てくる可能性を提示してくれる一冊だ。
- 作者: デイヴィッド・ビアリング,西田佐知子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2015/01/24
- メディア: 単行本
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