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なぜ彗星は地球に衝突するのか──『ダークマターと恐竜絶滅―新理論で宇宙の謎に迫る』

ダークマターと恐竜絶滅―新理論で宇宙の謎に迫る

ダークマターと恐竜絶滅―新理論で宇宙の謎に迫る

書名に入っている「ダークマター」と「恐竜絶滅」、どちらもなんてことない単語であるが、かけ離れた関係性の単語なだけに、心配になるぐらい胡散臭い本だ。

とはいえ著者は『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く』など数々の著書/実績に加え、ハーバード大学の教授である理論物理学者リサ・ランドールである。きっとおもしろいはずだ。しかし……本当にだいじょうぶかぁ? と怪しみながら読んでみたのだが、これがたしかにおもしろい──そして、しっかりとしている。

見事に「ダークマター」と「恐竜絶滅」という結びつきそうもない両者を結合し、そこにどのような背景が存在しているのかを丁寧に解説してみせる。大胆な仮説を提示しながらも、「その仮説を説明する上で必要となる前提知識」を紹介していくうちに宇宙論や太陽系科学、生物の誕生についての基礎を学べる構成も見事である。

そもそもダークマターと恐竜絶滅の因果関係についての追求、それ自体は本書のメインコンテンツではない。いわば一種の釣りタイトルみたいなものだ。彼女が行う研究は、もっと前段階の疑問に立脚しており、たとえば『流星物質と太陽系の力学、そして物理的なクレーター記録に周期性があるかどうかの問題』のようなものである。

周期的な絶滅と彗星

恐竜絶滅は一般的には小惑星、もしくは彗星の衝突が根本原因だと言われるが、これが小惑星だった場合には、その出自はある程度わかっている。火星の外側にある小惑星帯から小惑星同士がぶつかることによってはじき出される──などなど。

しかし彗星の場合は話は別で、長周期彗星の出自は「太陽系の最外縁部に存在するオールトの雲と呼ばれる小天体の集まり」だとわかっているものの「なぜ安定した軌道にあるのに追い出されてしまうのか?」について正確にはわからないままであった。

そこで私たちが考えたのが、太陽が天の川銀河の中央平面──晴れた夜の空に見ることのできる明るい星と塵の縞模様──と交差するときに、太陽系がダークマターの円盤にさしかかると、その影響で太陽系の外れの天体が弾き飛ばされ、最終的に地球に衝突して大変動をもたらしたのではないかというシナリオである。

ダークマターとは光と相互作用しない為に今のところ一切観測できていないものの、重力などで周囲に影響を与えることができる為に天の川銀河の星の回転速度から近傍のダークマター密度を測定するなど仮定的に推測することはできる。

で、現状の観測だと天の川銀河と太陽系が接近したところで彗星を弾き飛ばすほどの引力を(まったく不可能なわけではなく、稀には弾き飛ばされているとは思われているが、後述する周期性などは不可能。)与えられる重力は存在しないのだけど、天の川銀河の中央平面に薄い円盤となって凝縮している「新種のダークマター」の存在を仮定することで、理論的には彗星を大量に弾き飛ばす急激な変化が得られるのだ。

こうした仮説を軸に、たとえば生物の絶滅には周期性があるのではないかというよく聞く仮説──『2700万年周期で確率が高まると思われる時期の前後300万年以内でほとんどの大量絶滅が起こっており、しかも、ほぼ必ず、6200万年の時間枠のなかで種の多様性が減少しているあいだに起こっていることがわかった。』*1についても、ある程度の説明をつけてみせる。周期的な衝突があるとすれば──『オールト雲に対する揺さぶりの頻度に、定期的に急激な変化が生じる必要がある』わけだが、これについてのわかりやすい理屈になるのだ。予測の周期もある程度は一致している。

地球の環境変動における周期性ついては、生物の絶滅の他にもクレーター跡の周期を調査する研究、気候が3200万年の期間で変化しているとする研究など様々であり、宇宙の観測だけではなく地球側の研究からの裏付けも進むかもしれない。「新種のダークマター」を想定しなければいけないところが仮説としてはぶっ飛んでいるが、今後天の川銀河の観測が進めば明確に「正否」のつけられるのもありがたいところだ。

おわりに

恐竜絶滅から周期的な気候変動まで、地球が地球だけで完結しているわけではなく、宇宙全体の(は言いすぎかもしれないが、太陽系近郊の)相互作用によって成り立っている惑星なのだというのがよくわかる一冊だ。普段生活している範囲では世界はまるで平面のようにみえるが実際には歪んだ球体が地球であるように、たまにこうした本を読むと認識し得ない世界スケールを体感できるのがおもしろい。

*1:ただ、この仮説自体は弱い根拠があるだけで、それもまだ完全には否定されていないだけという微妙な状況がある。