シリアルキラーズ -プロファイリングがあきらかにする異常殺人者たちの真実-
- 作者: ピーター・ヴロンスキー,松田和也
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2015/10/23
- メディア: 単行本
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シリアルキラーっていったって、日本だとこの100年間で10例に満たないので「たまにそういうことをする狂人がいるみたいだなあ」ぐらいの捉え方をしている人が多いかもしれない(というか僕がそうだが)。実際にその物の考え方や捉え方は一般的なものとはかけ離れていることが多いが、しかしそこには狂人なりの理屈が通っており、一定の傾向と分類が可能なようである。FBIは捜査をする為にそうしたプロファイリングデータを収集するし、心理学の研究者は純粋に研究対象として彼らを見る。
本書はそうした各種分析や調査を元に、シリアルキラーズの歴史を遥かローマから遡り、具体的にどのような分類と統計データが存在しているのかを取り上げていく一冊である。まず、日本のたかだか10人以下の事件例とは違って、世界をはるか見渡してみると平気で数十人単位で殺していたり、少年を殺してから死体の側で脱糞したり、殺した人間の頭蓋骨で祭壇をつくって肉を喰っている男などなど理解し難いクレイジーな例がいくらでもあるのが面白いんだよね。
女シリアルキラー
シリアルキラーといえばほとんど無意識的に「男」を想定してしまうのだが、実際は連続殺人犯の5人に1人は女なのだという。しかも女の方がより残虐で、殺す数も多い。男は死体を放棄して地域を震え上がらせたり、自分自身が連続してやっていることを誇示する為にわざと痕跡を残したりする事があるが(クリップを落としたり、印を入れたり)女のシリアルキラーはそういうことは滅多にしないからだ。
犯行期間は男の二倍──男のシリアルキラーの平均が四年と少しであるのに対して、女の場合は八年も続く。その犯行はしばしば自宅で、あるいは病院や養老院、下宿屋、ホテルなどの仕事場で行われる。その場合、殺人として認識されることすらない場合もある。(…)女シリアルキラーの動機は単発殺人鬼や、男のシリアルキラーの動機とすらもかなり異なる。平均して七四%の女シリアルキラーは少なくとも部分的には個人的な経済的利得を動機としている。その中産階級敵野心の悲しい反映である。
シリアルキラーの分類
一方で男の典型的なシリアルキラーは個人的な支配欲や権力欲、自らの欲望や快楽のために殺し、一般的な殺人事件とは大きく異なりそのほとんどはまったく関係のない他人だ。その動機も幾つかのパターンに分けられる。
たとえば幻視型と呼ばれる、幻覚、もしくは内的の声の指令によって殺すパターン。特定の種類の人間を排除することが自分の使命だと信じる使命パターン。殺しのスリルを楽しむ、死体の血を飲むなど独特の利得の為に殺す快楽主義パターン。被害者に対して権力と支配を行使できることを楽しむ権力/支配志向パターン。
それぞれのパターン毎に犯人の年齢層が見られ、どのような行動をとるか(広い地域か、一箇所に留まるか)などサブカテゴリが存在しているのもまた「理解し難い狂気、それ自体もまた分類可能なのだ」とわかって面白いところではある。恐ろしいが。
当然捕まっていないやつがいるだろう
本書の著者は別段シリアルキラーの専門家ではなくジャーナリストであり、「かつて二人のシリアルキラーと偶然すれ違った」ことからこの件に興味を持ったとしている。この広い世界で二度もすれ違ったぐらいだから、「実際にはもっとすれ違っているのでは?」と疑問に思うだろうが、実際、合衆国においては2001年における殺人事件のうちで解決したものは62.4%にすぎない。まあ、元々犯罪多発国家であるからというのはあるがひでえ話だ。全然そのへんですれ違っていてもおかしくないよ。
でも本書には最終章に「シリアルキラーから生き延びる」と題して、もしもの時にどう逃げたらいいかが書いてあるから安心。FBIによれば最も効果的なのは語りかける──「まずその前に一緒にビールでもどう」と誘い、逃げるための時間を稼げという。襲われかかっている時にそんなこと言ってられるのかと思うが、身体的な抵抗をすると相手の暴力が激化する傾向があるから「それよりはマシ」程度のようだ。アドバイスも「38口径のリボルバーを枕の下に入れろ。暴発の心配はねえ。」とか日本とはまるで無縁の世界の話だが、知っておいて損はないだろう。
この記事では特に触れていないがジル・ド・レ、バートリ・エルジェーベトなど数百年単位で昔の「連続殺人鬼小史」などもあり、シリアルキラー物としては決定版といえる出来。本国でも長くに渡って売れているようだ。