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地球温暖化は金になる──『地球を「売り物」にする人たち――異常気象がもたらす不都合な「現実」』

地球を「売り物」にする人たち――異常気象がもたらす不都合な「現実」

地球を「売り物」にする人たち――異常気象がもたらす不都合な「現実」

コロラド川は干上がりつつあり、北極圏の氷は減り続けたかと思いきや体積が突如として増えたり、太陽の活動いかんによっては地球は今後寒冷化していくという予想もあって地球の気候はどちらに振れるのかはわからずてんやわんやだ。とりあえず世界の平均気温の推移だけをみていると上昇を続けているのは確かである。

基本的にこの地球で起こっている気候変動は「悪いもの」として語られることが多い。実際問題川が干上がって水が足りなくなったり、ただでさえ暑い夏がこれ以上暑くなって、さらには海面が上昇して自分の住んでいる島が沈没なんかされたらたまったものではない。一方であまり意識したこともないが、そうした状況が「利益になる」人たちがいるのも少し考えてみればわかることだ。

気候変動が利益になる人たち

たとえば気候変動が農作物の収穫高に悪影響をもたらすのであれば、消費者は食料品に多くの金を使わなければならず小売はその恩恵を受けるだろう。気候変動によって洪水や早魃が頻発すれば保険会社は安全を金に変えることができる。北国の人たちは温暖化によってより過ごしやすくなり、北極には石油や天然ガスなどの資源が手をつけられずいまだ大量に眠っている。

 ロシアだけが、ほかの北極海沿岸諸国が気づきはじめたことを声高に口にすることになる。「地球温暖化は一部の国にとっては壊滅的かもしれないが、われわれにとってはそれほどでもない」と、天然資源省のスポークスマンは言いきった。「むしろ、好都合でさえある。農業や工業に使えるようになるロシア領が増えるだろうから」。プーチンは、もっとくだけた言葉を使ったこともある。「われわれは、毛皮のコートなど、防寒具の出費を節約できるなど」

上記は非常にわかりやすい例だが、地球温暖化は金になる(人もいる)のである。本書は気候変動をめぐって何が起こっているのかを取り上げたルポタージュだ。

著者は6年もかけて北極からバングラディシュ、アフリカなどなど世界のあらゆるところにいって気候変動で金儲けを画策している人々への取材を行っている。見て、聞いたことをそのまま紹介し著者自身の価値判断が挟まれない著者のスタイルは利点でもあるが、取材とはいえ基本的には気候変動によって稼ごうとしている起業家、政治家などがジャーナリストへ向けてペラペラと喋るセールストークなわけで、それをそのまま書かれてもと微妙に思うところもある。

それでもほとんど意識したことのない「気候変動による利益」の面に視点を当てて、文字通り世界中を駆け巡って事例を集めてきてくれているわけで、内容がどこまで正しいのかは個々人が判断しなければならないがなかなか価値のある一冊だ。

地球温暖化ビジネス

「地球を「売り物」にする人たち」などというかなり攻撃的な邦題がついてはいるが、原題は「Windfall The Booming Business of Global Warming」でありそこに攻撃的なニュアンスは感じ取れない。実際、気候変動に乗じて稼ごうとしているとはいえ当然暴利を貪ったりしようとしている人間ばかりではない。

北極に近い場所に住んでいる人は暖かくなれば単純に嬉しいだけだろうし、早魃が進行している地域であれば海水を淡水化するなり他の手段によって水を調達するなり生成するなりしなければそこに住むことはできない。イスラエルでは2020年までに水道水の4分の1を海から採るという計画のもと、海水淡水化プラントが増えているようだが政府の計画であって市民の水は補助金によってまかなわれている。

「2020年には」とバー博士は続けた。「世界の人口のおよそ3分の1が、淡水をしっかり確保して利用することができなくなります。世界の水の消費量は1日1人当たり50リットルから100リットルです。ですから不足人口を考えて、それを25億倍してみてください! それだけ必要になるのです。潜在的市場は、と訊くのなら、それがその潜在的市場なのです!」

二酸化炭素の影響による地球温暖化は懐疑論もあるが、とりあえず実態として世界中で気温はしだいに上昇しており、水温が上がって海からの蒸発が増え、気温が上がっているために湿気が凝結できず雨が減りとくれば水が不足するのは必然である。それは「将来における水の潜在的市場」と呼べるものなのだ。善い悪いというものではなく、確実に(というほどではないが)存在する事実である。

とはいえ問題がないわけではない。

とはいえ問題がないわけでもなく、悪い部分もある。海水淡水化プラントは莫大な電力を必要とする関係上、二酸化炭素排出量は上がる一方だ。

水不足の派生として「旱魃によって使えなくなる農地を代替する新しい農地の奪い合い」も発生しているが、これも実は不平等の上に成り立っている。ある土地については気候変動によって農地として使えなくなるが、違う場所(カナダなどの高緯度の国々)は気候が温暖化するにつれて生産性が上がる、土地の価値が上がるのだ。

別にそれだけなら自由に土地の売買をしてねで終わるところではあるが、現状ウクライナなどの土地は安く、金を持っている先進国の投資家が将来の値上がりを見越して農地を買い漁っていく状況は「温暖化を引き起こしている側の人間が、温暖化への影響力が少ない人から搾取している」ともいえるわけで、問題は根深いものがある。

いくらでも出てくる地球温暖化ビジネス

海面の上昇によって沈む島も出てくるが、そういう島ではまた全く別の需要が生まれている。たとえば、経済が観光に立脚している島などでは海岸に広がるビーチ・リゾートへの投資が滞っている(沈没する可能性があるから)状況が既にあり、打開策として「浮遊式ビーチ」のような海面上昇に対応する人工ビーチ技術の開発が進んでいるのだ。基幹となる技術はバクテリアにより生成された人工砂岩であるといって堂々と喋る経営者の話を紹介しており、どこまで本気なのかわからないがこうした技術開発は観光島だけでなく広く役に立てられるものだろう。

旱魃が進行しているならそんな状況でも成長する遺伝子組み換え植物とつくろうとする試み、保険業、人工雪製造、気候それ自体を操作しようとする気候工学など、さまざまな分野で気候変動に対応する需要と技術が生まれ続けているのが現状といえる。一言で善だ悪だと言ってのけられるようなものでもなく、たとえば遺伝子組み換えであったり保険業であったり、地球の気候をまるごとどうにかしようとするテクノロジーであれ、個別にそのリスクとベネフィットは検討するべきものである。

おわりに

不自然なほど気候変動に対応するニュースは「それがどんな悪いことを引き起こすのか」に集中しているが、本書はその裏側で「温暖化が利益になる人たちもいる」ことを明らかにしてくれる。これ一冊でわかったような気になるというか、あくまでも土台にして、議論を重ねるための一冊といえるだろう。