誰得読書会@渋谷付近 5月24日(日)16:00−18:00課題本:『SFマガジン700【国内篇】』の募集告知 - 基本読書⇐を実施してきましたのでいつもどおり開催レポを書きます。今回はまあ本がちと新刊から外れていることもあってそんなに集まらないんじゃないかなあと思っていましたけれども結果的に五人での開催となりました。毎度多くても七人ぐらいしか募集をかけないので五人というと適正人数でじっくり、ある意味ではだらだらと話が出来て楽しかったです。ちと時間をキリキリに詰めてしまったのが(飲み会とかもないので)残念ですが、まあまたやりますので。
SFマガジン700【国内篇】は本としては、これまで書籍収録されていない、第一級の人気作家のSFマガジン以外では読めないものを中心に集めていることもあって傑作選というわけではない。資料的価値というか、「おお、本に入ったのか」「読みたかったアレが読める」的な部分での旨味が大きい。特に目玉としては秋山瑞人さんの『海原の用心棒』が収録されていることで──これが傑作。SFマガジン700【海外編】はどれも平均点の高い作品群だったがテッド・チャンの『息吹』が飛び抜けて面白かったように、【国内編】ではこの作品が白眉でしょう。
読書会とはいったい何をやる場なのか──ということがよくわからないかもしれないので一応そのあたりを解説しておくと、誰得読書会ではほぼ課題本は複数人の作家が作品をよせるアンソロジー作品になることが多いので、各人が短編毎に5点! とか6点! とか点数をつけていく感じです。そこで、その点を付けた自分なりの根拠を述べる。別になんとなく、ひっかかるものがなかったからとか、単にもうぜんぜんつまんなかったから、とかそれだけでもいいわけですが、けっこう人によって点数がばらける。その上で点数とそれにまつわる根拠をあーでもないこーでもないと言い合うのは楽しいですよ。
今回は全体的にトリッキィな作品が多く点数をつけるのが難しいかったかもしれませんね。伊藤典夫さんのは小説ではなくてエッセィ(のしかも上下のうち下だけ)だし吾妻ひでおさんの漫画は自分の過去のSFマガジンにまつわる体験を綴るショートコミックエッセイだししょっぱなはいきなり手塚治虫の漫画で筒井康隆のは実験小説の極致みたいな感じでとても一見したところ小説とは思えません。年代も古いのは1963年、1966年ぐらいと本当に古い。【海外編】の時も思いましたけれども、短編はアイディア勝負なところもあってか、時の劣化(継承され、より洗練された形でフォローされたりするので)を受けやすい印象。
手塚治虫の「緑の果て」は「ソラリスやん。ソラリス。あれ、でもソラリスとどっちが先なんだっけ……?」と話題になったり平井和正さんの『虎は暗闇より』は周囲の人間の隠された欲望を解放してしまう能力者のお話なんですが「まあ、時代を考えればなかなか面白いよね……」どまりだったり。僕としてはけっこう発展性があって、長編とかにしたら面白そうだなと思う短編なので(能力的に面白いし)高評価ですが。でも実際には似たようなのは既にあるんだろうな(平井和正さん自身の手によるものもあるかもしれないし)。貴志祐介さんの初期作品である『夜の記憶』は、後に洗練された形で世に出る『新世界より』等の萌芽が感じられるSF作品ながら、まあ後期の作品を知ってから読むと「面白いし、ワクワクさせてくれるが、惜しい!」という感じ。
最多の合計44点を獲得した秋山瑞人『海原の用心棒』は鯨と乗組員を戦闘で失って一機取り残されたAI持ち潜水艦の物語。鯨らはなんでかわからないけれども、岩鯨と呼んでいる謎の敵に襲われている。若きスピードアイと、レッドアイと名付けられた潜水艦は、お互いの言っていることもわからないまま岩鯨らの襲撃を受けるのだが──、といった感じで物語が幕をあける。ハイテンション・海洋バトルSFといった感じでまたえらいところにボールを放ってくるなという作品。雌鯨がちゃんとツンデレヒロインじみてたりして(鯨なのに)かわいいのが「さすがだぜ秋山瑞人」と話題になってました。
むかしから人間以外の動物がまるで人間みたいに(ただしその人間以外の何かの特性を物語として取り込みながら)戦う作品が好きなんですけど(サバイビーとか。でもこれ動物じゃねえな)鯨バトル、熱い(一言)。猫を命がけのバトルに叩き込ませたりする秋山瑞人さんではあるが、鯨に変わってもなんら変わりなく熱い。純粋に戦闘の描写が、一匹一匹の鯨の覚悟キマってる感が、いちいちカッコイイ、カッコイイのだ──というなかなかソレ以外の感想が出にくい作品である。作品の根幹に関わる部分がわざとボカされていたりして(敵が襲いかかってくる理由、自陣営に敵と同じ班がある鯨がいるという謎の伏線っぽいもの)「これはいったいどう繋がるんだろう、なぜ襲いかかってくるんだろう」という部分についても提案がなされたりしていろいろ深読みも面白い短編です。
もう一つ評価が高かったのが、最後に収録されている円城塔さんの『Four Seasons 3.25』。隙間理論という、過去が確定されている部分、たとえばAとBがわかれた、というのは「事実として確定されている」としても、そこに至るまでの不画定な事実をちょこちょこっと変えたり、道筋をずらしたりして、徐々に「確定している部分以外の隙間」の歴史改変を行なうことで「AとBがわかれた、かもしれない」と事実を多少捻じ曲げることができうるのではないか──みたいななかなか笑えるロジックが鮮やかな四季と共に語られていく。
これについては誰が得するんだよこの書評のdaenさんが強烈にグレッグ・イーガンの『順列都市』内でメインアイディアとなる塵理論の話を語って、えーと、塵理論の方がスゴイ! みたいなことを言って読書会は幕を閉じました(ちゃんちゃん)。塵理論に関しては、順列都市 / グレッグ・イーガン - 誰が得するんだよこの書評 不死は実現可能!?― 猫でもわかる塵理論 - 誰が得するんだよこの書評 このあたりの記事は必読かと。これもう7年前の記事ですが、今読んでも気合が入っていて面白い。
本の交換会
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