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ライフスキルとしての批評──『みんなではじめるデザイン批評―目的達成のためのコラボレーション&コミュニケーション改善ガイド』

みんなではじめるデザイン批評―目的達成のためのコラボレーション&コミュニケーション改善ガイド

みんなではじめるデザイン批評―目的達成のためのコラボレーション&コミュニケーション改善ガイド

  • 作者: アーロン・イリザリー,アダム・コナー,長谷川恭久,安藤貴子
  • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
  • 発売日: 2016/05/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「デザイン批評」と書名に入っているが、副題をみればわかるように実際は広義の、目的達成のためのディスカッション手法の本だ。原題は『DISCUSSING DESIGN Improving Communication & Collaboration Through Crtique』となっている。

よりよい目的達成のために、お互いの成果を批評しあってフィードバックを与える。言うのは簡単だし、実際しょっちゅう会議や打ち合わせという名目で同じようなことは行われるが、うまく行われている例は実体験からいっても少ない。曖昧模糊とした指摘がきたり、そもそも何を言っているのかわからなかったり、何のために言っているのかよくわからなかったり、あまりに主観的であったりする。

 批評は有益なものであるはずだ。何が機能していて何が機能していないのか、目標達成に向けて正しい方向に進んでいるかの理解を促す分析でなければならない。しかし、多くのチームが行っている批評やフィードバックはその役割を果たしていない。

『批評を分析・定義し、与える側と受ける側、それぞれの観点から見た批評のよいやりかたや悪いやりかた、そして難しい側面について検討していく。』と本書の目的が冒頭で語られているが、確かに批評にはよいやりかたと悪いやりかたがある。僕はプログラマなので必要性のわからない会議/ある種の批評の場には多く出てきたが、今後同様の場ではデザイナか否かに関わらず全員この本を読んでもらいたいぐらいだ。

目的は何か?

本書は批評にまつわる技術的な内容が網羅されていくので、全体を要約するつもりはないのだがいくつか重要なポイントだけピックアップしてみよう。たとえば、批評(およびディスカッション)を行う上でおさえておくべきなのは、まず「目的は何か?」と問いかけることだ。デザインであれば、そのデザインはどのような目的のもと決定されているのか? という問いに答えられなければならない。

それがチーム間で共有できてはじめて、「このデザインは目的にかなっているのか/かなっていないのか」「デザインが目的にかなっている/かなっていないのだとしたらそれはなぜなのか」という議論ができるようになる。逆に、この目的がチーム間で共有されていないと全員バラバラの目的に向かって意見を言っているわけなので、始まる前からまとまるはずがないことがわかってしまう(これはかなりあるある)。

「目的は何か」が明確にされると、やっていいことと悪いこともはっきりしてくる。たとえば、悪いパターンだと「批評を与える側の好みでフィードバックする(好みじゃなくてちゃんと目的に合っているかどうかを考えてフィードバックしろボケカス」とか。あなたの考えがどうであろうと、フィードバックを頼まれたわけでもない限り自分の分析を相手に伝えるもんでもないぞとか「そんなん当たり前だろ笑」って感じもあるのだけどかなり基本的なところから詰めてくれるのがありがたい。

「やっていいこと」の方については、『優れた批評は、意見の表明というよりかは質問といった方がいい』というのは卓見だなと思った。「これはよくないと思う」と意見を言うのではなく、「[具体的な特徴または要素]の目的について、もう少し詳しく教えてくれますか?」とか、「[特徴/要素]について他のどんな候補を考えていました?」と質問を投げかけていくことで、「あるべき形」を模索していくのも批評であるということだろう。意見がくると「うっ」と詰まってしまうが、質問が具体的であれば答えやすいし、答えを引き出すことで情報は増え会話は前に進んでいく。

仮にこれはあんまりよくないんじゃないかと思う部分があっても、それを直接言ってしまうよりかは質問を重ねていって相手の意見も出し、自身に気づかせ、自然な合意としてそこに到達できたほうがより納得感の高い話し合いになるだろう。

ライフスキルとしての批評

とまあ、こんな感じで他にも「扱いにくい人に対処する方法」「やっかいな状況に対処する方法」「準備、批評を取り入れる方法、やってみる」などなどディスカッションをしていく上で問題になりそうな部分を網羅的に記載されていく。買っておいて、必要なときに必要な部分を読むのでも役に立つだろう。

そんなことを知っても、結局一緒にやっている人やあるいは積極的に導入できる立場にある人が本書を読まなければ意味がないではないかと思うかもしれないが、個人でも役に立つ部分が多い。会議や打ち合わせの場で効率的な進め方を知っているのは有利である。「この会議には共有の目的が欠けているな」と思ったら、積極的に目的を共有できるように働きかけることもできるし、少なくとも自分が批評する側にたった時には本書で述べられているノウハウは有益である。

そもそもここで述べられている批評とは、目的を念頭におきながら何かをデザインしていくこと全般(生活、仕事、趣味)なのだから、デザインや仕事、会議や打ち合わせでしか役に立たない物というよりかは、『アーロンと私は大胆にもこう考えている。批評は単なるデザインスキルではなく、ライフスキル』なのだ。

本書では、ちょっと昼飯でも食べながら意見を聞きたい、といった「雑談」みたいな物も批評のうちに含めている。友人との会話で人生方針におけるフィードバックをもらうのも意味があることだろうし、人と人が目的達成のためにコミュニケーションをとるため全般に使える、けっこう応用範囲が広い本である。