- 作者: 中根研一
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2015/08/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書はその書名通りに近年成長目覚ましい中国経済、中でも映画の興行収入に占める割合がましていることを指摘/調査し、中国文化がどのような映画を好み、どのような映像受容の歴史をたどってきたのかを解説し日本映画を上陸させる芽はあるのかまでを論じてみせる。最初Amazonから届いた時にはその装丁がまるで雑誌の付録みたいなちゃちい感じだったので「なんだこれ」と思ったが、中身はちゃんとしている。
中国でハリウッド映画が興行収入を上げ始めた/流れが変わり始めたのは2007年あたりを境にしてのようで、この年にトランスフォーマーが2.82億元(現在のレートだと1元=19円)スパイダーマン3が1.5億元、ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団が1.45億元、パイレーツオブカリビアン/ワールド・エンドが1.26億元と1億元を突破する作品が続々と出ている。その後年刊輸入数の規制緩和などを経ながら2013年にはパシフィック・リムが6.96億元、アイアンマン3が7.68億元とその商業規模がましていることが如実に実感でいるようになる。
中国で人気のハリウッド映画
面白いなと思ったのが、ハリウッド映画の中でも中国で高い興行収入を得られる作品がえらく偏っていること。『いずれもがハリウッドの3D大作で、VFX等の特殊撮影技術をふんだんに使用した実写SF娯楽巨篇だということだ。アメコミヒーローに、ロボットに車が大人気である。』
近年の日本市場と比較した話も載せられており、日本ではトランスフォーマー/ロストエイジは年間ランキングでは12位。これが中国ではダントツの1位だ。日本で大ヒットしてそこら中でテーマソングが鳴り響いていた『アナと雪の女王』は中国市場では33位。中国で5位のパシフィック・リムは日本では33位。
年間ランキングを見るだけで中国のヒット作の傾向がたしかにアメコミヒーローとロボットや車に寄っていることはまるわかりだが、しかしなんでそんな差がうまれるんだろう。本書ではそれを次のように説明している。
中国の観客がこれらのSF超大作好みなのには理由がある。それは、それこそが劇場の大画面・大音響で鑑賞するに値する作品だからである。言い換えれば、視覚効果の少ないドラマやストーリー性重視の小品等は、自宅のテレビやPCモニターでDVDやネット動画を観れば十分と考えているのである。
そうはいってもそれは著者の主観的な感想なんじゃないの? とここだけ読むと思ってしまうが、このあと説明が入る中国電影家協会とどうやって変換していいのかわからない名前の芸術センター(おいおい)による『2014中国電影産業報告』という調査資料によるとある程度データでの裏付けもとれているように思える。著者は中国関連の著作を出している中国語・中国文化の研究者で留学などで何度も中国に滞在しているので、体験的なレベルでの実感もあるのだろう。
本書の後半部は主に中国での映像産業の受け入れられ方、日本がどう売り込むべきかの話が続くが、こっちもけっこう面白い。ドラえもんスタンド・バイ・ミーが中国で大ヒット(最終興行5.28億元で大作ハリウッド映画に並ぶ記録的な興行)を飛ばした理由や、中国でウルトラマンがどれぐらい重要な位置を占めているかなどなどなかなか日本にいるとわからない情報が多く楽しめるだろう。