基本読書

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十二大戦 by 西尾維新

十二大戦

十二大戦

能力バトルは死んで欲しいというのが僕のささやかな願いである。それも、もたもたとためらわせて演出たっぷりに死ぬんではなく、あっさりと、あっけなく、虫けらのように死んで欲しい。もちろん世の中には数多くの能力バトル物が存在しており、それらは別に人が死ななくても大変面白いものだ。ワンピースは滅多に人が死なないが勿論面白いし、最近だと同じくジャンプ漫画の『僕のヒーローアカデミア』もメインキャラ陣は死にそうで死なない(たぶんそのうち何人かは死ぬんだろうが)が充分にわくわくして楽しませてくれる。

それでも、能力バトルをする以上は死んで欲しい……という気持ちが湧いてくることがある。というよりかは、「いや、その展開なら死んでてもおかしくないよね?」という時にきっちりと死んで欲しいのだ。即死系の能力者に奇襲を受けた時、致命的な油断をしてしまった時、あるいは特に理由がないままに、「殺しあっていて、そういう能力があるんだったら、即死させられるよね?」という時に、即死させて欲しい。ただそれだけのささやかな願いだ。ワンピースを読んでいると、「どうせこいつらはどれだけ傷を負ったように見えても、どれだけ極端な不意打ちを食らっても死なねえんだろうな」と思ってしまう。

たとえば、やはりジョジョのアニメを見ていると「突然わけのわからない能力者に教われて長い旅を一緒に続けてきた味方があっけなく死ぬ」という緊張感は「良いなあ」とじんわりくる。どんなときでも「死にえるのだ」と想起させられるから、なんてことのないシーンにまで読者側に緊張が漂ってくる。同じジャンプ漫画でいえばHUNTER×HUNTERも「呆気なく死ぬ」系の能力バトル物の漫画といえるだろう。ほんのちょっと油断した、あるいは敵わない相手に挑みかかったばっかりに、あっという間に死んでしまう。

西尾維新さんは昔からジョジョネタを作品に紛れ込ませ、ジョジョのノベライズまで執筆している生粋のジョジョ・ファンであるが、そんな彼だからこそ真正面から「能力者同士のバトルロワイヤル」を書いたら、当然のように「呆気なく死ぬ」系の能力バトル小説になる。本書十二大戦は「呆気なく死ぬ系の能力バトル物が読みたいよお。いっぱい読みたいんだ……」というささやかな望みを叶えてくれる一冊だ。干支になぞらえられた十二人のそれぞれ特別な能力と技術を持った戦士たちがゴーストタウンに集められ、お互いの胃の中に存在している猛毒結晶を奪い合う、時間制限付きバトルロイヤルがスタートする。生き残ったものは、どんな願いでも叶えられる権利が与えられるのだ。

正直言って読み始める前はちょっと「大丈夫かなあ」とおもうところもあった。いまさら能力バトル物じみたバトルロワイヤルをやって、新しいものになるんだろうか? 過去にやったことの模倣にとどまるのでは? たとえば近似テーマとしては、バトルロワイヤル要素も、戦略検討型能力バトル要素も、呆気無く死ぬタイプの能力バトル要素も持っている悲痛伝から始まる伝説シリーズが存在している。それ以前の問題として、30の半ばを越えて見事におっさん化した西尾維新は今尚ドストレートな中二作品(中二という言葉もいまやその姿を消しつつあるが)を書けるんだろうか? huyukiitoichi.hatenadiary.jp
結論からいえば杞憂だったわけだが。本作は一章毎に視点人物が異なっていき、それぞれの戦いを描いていくことになるのだが、その為まず最初に「視点人物の簡単なプロフィール」が1ページ記載されている。もうしょっぱなの人物紹介からぶっ飛ばしまくっているので「おお、おっさんになってもまだまだ大丈夫だな……というかおっさんになってなお盛んな中二力だな……」と若干引いてしまった。そもそも近年も漫画めだかボックスで何ページも埋め尽くす能力名を考えてきたりと、中二力はとどまる事を知らなかったから、余計な心配だったようだ。下記は最初に語られていく異能肉さんのプロフィールの一部(なんだその名前)

使用武器は両手に持つ機関銃『愛終(あいしゅう)』と『命恋(いのちこい)』。銃火器の扱いには通暁していて、どんな重厚な武器でも自在に操るのだが、中でもこの二丁は、彼女にとって、自分と繋がっている肉体の一部のようなものである。現在、十二人の男性と健全につきあいつつも、更なる恋人募集中。

