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虫だらけの惑星──『昆虫は最強の生物である: 4億年の進化がもたらした驚異の生存戦略』

昆虫は最強の生物である: 4億年の進化がもたらした驚異の生存戦略

昆虫は最強の生物である: 4億年の進化がもたらした驚異の生存戦略

  • 作者: スコット・リチャードショー,Scott Richard Shaw,藤原多伽夫
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/07/13
  • メディア: 単行本
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昆虫は最強の生物である──と断言されると、いったい最強とはなんなのだ。人類じゃなくて? と疑問が湧いてくるが、まあ「最強」の定義次第といったところだろう。たとえば、人類はこの地球上に種そのものを脅かす天敵はいないわけで、その観点からいえば「人類は地球最強の生物」といってもいいだろう。

しかし別の観点からすると、おそらく人類最強の個体である範馬勇次郎だって病気や癌によって死ぬわけでそうした抗いようのない病気/生命原理が最強なのか? ということにもなる。「個体」が最強なのか「種」が最強なのかにも違いがあるだろう。とここで昆虫の登場である。これまでに発見され、命名された昆虫は100万種、名前もついていないものも含めれば何千万種にも及ぶという膨大な数になる。

仮に異星人が地球にやってきて、その支配領域の広さと個体数、種の多さによって「支配者」を決め、コンタクトを取ろうとしたら──その交渉相手は人類ではなく昆虫になるに違いない(と書くと各方面から異論がとんでくるが)。著者も下記のようにとうとうと、節足動物である昆虫がいかに人類より素晴らしいかを述べてみせる。

ここで読者の皆さんに提唱したい。動物の体の形として優れているのは、外骨格のほうだ。有害な排泄物を体内に蓄積するのではなく体外に排出したほうがいいから、排泄物を利用した外骨格のほうがそもそもはるかに発達しやすいし、言うまでもなく天敵から身を守れるという直接の強みによって繁栄の可能性はぐっと高まる。(…)さらに、現存する脊椎動物のすべての種を足しあわせても、天文学的な数の種を擁する節足動物の何分の一にも満たない現実を考えてみてほしい。

まるで興奮したオタクのようにまくしたてているがいうことはわからんでもない。

本書はそんな素晴らしい昆虫が4億年以上にわたる期間で「どのように進化してきたのか」を記した昆虫の進化史だ。読了後、道端でセミの死骸を見た時に「言われてみれば、こいつらけっこう凄いことしているな」としみじみ思ったが、日常生活の中に溶け込み、地球上の至る所へと散らばり、繁栄し続けている昆虫がいかに凄いのか、その理屈を本書は徹底的に教えてくれる。

完全変態のすごさ

たとえば、多くの昆虫が幼虫からさなぎを経てまったく別の形と機能を持った成虫になる「完全変態」を行うが、これも考えてみれば考えつかないほど複雑な仕組みである。しかもこの仕組みは複雑なだけあって、無数の恩恵を昆虫に与えてくれる。

まず、この機能によってイモムシが葉っぱを食べ蝶は蜜を吸うといったように、成虫は自分の子孫と食べ物をめぐって競争せずにすむようになった。そのうえ、翅などの移動のために必要な目立つ上にもろい機構は幼虫時には存在せず、目立たない環境で効率的に食事ができるようになった。食事に時間を使わないおかげで、成虫になったあとは求愛や交尾、産卵といった活動に集中することができる。

さなぎになってからも、内部では筋肉が再構築され胸部には飛翔に使われる大きな筋肉が形成され、生殖器や翅、感覚器といった成虫バージョン専用の機能も構築される。あらためて説明されると凄いことをやっているのである。現存する昆虫種の75%以上がこの完全変態を行うが、それだけこの仕組みが生存において有効であるひとつの証左といえるだろう。

もちろんこういった仕組み──「完全変態」や「翅」の機構は、最初からあったわけではない。本書ではカンブリア紀あたりの節足動物から古生代、白亜紀などを経て新生代にまで至る進化の道程を記述していくが、節足動物が陸上に上がった理由、昆虫が空を飛ぶようになった理由、完全変態誕生の経緯など昆虫を語る上で外せない「進化史における重要なポイント」に沿って丁寧に解説されていく。

読むことで生活の中で役にたつといった類の本ではまったくないが、読んだ後はちまたで見かける多種多様な昆虫への見方大きく変わっているはずだ。夏ということで昆虫に接触しやすい季節でもあるし、ポケモンGO片手についでに昆虫も探して、そのすごさに思いを馳せてみたらどうだろうか──とかいいつつ僕は昆虫大嫌いだからわざわざ虫を探すために外になんて絶対いかないけど。

ちなみに昆虫本としては『昆虫の哲学』もえがったのでどうぞ。リアルな虫は嫌いだけど情報としての虫は好きなのである。

昆虫の哲学

昆虫の哲学

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