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もうだめだ〜『ロボットの脅威 ―人の仕事がなくなる日』

ロボットの脅威 ―人の仕事がなくなる日

ロボットの脅威 ―人の仕事がなくなる日

自動化によって人間の仕事がなくなる! という論調は世間でありふれており既に何冊もの本が出ている。実際に、幾つもの「システムが人間の仕事を置き換えていく」例は紹介されていくのだがどのような相関があって、具体的にどの職がどのような技術によって何パーセント減るのかとかそういう試算がわからなかったりする。www.cnn.co.jp
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
本書も、主に米国にて生産性の伸びが報酬の伸びを多きく引き離している、国民所得に労働者の報酬が占める割合を示した労働分配率が21世紀に入ってから急降下を続けていることなど各種の仕事が失われ、賃金が上昇しない現象をあげテクノロジーの進歩と関連付けている。だが実際にはそれは全く異なる事象なのかもしれず、そこに本当にどれぐらいの割合の相関が認められるのかはわからない。

著者自身そのあたりは認めている。『私の考えでは、この章でずっと提示してきた証拠は、情報テクノロジーが過去数十年にわたって、「最も大きな」とはいえないとしても、かなり重要な役割を果たしてきたことを示すものだ。それ以上のことは経済史の学者たちにお任せしたいと思う。』 そういう意味では僕が抱いてきた疑問と期待に応えるものではないのだが、本書に限った問題点ではないのでおくとしよう。

では本書の価値はどこにあるのかといえば、豊富な事例集といったところだろうか。医療、翻訳、テキストライティングなど様々な分野、中国やアメリカ、日本で起こっている自動化による人員削減の事例集はどれ一つとっても「こりゃあ機械に仕事奪われますわ。無理ですわ。」と思わせるものだ。たとえば実際に人員削減の発表をしているものだと、中国のアップル社製品の部品製造を請け負っているフォックスコンは2012年に自社工場へ最終的に100万代のロボットを導入する計画を発表している。

高品質ハンバーガー製造の完全自動化に着手したモメンタム・マシンズ社によればファーストフードの店でハンバーガーを調理する従業員に平均で年間13万5000ドルの給料を払っている。アメリカ全体ではバーガー調理の人件費は年間90億ドルだ。購入費はともかくとしても年間のメンテナンス費用が1台あたり一人分以下であればスペースの節約にもなり、食材の調達など別の部分にコストをかけられるようになる。バーガーショップだけでなくコンビニなど幅広く展開できる可能性もあるだろう。

くら寿司なんかは既に寿司をつくるのにも届けるのにも皿の回収と洗うのもほぼ自動化して大きなコストダウンを達成しているし、既に自動化されているところも多い。サービス業ばっかりじゃねえかと思うかもしれないが、自動的に野球やサッカーの試合結果などを本職のライターがまとめたように文章を生成するソフトウェア<スタッツモンキー>など、一種の「知的産業」だと思われていた部分も既に自動化が進んでいることがわかる。翻訳とかね、これもさすがに10年以内には実用化されるでしょう。実際Kindleを使えば既に範囲翻訳で様々な言語の本が読めるし。

 ナラティブ・サイエンスのテクノロジーはフォーブズ誌などの一流メディアに使用され、スポーツ、ビジネス、政治などさまざまな分野で自動化された記事を生み出している。同社の粗テュとウェアはおよそ三〇秒ごとに新しいニュース記事を一本書き終えることができ、その多くが有名ウェブサイトに掲載されているが、サイトのほうはそうした事実を認めたがらない。二〇一一年の産業懐疑でワイヤード誌のライターのスティーヴン・レヴィは、ナラティブ・サイエンスの共同創業者クリスチャン・ハモンドに、アルゴリズムによって書かれた記事は一五年以内に全体の何パーセントを占めるようになるかと問いかけた。ハモンドの答えは、「九〇パーセント以上」だった。

マクドナルドやコンビニの仕事は比較的簡単で、ある種のセーフティネットのように機能していた部分があるだろうが、なくなってしまった場合いったいどうなってしまうのか。ほとんどの人が仕事をしなくてもベーシック・インカムなり、もう少し別の形の再分配制度でうまく回ればそれでいいのだが、それ以外の問題が山積みだし。テクノロジーが与えてくれるプラス効果もあるだろうが、日本は今後の少子高齢化が深刻で、医療費は増大し年金は破綻し介護にありつけない老人が溢れかえるだろう。

では、今後どうすればいいのかといえば、仕事の減少がどの程度テクノロジーの進歩によっているのか、どの程度の速度でテクノロジーの進歩が進んでいくのかいまいちわからない現状ではそれを述べるのは難しい。本書でもベーシック・インカムの提唱など幾つか上げているが、あやふやな状況で対策を述べる意味は特にないように思う。教育に力を入れるぐらいは、外さない対抗策になりえるだろうが。

『ザ・セカンド・マシン・エイジ』と大きく離れる内容でもないから、このテーマに興味があるならどちらかを読んでおけばいいかなという感じ。それ以前に、ここ最近この手の話ではあまりいい本を読んだ記憶がないんだけど。

ザ・セカンド・マシン・エイジ

ザ・セカンド・マシン・エイジ

  • 作者: エリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson),アンドリュー・マカフィー(Andrew McAfee),村井章子
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2015/07/29
  • メディア: 単行本
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