基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

タイトルのまんまだよこれ!──『怪物島-ヘル・アイランド-』 by ジェレミー・ロビンスン

昨日読んだこの本⇒ささやかな英雄の物語──『ストーナー』 by ジョン・ウィリアムズ - 基本読書 があまりにも自分への心的負荷の高い、揺さぶりをかけられる作品だったものでノンフィクションに行く気にもならず、かといってまた重い小説を読む気にもならない。そんなわけもあって気軽に楽しめる小説を読みたいと思って買っておいたこの本を読み始めたのだが、いいヨミだった。何一つ難しいところは存在せず、起こる出来事に一喜一憂してヒーローの姿に喝采をあげ時にどきどきしているうちにあっという間に500ページ読み終えている。タイトルの直球ぶりもまた素晴らしいではないか。もうそのまんまだもんな。

何しろ怪物で島、ヘル・アイランドである。太平洋で洋上のゴミや廃棄物の調査に赴いた<マゼラン>号の乗組員たち。突如謎の海域異変によって大きく船が揺さぶられ、波に攫われ謎の島に漂着してしまう。そこは通常の生態系ではありえないような怪物たちのうごめく怪物島だった──! ってベタベタかーい! という流れだがまあとにかく一つ一つの描写が丁寧で話の流れに違和感もなく、隙がないのでベタさもあまり気にならない。ここまで徹底的に隙なく描写を埋めて展開されると、もはやベタだとかなんだとかのつっかかりがなくツルツルと頭のなかに入ってきてしまうもののようだ。

主人公であるマーク・ホーキンズは頭の回転が早くジョークもこなし、元レンジャーで危機を次々と回避し対処する能力のある生まれつきのヒーローみたいな男。そこに元軍人だがそこまで強いリーダーシップのあるわけでもない船長、ヒロイン役で結局敵に連れ去られてピーチ姫役になるジュリエットなど一気に乗組員が15人ぐらい出てくるので「そんなに名前が覚えられるわけ無いだろ!」と思うが次々と死んでいくのでその辺も親切設計。

流れに違和感がないというのはたとえば「そもそも現代において船がそう簡単に波にさらわれて漂着なんかするか?」「連絡がつかなくなって誰も探しに来ないなんてことがあるか?」「怪物がいるとわかっているのに島から離れないなんてことがあるか?」というこうした島に人間が辿り着き、居残るまでの話を設定的に自然に成立させる手腕であったりする。またこうしたモンスターパニック物の醍醐味である、得体のしれないものが大量に存在している島へ踏み込んでいく時のどきどき感、襲い掛かってくる敵が何なのかさっぱりわからないことへの恐怖感、「なぜ得体のしれないものが存在しえるのか」という世界が明かされていくことへのわくわく感と「モンスターパニック物にあってほしい要素」は一通り高いレベルで揃っている。

で、これ原題は実はけっこう違っていて『Island 731』っていうんだよね。たぶんぱっと見その意図が全く伝わらないから書名を変更させられてしまったんだけど、この731は第二次世界大戦頃の日本の研究機関731部隊のことなのだ、知っている人はすぐにぱっと思いつくのだろうけれども。⇒731部隊 - Wikipedia なかなか不名誉な名前の通り方をしている部隊というか、人体実験だとか生物兵器の開発で有名なこともあって、本作の中ではもう、隠してもしょうがないほど悪の権化のようにして描かれている笑 こういう道具立ての安っぽさというか、魅せ方の安易さまで含めて正しくB級サスペンス映画感があって良い。

冒険小説、ホラー小説、パニック小説(およびそれらの映画など含め)好きな人間にはぜひおすすめしたい一冊だ。それ以上にこのジェレミー・ロビンソン、年に5,6冊の超ハイペースで本を出している売れっ子速筆作家の初長編翻訳作品なので今後のことを考えてもここで抑えておくのがいいだろう。

怪物島-ヘル・アイランド- (ハヤカワ文庫NV)

怪物島-ヘル・アイランド- (ハヤカワ文庫NV)