現代思想 2015年12月号 特集=人工知能 -ポスト・シンギュラリティ-
- 作者: 新井紀子,小島寛之,石黒浩,茂木健一郎,竹内薫,西垣通,池上高志,三宅陽一郎,山本貴光,ドミニク・チェン,西川アサキ,藤原辰史,磯崎新
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2015/11/27
- メディア: ムック
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WIRED VOL.20 (GQ JAPAN 2016年1月号増刊)/特集 A.I.(人工知能)
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東ロボくんプロジェクト
個人的に興味があるのは「いまどこまで出来るのか」っていうのと、「これから先できるようになる見通し」だった。「人工知能が人間の仕事を奪う」といっても、確かに金融分野やハンバーガー自動製造機とか、自動の応答システムでコールセンターや販売員が置き換えられている具体例こそある。あるけれども、そうした具体例では今のところ「仕事を追われた人間は別の仕事にうつるのか?」それとも「別の仕事にうつることもできないほど完全に代替されてしまうのか?」、「人間は仕事をしなくても生きていけるようになるのか」などの問いかけにはほとんど役に立たない。
そういう意味では、やはり東ロボくんプロジェクトの話がわかりやすく「何ができて」「何ができないのか」という実情、人工知能の能力を伝えているように思う。東ロボくんプロジェクトとは「ロボットは東大に入れるのか」というプロジェクトの略称で、国立情報学研究所のグランドチャレンジとして2011年にはじまっている。2021年度の終わりまでに東京大学の入試を突破することを目標としているようだ。
でもこれ凄いのが、今年の東ロボくんは高校3年生と一緒にベネッセのセンター模試を受験して偏差値が58だったんだよね。東ロボくんがどうやって問題を解くのかといえば、機械なんだから当たり前だけど凄く機械的なんですよ。「600字で○○について書け」という問題があったら、指定キーワードを検索して関係性の高そうな文章を選んでくる。600字に入りきって自然な文章になるように、途中で刈り取って整えなければならないけれどそのへんはまだ人工知能は難しい(できなくはない)。
意図を察しているわけでもなく、適当に知っていることをとりあえず600字並べました程度だがそれをやると部分点が出て、人並みの偏差値は出てしまう。ようは「人間ってその程度」ともいえるし、東ロボくんは検索して持ってきているわけだから「人間って能力の低い方の人でも結構凄いね」とどちらを褒めるべきかは人によって違うだろうが。もちろんここでいっているのは記述式の問題であって、数学や物理ではまったく別の解き方を人工知能は要請されるが、その解き方も強引で面白いのだ。
新井 多くの方が、数学はパターンと公式で解くんだろうと想像されると思うんですが、全然違います。タルスキによる数学基礎論の定理に沿ってクリーンに解いています。でも、すごく時間がかかる。実は、証明が短くなるかと思いまして、いわゆる公式なども入れてみました。でも、「公式は要らない」とうちの子(東ロボくん)は言うのです(笑)。
自分で言うんだったら仕方がないな(笑)。これはほんの一例で、たとえば国語でも一番配点が高い「傍線部に一番近い選択肢はどれか」みたいな問題があるが、人工知能では解きようがないので傍線部の前の段落に出てくる文字を「あ」が何回、「い」が何回と数えて、選択肢の方も同じく数えて、ベクトルをつくって両者の距離を測ることで五割あたる=偏差値が50超えるようになる。無茶苦茶だが、一応半分当たる。
つまるところ、人間が解くようには、人工知能は問題を解かない。人工知能が得意なのは、検索・分類・審査・最適化だが、ようはそれが「ぴったりと当てはまる部分」ならうまく問題が解ける。あるいは部分的にでも当てはまるようであれば、なんとかそれっぽく問題が解ける、というのが実情だろう。うまくあえば電卓のように軽く人間を超え、ある場合には人間が猫を猫として類型化し理解できるのと同じことを、膨大なパターン分析を通してなんとか分類するように。
そう考えると、「仕事がまるまる置き換わってしまう」というよりかは、「仕事の7割ぐらいが人工知能に代替されるようになる」、「その結果、効率的になって人員が経る」って方が実情に近いんだろう。『弁護士の仕事の大部分は、法定で争うことではなく、新しいケースと過去の判例とを照らし合わせるという類似問題を解くことです。ですから、判例がすべてデジタル化したときには、相当部分はAIで解けるということになります。』問題はそうした状況は格差に繋がるのか? あるいは、仕事をしなくてもよくなるのか? という部分だが、そこは読んで確かめてもらいたい。
ロボット分野、サイバネティクス分野でも日々実験が進んでいて、石黒浩さん達はロボット演劇までやっているし、Pepperはそこら辺にいるしで、「明確なブレークスルー」は実際のところ既に終わっていて、あとは個別具体的に洗練と進歩が起こっていくことで、自分たちでもあまり意識しないうちに人工知能が巷に溢れかえっている(というか、それは既に起こってるんだけど)んだろうなと思わざるをえない状況が浮かび上がってくる面白い特集であった。