基本読書

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NEXT WORLD―未来を生きるためのハンドブック by NHKスペシャル「NEXTWORLD」制作班

NHKスペシャルとしてやっていた「NEXTWORLD」の書籍化ver。僕はテレビは観てないので映像がどう書籍に落とし込まれているかという観点は持ちえませんが、これは一冊の本として良い出来。映像を見逃した人も、見ていた人も手元に一冊あると良いんじゃないだろうか。NHKスペシャルはけっこう書籍化されていて、わりとそのクォリティが高いので気に入ってます。映像は自分のテンポで見れないけど文章ならぱらぱらと読めるしね。

趣向としてどのような本なのか? あくまでも「未来を肯定的に書く」ということにこだわっている。ナノマシン、火星探査、VR、人工知能、義肢、人工臓器、世界のあちこちで今技術革新が起こっていて、今我々はまったく新しい世界へと突入しつつある。技術は当然ながら良いことばかりを生むとは限らない。LINEがあったほうが、なかった時よりも人間は幸福だろうか? そんなことはわからないだろう。寿命が今より30年延びたら深刻な問題が幾つも起きるだろう。しかし変化は必ずやってくる。そしてその時に備えて我々はブルブルと震えて、対策を練るのも結構だ。必要なことでもある。

同時にある意味ではそれは「楽しい」未来でもありえる。寿命が延びればより多くのことを達成できるようになるかもしれない。人工臓器で悲しみの中亡くなっていく人々は生き長らえるだろう。宇宙探査が進めば人類史上の出来事が次々と起こりえる。恐怖と希望は同時にやってくるものである。恐怖の面を煽りがちなテレビという大人数向けのメディアでこうした楽観的な内容を(みてないからタブン)放送したのは大きい。エグゼグティブ・プロデューサーの方があとがきを書いているのだが、ぐっとくる言葉だ。

テクノロジーの進化というものは不可逆のものであり、それを前提として、我々はどのような心の準備をしなければいけないのか、という番組にしたかった。自分の気持ちと照らしあわせてみても、なにか新しいものが出現した場合、それにワクワクする気持ちのほうが、心配する気持ちよりも先にくる。そんな正直な気持ちを大切にしたかった。(〜中略〜)
要はテクノロジーが今の時点でどこまで到達し、これからなにを目指すのか、何を変えるのかを知ってほしいという気持ちで制作を続けた。そうした新しいものの中から私たちの幸福を築くためになにを選び、なにを選ばないか、考えるための材料を提供したいと考えた。

本書の特徴としては網羅性になるだろうか。大きく『命と身体』、『生活とフロンティア』、『人工知能と未来予測』と3つに分けて、その中でさらに46のキーワードに細分化してページを割り振っている。1キーワードにつき4ページなので大した事は語ることが出来ない。たとえば『未来の兵士』とかそれだけでも一冊書けそうなテーマをざっくりと「こんなことができるようになるかもよ」とまとめているので、情報量的にはしょぼい。

でもスタンフォード研究所がつくっているウェアラブル・ロボット「スーパー・フレックス」は兵士が歩行に費やすエネルギーを減らそうというコンセプトで、40キロの装備を背負って1時間歩き続けても兵士は疲れを感じなかったという。そんなエピソードをぽんぽんと紹介していってくれるので「ほおほおそうなのか。そんなことがありえるのか」とこちらもぽんぽんと楽しむことが出来る。雑誌的な面白さとでもいおうか。

こうやって幅広く技術の世界をみていくと、技術は他の技術と組み合わさって総合的に進歩していくものなのだなと実感する。たとえば宇宙探査。今ではスペースX社など民間企業で安くロケットを打ち上げ物資を輸送することを試みる企業も出てきている。宇宙への観光計画も今や現実のものとなった。今後よりいっそう、ロケットは安価になり「当たり前」のものになっていくだろう。それでも物をわざわざあんなところまで打ち上げるのはいうまでおなく大変である。何しろ全部あそこまで持っていかないといけないんだから。ちょっとお父さん、爪切りとってというわけにはいかんだろう。

3Dプリンターと呼ばれる技術がある。プリンターと名付けられている通りに、二次元上にインクを吹き付けて文字を印刷するのではなく、三次元の立体物をデータから即席に生成することのできる機械のことだ。この技術の精度があがれば、どんな道具や装置を使えばいいかわからない時や、部品を交換する時など、宇宙飛行士はその場で物資を生み出すことができるようになるだろう。わざわざ打ち上げる必要なく。人体改造によって宇宙に適応するように人間の身体をつくりかえることもできるかもしれない。寿命が伸びればもっと遠くへ宇宙探査に有人でいけるようになる。

3Dプリンターはいうまでもなく宇宙以外の現実でも作用する。家をぽんと出力できたりもするようになるだろう。テレイグジスタンスと呼ばれる遠く離れたロボットを自分の分身のように操る技術は今後人間が外出する機会を大幅に減らすと予想されているが、当然宇宙探査にも有効だ。技術とは宇宙探査から社会設計まで含めてトータルに変化を及ぼすのだ。

そういうのって、なかなか実感としては理解できないものだけれども本書は技術の未来を並列的にみせてくれることで教えてくれる。もちろん本書にはそうした技術がもたらすマイナス面への指摘は欠けている。そうした批判は多く寄せられたみたいだ。もちろん、こうした本を一冊読んだだけで、映像を見ただけで、「未来がわかった」などと思っていいはずがない。

たとえば実際のロボット技術者達が関わった本を読めば、未来はどんどん凄くなると言っても今はまだ満足できないものしかつくれない諦念が伝わってくる。なかなかブレークスルーも果たせない。ブレイン・マシン・インターフェースと呼ばれる、脳の信号だけでアームを動かしたり文字を出力する装置も、今ではまだ度重なる訓練でどうにかこうにかというような状況だ。どうしたらもっとシンプルに連動して動かせるようになるのか? そんなことがすぐにわかるようならとっくにできるようになっている。現実の技術者一人一人の苦闘があってこそ現実は未来へと向かって進んでいく。

そうした前提があってこその本だ。

NEXT WORLD―未来を生きるためのハンドブック

NEXT WORLD―未来を生きるためのハンドブック