あとはニンジャスレイヤーかな? と思わせる要素として、戦士らがお互いに戦闘を始める前に基本的に挨拶をするのが面白かった。これも最初にみたとき思わず笑ってしまうようなアホくささに満ちていて良い。

「『亥』の戦士──『豊かに殺す』異能肉」
「『卯』の戦士──『異常に殺す』憂城」

お、おう。なんだか戯言シリーズを思い出す突き抜けた中二力だな……。めだかボックスやら戯言シリーズまで西尾維新さんによる能力バトルものシリーズの一環に含めるとしたら、本作の新しさはどこにあるのか。一つはやっぱり、その短さだろう。もともと大斬という漫画の読み切り企画で書かれた本作の後日談から派生して、長編になっているのだが、だからなのかなんとこの一冊で話がきちんと終わっている。だらだらだらだらと冗長な文を書き続け、いったんシリーズをはじめれば終わることがない西尾維新作品だから、このスパっと終わってくれる感は貴重だ。

それからなんといっても最初に宣言したように「呆気無く死ぬ」系の能力バトル小説なので、サクサクと死んでいってくれる。そうはいっても、「ただ死ぬ」というのはたいして面白くはない。そこはやはり、ケレン味たっぷりに、「やったぜ! 」と勝ちを確信した瞬間に相手の思いもよらない能力で致命的な反撃を喰らったり、ノーマークだった敵が意外な能力を持っていてめちゃくちゃ苦戦したり、反則気味な能力で一瞬で殺されたり、勝ち目のない敵に能力的な起死回生の術を考えだして逆転したり、複雑な能力を持つ人間らが三つ巴四つ巴になってロジックの合間を縫うように殺しあって欲しいのである。すごい勢いで火を放つ! みたいな能力者が出てきて目の前に出てきた敵を焼き殺していく話が読みたいわけではないのだ。

そこについては心配していなかったけれども、ケレン味だらけの能力者揃いなので「いったいこの能力者同士がぶつかったらどうなってしまうのか!!」というワクワク感がある。「え、これはどういう世界観なの? ファンタジーなの? 」とおもうような世界観のガバガバさはあるが、最初から全力でガバガバなので対して気にならない。伝説の戦士であり第九回十二大戦の優勝者がいたり(十二年に一回開催され、今回が十二回目)、死体を操るネクロマンサーがいたり、能力を全開にすれば最強の一角と言われながらもその本質的な平和主義性から停戦交渉と和平の提案を軸に314の戦争と229の内乱を和解に導いてきた知る人ぞ知る比類なき英雄がいたりなどなど。

およそ能力バトルものに求める「ケレン味」といったものを完全に理解して突き抜けたようなメンバーのラインナップだ。西尾氏お得意のだらだらと語り続け、思考し続ける文章のノリこそないものの、その分切った張ったはいどっちかが死んだぁ! というスピード感がある。まあ、スピード感もケレン味もあるし、オチとしての驚きもきちんとあるんだけど、たかだか250ページ程で十二人を書くと一人一人が薄っぺらくなってしまうこともあって全体的な感想としては「まあまあ面白い」というところに落ち着いてしまう。「呆気無く死ぬ」系の短くまとまった能力バトル、それも小説となると数がずいぶん限られてくるので、非常に限定的ながらそういうのが好きな人にはオススメではある。

余談

余談だが、もちろん「呆気なく死ぬ系の能力バトル漫画」は、ジョジョやハンターハンターだけではなく無数に存在する。たとえば能力バトル漫画に個人的に大いに求めるところとして「自分の能力と敵の能力を把握した/把握していない状況での作戦検討型能力バトル」もあるのだが、僕のすべての望みを叶えたかのような小説が『戦闘破壊学園ダンゲロス』だ。漫画版も圧巻の面白さなので能力バトル漫画/小説好きとしては読まない手はない。続編の飛行迷宮学園ダンゲロスは個人的にはおすすめしないが。

戦闘破壊学園ダンゲロス (講談社BOX)

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余談2

干支でバトルといえば今はえとたまという干支同士(とそれ以外の動物全般)でなんだかよくわからない理由でバトルをする作品があるのを思い出したが、別に殺し合いではない。可愛い女の子たちが一人の男の子を中心にエロイことをしたりしながらだらだらとバトルをする、昔そういうのあったな〜〜と懐かしい気持ちを思い起こさせるアニメだ。ストーリー的に見るべき部分はほとんどないのだがバトルパートの3Dモデルと背景の創り込みが凄くて(白組さまさま)3D技術の進歩が楽しくてなんだかみてしまう。特にオススメではないが、まあ関連として。

えとたま 壱 [Blu-ray]

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